第2話 神様にお願い
ドラゴンというものに興味を持ち出してから知ったのだが、私の住むマンションの近くに竜を祀っている小さな神社があった。
時々、神主さんっぽい老人が掃除をしているのを見かけてことがある。
よくよく調べてみると竜女という女神様をまつっているようだ。
昔、このあたりをひどい干ばつがおそった。
干ばつによる被害があまりにひどく、多くの人が餓死した。
その時、突如竜の娘を名乗る巫女があらわれて、この地に雨をふらせたという。
その恵みの雨により、この土地は救われた。
その巫女は雨をふらせたあと、忽然と消えてしまった。
私はその伝説が書かれた立て看板を見ながら、こんな小さな神社にも物語があるのだと素直に感心した。
私はその神社に毎日お参りをするようにした。
もちろん、毎日願うことは私をドラゴンにしてくださいというものである。
自宅と職場の往復、神社へのお参りの他はあの画集を眺めてすごすという日々を一月ほど続けたある日、私は夢を見た。
それは文字通り、夢にまで見たドラゴンになるものであった。
私は赤い鱗を持つドラゴンになり、大空を飛んでいた。
それはそれは心地よいものだった。
眼下の街は小さく、ビルの光はビー玉のようにキラキラと光っている、
顔に感じる風は冷たいが、熱い体に気持ちいい。
私は思う存分飛ぶとある森に着陸し、そこで飛行による疲れた体を癒すのだった。
夢の中で眠りにつくという奇妙な事態であったが、すっと眠ったかと思うと現実に目を覚ました。
目を覚まして頬を撫でるとまだあの風の冷たさが残っているような気がした。
職場に出た私はほとんどうわの空だった。
適当に仕事をしていると上司がなにか注意をしてきた。
しかし、その言葉はほぼ耳に入ってこない。
なにかグチグチと言っているなとそのよく動く口を見ながら思っていると私はある衝動にかられた。
それはあの夢のように空を飛びたいというものだった。
そう思うといてもたってもいられず、私は窓際に駆け出した。
周囲の人たちが何か叫んだりしているが、私の耳には言葉としてはいってこない。
ガラス窓を勢いよく開け、私は窓のへりに足をかけるとそこから思いきって飛び出した。
外の空気はあの夢で感じた風のように冷たく心地よい。
地上十階のビルの窓から飛び出した私は風を感じながら高速で落下する。
落ちながら私は私の体が瞬時に変化するのを感じる。
着ていたスーツがビリビリに裂け、指からナイフのような爪が生え、全身が赤い鱗がおおっていく。
次に背中に巨大な羽がはえる。
そう、私はドラゴンに変身した。
あの神社の女神様が願いを叶えてくれたのだろうか。
ドラゴンになった私は、地上にぶつかるほんの少し前に力いっぱいに羽を羽ばたかせた。
一度の羽ばたきで私が働いていた会社のはいるビルを飛び越した。
ニ、三度羽ばたくとすぐに街は小さくなっていく。
雲を真上に感じた私は東の方角に森を見つけた。
私はその深い森を向かって飛び出した。
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