第2話 この時代にこの格好で救世主ねえ……

 めまいでうずくまったまま、どこかの時代に来てしまい、治まって来たので立ち上がった途端、周りからざわめきが起きた。


 大人数の中に来てしまったか、その中に突然人が現れたら驚くよな。しかも迷彩服。今回は何時代のどんな所に移動したのだろう。曲者と斬られなければよいが。


「おお、救世主様が降りてきた!」


 周りの人々がちょんまげをしてるから日本の江戸時代あたりか。って、救世主ってなんだ? 斬られないのは良かったが、中には崇めている者までいる。狐につままれたような顔をしていたからか、村長らしき者が説明を始めた。


「救世主様、この辺に賊が出るのです。高い年貢で苦しんでいるのに残った僅かな食べ物を奪っていき、我々は苦しめられています。そこで祈祷師様にお願いしてやっつけてくださる救いの主様をお呼びしたのです」


 ベタといえばベタだが、少なくとも祈祷師とやらはインチキだな。こんなポンコツな時間移動しかできない奴を召喚するのか。って、俺の能力発動だから召喚ですらない。

 とはいえ、二、三時間の短い滞在時間の間にそんな都合良く賊が現れるのか。

 そう考えていた時、俺の考えを見透かしたかのように祈祷師らしき山伏っぽい格好をした者がうやうやしく補足説明を村人と俺に始めた。


「私の神通力で素質のある者を呼び、その者の力を補強できます。しかし、それでもこの救世主様は三日間しかいられません。その間に知恵とお力をお借りするのです」


 本当なのか? 三時間どころか三日間もいるのか。最初からトラブルありきなのは初めてだ。被害拡大しないように三日間大人しくして帰れないものだろうか。


「ああっ! 早速奴らが!」


 展開早えな、おい。俺は慌てて手元の装備を確認する。さっきまで手入れをしていたルールギリギリまで破壊力を上げた改造エアガンと換えの弾が少し。ナイフは今回は藪が深い場所だから草や枝を切る程度の威力なら携帯OKだったから腰に指している。それと慌てて引っつかんだザックだが、まずいことにサバゲーをデスゲームと勘違いして買った違反品入りの方だった。


 しょうがない、適当にハッタリをかまして追っ払えばいいか、どうせサバゲーの延長くらいに捉えれば……。


「なんだぁ? その変な奴は?」


 賊は五人。リーダーらしき奴は斧だかナタのようなデカい武器を持っている。前言撤回、ちょっとヤバいかもしれない。

 ええい、俺の目標はノートラブルで帰ることだったが、変更だ! どんな手段でもいい、無傷で奴らから逃げる! 救世主なんかじゃないから、救いを求める村人もどうでもいいが、逃げると村人方面に賊が追いかけてくるから結局は俺も巻き込まれる。


 とりあえず、奴らの目を狙ってエアガンを撃つべし! サバゲーでは違反だが、今は実戦だ。BB弾でも目を狙う!


「ぐおっ! 目が!」


「落ち着け!火縄銃なら時間がかかる!」


 ふっ、甘いな。二十一世紀のエアガンは殺傷能力はないが連射なんて朝飯前だ。俺はどんどん奴らの頭と目を狙って撃っていく。


「ば、バカな! 弾がどんどんくる!」


「落ち着け! これは偽物だ! 痛いだけで傷は付かない!」


「でも、いてえよ。おらぁ、両目ぇ開けられねえよ」


 チッ、リーダーは見破ったか。しかし、手下は全員目を抑えてうずくまった。時間稼ぎはできた。


「どうやら見た目は変だが用心棒を雇ったようだな」


 片目を押さえながらリーダーがじりじりと寄ってくる。


 なんだろう、このシチュエーション。七人の侍みたいだ。しかし、一人だからシェーンか。

 どちらにしても、そんなかっこいいものではないな。それよりこのやべえ状況をどう打破するか。

 って、俺自身やべえ奴になれば恐れおののくのではないか? 堂々と狂人になれるなんてそうそうない。しかも、警察もない! やり放題じゃないか!


 とりあえず、村人が作ったらしい柵をサバイバルナイフでスパッと切る。


「なんだこいつ? 自ら柵を壊したぞ」


「待て、あんな小さな刀で柵を切り裂くなんて怪力か、すごい刀なんじゃないか?」


「へっへっへ、今日も妖刀ムラマサは調子がいいぜ」


 適当に付けた名前で狂人のようにつぶやく。


「何! 妖刀村正だと!?」


「刀と聞いていたが懐刀だったのか!」


 あ、知ってる時代なのね。適当に付けたが本物さんごめんなさい。


「村正は長刀だから偽物だ」


 やべ、またリーダーに見破られた。まあ、いい。やべえ奴続行だ。

 不気味な笑みを作りながら、ズタズタになった柵を蹴り倒し、欠片と共に爆竹をいくつか火をつけて奴らに投げつける。人に向けるのはサバゲーでは違反だ。そもそも爆竹なんて居場所を知られるから普通は持ってない。しかし、違反品入りザックにあったし、今は無法地帯だ。デッドストックになってた爆竹が役に立つ時が来た!


「うわ、なんだ!? なんか爆発してるぞ」


「枝の欠片があちこちから飛んでくる!」


「いてっ! 避けようにもどこからでも飛んでくる!」


 奴らは爆竹に慣れていない(そもそもこの時代にあるのか知らん)ので足元をバタつかせ、ある者は横飛びして避けようとする。まるで奇妙なダンスだ。そして欠片がいい仕事をしてあちこちに散るから賊達は傷を負っていく。


「ヒャッハー、いい眺めだなあ。そら、踊れ踊れ踊れぇー!」


 俺はワントーン高い声で狂気じみた声を上げながら追加の爆竹を投げる。


「なんか、ヤバい奴だ。皆、いったん引き上げるぞ」


「おう!」


「おう、おととい来やがれ、ヒャッハー!」


 奴らは一目散に逃げ出した。とりあえずやべえ奴作戦は成功した。あとは村人に芝居と説明をしなくては……。


 振り返ると村人達とさっきより相当な距離が開いている。あ、あれ?


「き、祈祷師様、あれは本当に救世主様なのですか? 間違って鬼を呼んだのでは?」


「恐ろしい、火縄銃よりも早い鉄砲や妖刀を操り、人が傷つくのを喜ぶなんて人間ではない」


「いや、そんなはずは……」


 どうやら迫真の演技力だったらしい。そういえば何かで狂った人間は演じやすいと聞いた。


 って、冷静に分析してる場合じゃねえ! 早く誤解を解かないと三日間賊どころか村人にも追いかけ回されて殺される! 


「皆さん、お怪我ありませんか? あれは追い払うための芝居です」


 しかし、なかなか信じてくれない村人達は近づこうとしない。


「えーと、俺を呼んだ人ー! とりあえずあなただけでも話聞いてください」


「もしかしたら神通力が衰えたのかのう、鬼を呼ぶとは」


 ちょっと待て、呼んだ張本人が疑うのかよ! その後、紆余曲折ありつつ、なんとか人間であることや芝居と納得してもらう頃には日が暮れていた。

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