第6話 悪夢
いま、目の前では、150センチくらいの球体がくるくると回っている。
…いよいよだ。
いよいよ、オレの願いがかなうんだ!
白い球体が、回転速度を下げてゆく。
すると、真っ白な髪と、透き通るような真っ白な肌が見えてきた。
ウチのコだ!
もちろん、年齢は、オレと同じ10歳くらい。
回転が止まると、ふわりと床に寝そべるように着地した。
なんかまだ、眠ってる感じ?
もちろん、ウチのコは、生まれたままの姿。
まあ、じっさい、生まれたばかりだし…
オレは、おもわず駆け寄った。
そして、ウチのコを抱きしめようと手を伸ばした。
しかし…。
オレの伸ばした手は、ウチのコに触れる寸前に、ぴたりと止まった。
そして…
オレは、
……ひいっ!
そ、そんな!
そんな馬鹿な!
ありえない!
なんでこんなことに!
「うわあああああああーーーーーーーーーーーーっ!」
…………
…………
………はっ?
『目を覚ましたようですね。ずいぶん、うなされていましたけど、悪い夢でも見たのですか?』
「…う、うん」
ああ、そうか。
夢だったのか。
助かった。
あのままでは、人生に絶望して、自ら命を断つところだった。
まあ、不老不死なので、死ねないけど…。
『睡眠を
「……くっ」
たしかに、この【根源世界】では眠る必要がなかった。
だから、最初の3日間くらいは、いろいろ創るのに夢中で、つい、寝るのを忘れていた。
たぶん、【身体】が細胞単位で絶えず更新されてるから、眠らなくてもへっちゃらなんだろう。
もしかすると、いわゆる心筋とか神経細胞とかってのも、かまわず入れ替わってるのかもしれない。
【不老不死】っていうんだから、きっとそうなんだろう。
ほんとうに、徹底的にファンタジーな世界だ。
それでも…
ふつうは、眠らないと精神が病んでしまいそうだけど、この【根源世界】では、それこそ、悪夢でも見ない限り、ストレスをほとんど感じない。
もちろん、喜怒哀楽をまったく感じないわけじゃない。
でも、そういった感情表現は、自分でも、ちょっと芝居がかってるかなって思う。
でも、この【根源世界】に限らず、ニンゲンの行動って、感情に限らず、どこか芝居がかってるところがあるよね。
そして、演技をしている自分を見つめている、もうひとりの《観客》としての自分がいるような感じがする。
おそらく、人生の達人なんて言われるひとたちは、この観客としての自分が、そのまま名監督でもあるんだろう。
そして、自分の人生を、思うがままに演出してるんだと思う。
うん。そんなふうに生きてみたいもんだね。
いずれにしても。
そんなふうに、行動が芝居がかってしまうのは、ニンゲンが、己の人生に、ドラマを求めるからなんだと思う。
それくらい、ニンゲンって、平坦な人生には耐えられないんだろう。
もしかすると、ネットでラノベを読みあさるのも、そのせいかもしれない。
………
ちょっと、話がそれちゃったけど、この【根源世界】では、ほとんどストレスを感じないんだ。
だから、肉体はもちろん、精神的にも疲れることがないみたい。
睡眠を
さらに、この【根源世界】で必要がないのは、睡眠だけじゃなかった。
この世界では、食事も排泄も必要がない。
やはり、最初の3日間ほどは、いろいろ創ることに夢中で、食事も排泄もすっかり忘れていた。
もちろん、水も飲んでいない。
ありえないよね。ふつうは…。
ただ、意図的に眠ることができるように、食事も排泄もやろうと思えばできる。
だから、こうなると、睡眠も食事も排泄も、むしろ、嗜好品的なものなんだろうと思う。
なんか。ラノベとかで出てくる神さまにでもなった気分だよ。
でも、これでもまだまだ序の口だった。
霊力で創られた【身体】は、かつての【身体】とは、まったく別物と言ってもよかった。
もちろん、それを思い知るのは、もう少し後になってからだったけど…。
『それで、どんな悪夢を見たのです?』
「…うーん」
あんまり言いたくないんだけど、言ったほうが、きっとすっきりするよね。
話しているうちに、気持ちが楽になるってよくあることだし…
そんなわけで、【導く者】さんに聞いてもらうことにした。
「じつは、…ウチのコを創った夢を見たんだけどね」
『…ええ』
「オレが遊んでた【FSO(ファンタジック・ストーリー・オンライン)】ってネトゲはね、18禁ゲームじゃなかったんだ…」
『………え?…ああ、はい』
「…だから、ウチのコってね。ゲーム中の3Dモデルとしては、せいぜい下着姿までしか造られていないはずなんだ」
いわゆる、《中身なし》ってやつだよね。
エッチな細部まで作り込まれてる3Dモデルは、《中身あり》って呼ばれてると思う。
まあ、こういうのは、18禁ですらないかもしれないけど…。
「…それでね。オレが夢の中で創ったウチのコは、やっぱりオレと同じで裸だったんだけどね。……お、お、恐ろしいことに、………くっ!……なかったんだよ!」
『…なるほど。だんだん、聞いているのが馬鹿馬鹿しくなってきましたね』
「…あ、あろうことか。ウチのコのね。……お、お、お胸の先っちょとね……、お、お、おまたの中心部がね……」
『…もう、聞かなくてもいいですかね?』
ううううっ……、ここまで話したんだから、最後まで聞いてよね。
「な、なんと!…く、空洞になってたんだよ!」
身体の向こう側が透けて見えちゃったよ!
《中身なし》の3Dモデルみたいに!
もう、トラウマだよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます