第5話 【無限の霊力】

うーーん!


次に何を創ろうかな。

ウチのコは、もう少し練習して、きちんと実績を積んで自信がついてからじゃないと、ちょっと怖い…。

失敗とかはないと思うけど、念には念を入れたほうがいいと思うんだ。


どうしよう…


自信をつけるには、たくさん創るのがいいんだろうけど、ちまちま創るのも、なんかめんどくさい気がするし…



そうだっ!



オレは、ひらめいた。

そして、正座して手を合わせて祈った。


もちろん、目はつぶってるよ。

目を開けてると、おへその下にぽこんと突き出てる、ちっこいアレが見えちゃうからね。

アレを視界に入れちゃったら、とても真剣に祈れそうにないし…。


別に、すっぽんぽんでいたいとか、そんな趣味はないよ。

ただ、パンツとか靴下とかシャツとかズボンとか…

ひとつひとつ創るのって、面倒じゃない?


だから、お洋服を含めた、必要そうなもの一式をいっぺんに創っちゃおうって思ったわけ。



…………


…………



うーん。



でかいなあ。



ちらっと薄目を開けてみたら、思わずソレに圧倒された。

高さだけでも、数十メートルはあるだろう。

そんな巨大球体が、ごうごうと回転している。

まちがって触ったら、跳ね飛ばされるんだろうか。


うーん。そんなこともないか?


だって、コノ白い球体って、中身が完成すれば消えちゃうんだから、実在とは呼べないモノなのかもしれないし…。



………


………


おおっ!できてきたぞ!


眼の前で、巨大な建物がゆっくりと回転している。


どっすん!


着地した。

10数階はあるから、やっぱりでかいなあ…


ちょっと豪華そうなこの建物は、オレが住んでいたS市の駅前にあった角丸デパートだ。

食料品から衣類や家具までそろってるし、最上階は、レストランが何軒もある。


もちろん、ホンモノじゃないよ。

【万物創造】って、召喚術とかじゃないんだから。

それに、日本のS市の角丸デパートがとつぜん消失したら、大騒ぎになるよね。


だから、どっちかと言えば、都合のいい複製ってところなんだろうと思う。


………


………


うぃーーん!


正面の入り口に立ったら、ちゃんと自動ドアが開いたよ!

デパートのなかも、ちゃんと照明があって、とても明るい。

建物の中に入ってしまうと、ホンモノのデパートと何も変わらない。


ほんとに、【記録カルマの集合体】さまさまだね。

じっさいに創ってくれてるのは【無限創造】の力なんだろうけど、元になるデータがないとちゃんと創れないだろうからね。


まばゆい照明に目を細めながら、電源をどこから取ってるんだろう…とかちょっと思ったけど、気にしちゃ負けだよな。

ファンタジーなんだし…。


店内の1階には、まだ、あっちこっちに白い球体があって、それが、いっせいに回転していた。

やっぱり、白い球体は、密集して重なり合っていても、お互いに弾き合ったりしないみたいだ…。


建物は完成したけど、店内の商品がすべて完成するには、まだしばらくかかるみたい。

それでも、スカーフとかそういうシンプルな商品はもう完成してた。

1階って、婦人服とか化粧品の売り場だね。


それにしても…。


コレ、みんな無料でもらえるんだよね。

そもそも店員さんなんていないんだから、お金を払う相手はいない。

だいいち、お金なんて持ってないしね。


まあ、化粧品なんて使うこともないだろうけど、それでもすっごくうれしい。

【歴劫の試練】は、ほんとに苦しかったけど、頑張った甲斐があったよ。


…でも。


使いもしないモノをこんなにたくさん創ったら、エネルギーとか資源とかの無駄遣いになっちゃうよね?

いっぺんにいろんなモノを創るには、名案だと思ってたけど、デパートなんか創ったのはまずかったかもしれない。


必要のないものを大量に創って、ほんとに欲しいものがエネルギーや資源不足で手に入らなくなったらどうしよう…。


なんか不安になってきた。



そしたら、【導く者】さんの声が聞こえてきた。



『…いきなり、デパートとは。まったく、あなたらしいと言えばいいのか。でも、エネルギーや資源に関しては何も心配はありませんよ』


「そうなの?」


『【宇宙ほしぼし】ですら創造可能と言ったはずです。デパートなど何百万軒創ろうとへっちゃらです』


「いや、そんなに創る気はないけど…」


『【根源世界】とは、【無限の霊力エネルギー】が絶えず湧き出している世界です。だから、あなたの【身体】も【不老不死にして不変】でいられるのです。

 【根源世界】に存在するものは、すべて、【無限の霊力エネルギー】が物体として固定化されることによって創られ、さらに、刹那せつなの間に絶えず更新されているのです』


「ソレって、いつも新品状態を保ってるって感じ?」


『そうです。表現はちょっとアレですけど、そういうことですね。ですから、このデパート内に並んでいる新鮮な生鮮食品も、レストラン街で湯気を立てている料理も、決して冷めたり腐敗したりすることはありません』


「いつも、できたてのホヤホヤなんだね」


ラノベとかで出てくる時間停止空間とはちょっと違うけど、劣化したり、腐敗したりしないのは助かるよ。


それにしても…。


【無限の霊力エネルギー】って、なんかぴんとこないよね。

大昔は、地球の人類も、無限に進歩するって思い込んでいたらしいけど、実際には、増えてゆく人口に対して、地球の資源なんてごくわずかなものだったから、最近では、節約が当たり前になった。


そういう、節約しないとすぐに滅びちゃいそうな世界にいたんだから、【無限の霊力エネルギー】なんて言われても、ぴんとこないのも当然か…。


でも、科学番組とか見ると、宇宙は未だに膨張してるって言ってたから、きっと、エネルギーも資源もあるところにはあるんだよな。

なんか、壮大な宇宙の話なのに、大金持ちを揶揄やゆする貧乏人みたいな言い方になっちゃったけど…。






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