第3話 【創造の根源】あるいは【根源世界】

それは、もう、真っ白だった。


ここは、【創造の根源】あるいは、【根源世界】って呼ぶんだっけ。

自分の【身体】が、あっという間に、光の粒子になって消えたかと思うと、ここに到着していた。


白い世界とかじゃなくて、ただ単に真っ白?

コピー用紙を顔に貼り付けたら、こんな感じだろうか。

もちろん、そんなことしたことないけど。 



「…白いね」


『…ええ、まだ、何も存在してないのですから、当然ですね』



【導く者】さんは、ドヤ顔で言った。

まあ、【導く者】さんは、いつも声だけで、その姿を見たことはないから、声の感じがドヤ顔っぽいってことなんだけど…。



…まあ。


要するに、これから創っていけばいんだろう。


さあ!がんばるぞ!


………


………


…って、どうやって創ればいんだろうか。

何しろ、真っ白なので、なにをどうすればいいのか。さっぱりだ。

ゲームみたいに、【UIユーザーインターフェース】の画面でもあれば、まだ、とっかりがあるのに…。



『…祈るのです』


「…え?」


『…祈るのです。強く強く…』


「…え?それだけ?」


『もちろんです。真剣で一途いちずな願い。必要なのは、それだけです』


「ほんとに、そんなんでいいの?」


『ええ…。もちろんです。…むしろ、あなたにソレ以外のことができるとでも?』


「…くっ!」


それはそうだ。

あの【試練】を乗り越えたとは言っても、もともとは日本の引きこもり高校生にすぎない。

職人さんでも何でもないから、自由自在に何かを創り出せるわけじゃない。


引きこもりでぼっちだったけど、パンデミック時代になったら、それでかまわないってことになった。

引きこもっても、後ろ指をさされるどころか、褒められるようになったんだから、世の中わからないもんだよ。

まあ、世の中がどうなろうと、日本に帰る気なんて、さらさらないけどね。



それにしても、祈る…か。



うーん。じゃあ…



オレは、正座して手を合わせることにした。

心が大切なのは当然だけど、心ってつかみどころがないからね。

やっぱり、かたちから入るべきだよ。


…と、そこで気がついた。


手を合わせるにしても、そもそも、手がないよ。

いや、手だけじゃなくて、【身体】そのものがなかった。



…しかたがない。



かたちから入ることも不可能だったので、気合だけで祈った。


…むむむっ!


『…無理です』


「…え?」


『…ですから、無理です』


「無理って?」


『あなたは、あなたでしかない。だから、そんな、ハリウッドスターみたいな長身で細マッチョなイケメンをイメージして祈っても、叶うはずがありません。

 たしかに、【創造の根源】に至ることができたあなたには、必要に応じて【記録カルマ】を操作することが出来ます。しかし、何でもできるわけではありません。【自分カルマ】を、完全に無視することはできないのです』


「………」


『大丈夫ですよ。あなたの童顔でちょっとかわいい系の顔も、それほど捨てたのものではありません。…たぶん』


それよりも…と、【導く者】さんは話を続けた。


『この【根源世界】で創造した【身体】は、不老不死にして不変。ですから、悔いのないように、慎重に創造することです』


「…くっ」


じ、じゃあ…。

顔とか身長とか、自由自在にできないっていうなら、せめて、人生やりなおすってことで、年齢を十歳くらいにしよう。


ウチのコと暮らせるんだから、これからは青春しなくちゃね。

みんなで、引きこもりライフとかありえないし…


さすがに、赤ちゃんから始めたら、青春も何もあったもんじゃないからね。

十歳くらいがいいんじゃない?

かつてのカード収集家の美少女アニキャラも、それくらいの年齢だった気がするし…。


むむむっ…!


オレはふたたび祈った。



そのときだった。



足元に小さな【闇】が生まれた。

まあ、足は、まだないんだけどね…。


そして、その【闇】は、みるみるうちに視界?いっぱいに広がった。


これって…


「…宇宙だよね」


『あなたには、そう見えるのですね』


「…うん」


『これは、象徴シンボル。【記録カルマ】は、本来、目に見えないものです。それを、こうして、あなたに認識させています』


「コレが、オレの【記録カルマ】。つまり、【自分カルマ】なのか…。見たまんまだと、宇宙だけど、ちょっとデカすぎない?」


『…ええ。あなたの…というよりも、【記録カルマの集合体】です。すべての存在の【記録】、すべての個の【自分】は、【一にして全なるもの】であり、【えん】によってつながっています』


「…そうなんだ」


なんか、よくわからないけど、まあ、そういうものなんだろう。


『【万物創造】は、【記録カルマの集合体】の解析に基づいてなされます。ですから、あなたでも、祈りを通じて創造できるのです』


うーん。

じゃあ、この宇宙ぽく見えるものが、アニメとかでよく使われる【アカシックレコード】みたいなもんなのかな。

すべての【記録カルマの集合体】っていうなら、そう考えてもいいよね。

コレをデータベースにして創造するなら、たしかに、何でも創れそう…。


そもそも、自分の【身体】を創るっていっても、骨格から内蔵、血管や筋肉とかの詳細な知識なんてないからね。

粘土細工みたいに、ねちねち創れるはずがないよ。


まして、これから、ウチのコを創るのに、女のコのいちばん大切なトコロとか、オレが自力でちゃんと創れるわけないし…。

そういう部位をみっちり創れるほど、オレは、マニアじゃないからね。





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