第3話 意外と真面目な作戦会議

 どうにか鬼ではないことに納得してもらった俺は村長の家にて作戦会議を立てることにした。あの祈祷師の言うことは本当だったらしい。数時間経っても戻る気配がない。ならば滞在する三日間、いや、もう半日経過したから二日半で奴らを殲滅、あるいはこの村を狙わせないようにする作戦を立てないとならない。


「先程は失礼しました。何もありませんがお召し上がりください。救世主様」


 村長はうやうやしくご飯を出す。しかし、手が震えているのは見逃さなかった。まだ疑われているようだ。

 お盆に載っているのは本当にご飯だけだ。おかずも漬物もない。農民は基本貧しくて稗や粟を食べていると聞くから、なけなしの食料なんだろうが、せめて塩か味噌汁くらい欲しい。


「いや、納得してくれたからいい。食べながらで済まないが、時間がないからいろいろ聞きたい。まずは賊について聞きたい。あいつらは武士だか侍崩れか? 何人いる?」


「おお、さすがは救世主様だ。わかっていらっしゃる、奴らは武士崩れです。権現様の世になって久しくなり戦が減りましてな。それで村を襲うようになりました。今日は少なかったが、全部で二十人ほどおります」


 権現様と言うことは家康の時代か。だから妖刀村正を知ってたのか。

 本当に「ひとり七人の侍」になってきた。違うのは俺は剣術の腕前はゼロ、代わりに二十一世紀の知識と技術、サバゲー用とはいえ少々の武器がある。

 とはいえ、不利なのは変わらない。


 そして、俺をやべえ用心棒と思った奴らが多分準備万端にして総勢で殺しにくる。


 待て、やべえ奴と思われているということは……逆にやりたい放題ということだ。現代日本ではコンプラ的にダメなこともこの時代ならできる!

 しかも、悪い奴をやっつける大義名分付き!


 とはいえ、本当に人を殺すのは気が引けるから死なせたくないが、この村に近づきたくないと思わせる程度のさじ加減が難しそうだな。


「この村で何か武器になりそうな物はないのか?」


 俺が尋ねると心もとなさげに村長が答える。


「鍬や鋤、ナタですかな」


 確かに心もとない。いや、この時代の農民は徒歩が基本、米俵を担ぐから現代人より力はあるだろうが野武士はもっと上だ。鍬では接近戦になってしまい、向いてない。ブービートラップを仕掛けて戦力を削ぐ作戦がいいな。


「他にないか? 例えば固そうな木が生えている森とか竹林とか」


「それならば竹林はありますな。筍は奴らに取られますが、籠を作るので切ったものが沢山あります」


 竹ならばいろいろ使えるな。さっき壊した柵を突貫で作り直してもらい、あとは罠を作るのがいいな。


「一つ聞きたい。俺は敵でも味方でも人はなるべく死なせたくはない。しかし、戦いとなるなら犠牲は出るかもしれない。村の皆もそれは覚悟はしているのか?」


「村の食料が本当にないのです。このままでは娘を売るしかありません。ううっ」


「いや、もういい。それはわかった」


 俺自身が平和な時代育ちだから人殺しはいけない倫理観が染み付いているが、ここは人権も何も無い時代。殺るか殺られるか、或いは餓死するかの厳しい時代。


 しかし、人を殺すのは気が引けるのも事実。ならば、過去に観た映画を思い出して参考にするしかないな。


「賊はやってくるのは今日来た道だけか? 裏から来ることは?」


「この村は三方が竹林や崖に囲まれてます。今日もそうでしたが、奴等は馬で来るからそうなると今日の入口しかありませんな」


 なるほど、ならば二日半の突貫でもいけるかもしれない。


「よし、大半の戦力を罠を仕掛けて削ぎ、頭領が生き残ったら俺がなんとかする。そのためには村の皆の協力が必要だ。明日は朝から一日忙しいぞ」


「さすが救世主様だ。ありがたやありがたや」 


「では、俺は細かい作戦を考える。一人にさせてもらう。それから救世主様なんて呼びにくいだろうから竹三十郎でいい」


 そう言って用意された布団を敷いた俺は部屋に入った。


 ……困った。直前に黒澤明映画を沢山観た影響もあって勢いで言ってしまった。名前まで椿三十郎のもじりだ。そして、あの頭領とタイマン張れる気がしない。真っ先にエアガンとサバイバルナイフを見抜いた奴だ。

 しかし、コンプラ皆無の世界、武士道なんて奴らが野武士になった時点で無効だ。姑息な手段でもいいから仕留めるしかない。サバゲーグッズやミリオタグッズ、そしてデスゲームと勘違いして買い込んだヤバいグッズが混ざったこのザックに何か役に立つものがないか。

 俺はザックをひっくり返し、何かないか探し始めた。

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