第8話 ウチのコ①

フーーハハハッ!


やったぞ!

オレはとうとう無敵になった!


もう、何も怖いものはない!


スパムだろうと、フィッシングだろうと、ウイルスだろうと。

【根源世界】に住まうオレに攻撃を仕掛けることは出来まい。

まして、架空請求など何の意味もない。

そもそも、ココにたどりつけるわけがないのだから。

まあ、たどりついたところで、完全に治外法権だがな…。


もう、どんないかがわしいサイトだろうと、へちゃらだ!

何も恐れることなく、クリックできるのだ!


フーーハハハッ!


………


………


……ふぅ



…ということで、



デパートが完成するまでの時間つぶしもかねて、世界各地のエ◯サイト巡りを始めたんだけど、こういうのって、なかなか見つからないもんだね。


それに、見つかっても、ガイジンさんの映像だと、なんかこう濃すぎるっていうか、脂ぎってるっているか。


やっぱり、日本人がいいなあ…って思うよ。



でも…。



日本人がイイ!…なんて思ってるオレ自身は、果たして、日本人なんだろうか?

たしかに、黒目黒髪ではあるんだけど、この【身体】は、【根源世界】で構築したモノだからね。

もう、日本製メードインジャパンじゃないんだよね。



日本人じゃないとしたら、いったいオレって、何人なにじんなんだろう?



こういう時こそ、《ステータス》で確認したらいいだろうって思うかも知れないけど、この【根源世界】には、なぜか《ステータス》がないんだよ。


今のところ、眼の前に表示されるのは、【時間表示】と【万物創造】のメニューとレベルだけ。



やっぱり、必要がないから表示されないんだろうね。

たしかに、オレが何人なにじんなのかなんて、いまさら、どうでもいいことだしね。

どこかに帰属してないと、なんか落ち着かない…とか、そういう感覚はすでにないから。



まあ、ふつうは、どこかに《帰属》していないと、不安でしかたがないんだろう。


だから…


日本に帰属して…、

家庭に帰属して…、

学校や会社に帰属して…、


ようやく人は、心の平安を得られるんだろうと思う。

それが、ホンモノの平安かどうかは別だけど…。


………


………


……さて、



オレは、眺めていたブラウザを閉じた。

いちおう日本人らしき女のコのイケナイ映像も鑑賞したことだし、そろそろ始めよう。


それに、いくら眺めても、この10歳児の肉体では、なんとなく盛り上がりに欠けるんだよね。

肉体が幼いと、精神的なコーフンもいまいちなんだよ。

コレもある意味、心身一如しんしんいちにょってやつかな?



オレは、ランチャーを立ち上げて、パスワードを入力。

ログインした。

もちろん、【FSO(ファンタジック・ストーリー・オンライン)】だ。


ネットがつながるから、ちゃんとゲームにもログインできた。


ああ…


ほんとうに、久しぶりにログインした。

【歴劫の試練】の期間もカウントすると、千年単位で時間が経過してることになるけど、こうして、ふつうにログインできるんだから、オレが日本を出てから、さほど時間が経過していないんだろう。

まさか、【FSO】が、数千年も続いてるはずはないからね。



【歴劫の試練】の数千年。

オレはまちがいなく異世界のニンゲンだった。


でも、あの神界の棺に帰還した時は、日本人に戻っていた。

もちろん、それは最初から知らされていたことだった。


コレって、なんか、ダイブ型の近未来ゲームに似てるよね。

気づいたら、ゲーム世界に閉じ込められてたよ…って感じの。



オレが、【歴劫の試練】に耐えられたのは、たぶん、そのお陰もあると思う。

【歴劫の試練】を、心のどこかでゲーム的に受け止めることができたんだろう。



まあ、そんなことを言い出したら、日本でのリアル生活だって、その気になれば、ゲーム的に認識することもできるのかもしれない。

リアルの自分を、ゲームのアバターのように見下ろすことができたら、もっと、うまく自分をコントロールできるのかもしれない。



いずれにしても。



ありがたいことに、【歴劫の試練】での経験全体が、夢の出来事のように霞んでいる。

ふだんは、意識の下に潜在していて、思い出す気になれば、思い出せるって感じだろうか。


そのせいか。


オレの主観的な時間感覚でも、ついこの間、日本を離れたような気分だ。





選択画面で、キャラクターを選ぶと、ゲーム内のタウンが画面モニターに映し出された。

近未来でも何でもないから、ふつうに、画面モニターに映ってるだけだよ。



画面の中央に出現した自キャラを、おいでおいでって感じで、近くに呼び寄せる。

まあ、じっさいには、キャラをアップで見てるだけなんだけどね。



【FSO】は、最近、グラフィックエンジンが新しくなったから、かなりアップにしても、画質が荒れない。

ありがたいことだ。



長い銀色の髪に、蒼い瞳。

ほんのわずかにタレ目なせいか。

いかにもやさしい女のコって感じに見える。


まあ、オレの心の中では、まちがいなく、やさしいコなんだけどさ。

【FSO】には、もちろん、そんな性格設定なんてないからね。



今は、セーラー襟の白ワンピースに、赤いベレー帽を被ってる。

ワンピは、もちろんミニだよ。


もう、何十回とリメイクした、オレの大好きな自キャラ。

【真白ちゃん】だ。



これから、このコを創るのだ。



ただ、オレ自身を、10歳くらいにしちゃったから、このコも同じくらいにするつもりだ。


そして、このコといっしょに、10歳児から人生をやり直すのだ。


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