1-28 主の願い
「こ、ここは?」
あれからケンゴは大蛇に湖の奥深くへと引っ張られていった。
引っ張られた先はおそらく大蛇の住処なのか、湖の端の岩肌にあるぽっかりと空いた洞窟のような場所だった。
水中に存在しているがそこだけは空気があり、壁や天井には水色の水晶が光を放っていた。
「う、美しい、、、、」
そのあまりの美しさにケンゴは言葉を失った。
「シュルルルル、、、、」
そんなケンゴに先ほどの大蛇が近づいて来る。
「え?」
とてつもなく小さくなった姿で。
「シャーーーー、、、、」
「お、お前、さっきの、その姿は?」
「シャーーーー、、、、」
疑問に思うケンゴに大蛇改め小蛇は尻尾で地面をなぞり始めた。
「ん?これは、文字?」
小蛇は地面に文字を書いていたのだ。
(カタコトだが読める、何々、、、、)
ケンゴはゆっくりと紡がれる文字を読んでいく。
『オマエ アブナイ タスケタ』
「そうだったのか、ありがとう。」
『ボク ココ スンデル ミンナ ナカヨク デモ ヘンナヤツ バケモノ ココニ ダシタ ミンナ コロサレタ ニゲタ ミズモ オカシクナッタ』
「なるほど、、、、」
どうやらこの水色の蛇のモンスターはずっと前からここに住んでいたようだ。
「もともとお前は仲間と一緒にここに暮らしていたんだな、だがさっき戦ったあいつらに荒らされてしまったと、にしてもお前、なんで人間の文字を使えるんだ?」
「シャーーーー、、、、」
蛇は再び文字を紡ぐ。
『ボク アイツ イッショダッタ。』
そう言って洞窟の奥を尻尾で指す、そこには白骨化した冒険者と思われる遺体があった。
『ズット イッショ コトバモ オシエテクレタ デモ サキニ シンダ』
「そうか、お前はあの人に飼われてたんだな。」
『アイツガ キレイ イッタ ココニ アイツト イッショニ キタ』
「クッ、、、、」
切ない話に涙を堪えるケンゴ。
「しかしお前の話だと何者かがこの湖に魔獣を放ったと。」
「シャーーーー、、、、」
「もしかしてそれって、さっき僕が戦った、、、、」
「シャーーーー!!!!」
そうだと言わんばかりに返事をする蛇。
『アイツラ オカシイ ミズガ オカシクナッタ ナカマ オソッタ ミズモ オカシイ』
「水がおかしい?」
『キモチワルイ ナカマ オカシクナッタ ボク オカシクナリタクナイ ダカラ ミズ ノンデ ナイ』
「なるほどな、、、、」
蛇の話からケンゴはこの以上自体がなぜ起こったかを考える。
(何者かがこの湖にあのワニや気持ち悪い魚人を放ったんだな、おそらく奴らはこの湖の魔素の異常そのものを引き起こしてるだ、そしてその水を取り込んだモンスター達ももれなく、でもなんのために?)
「シャーーーー、、、、」
考えこむケンゴに蛇が鳴く。
「どうしたんだい?」
『タノム』
問いかけるケンゴに蛇が願う。
『イッショ タタカウ』
「え?」
『オマエ ツヨイ』
蛇はケンゴに懇願する。
『オレ モウ チカラ ナイ モウスグ シヌ』
「そんな、、、、」
どうやら蛇は魔素の以上により魔力を取り込めていないらしい。
『ココ モト モドシタイ チカラ カシテ』
「シャーーーー、、、、」
そう言って頭を下げる蛇。
「お前、、、、」
蛇の願いに胸を打たれるケンゴ。
「わかった、力を貸そう!」
「シャーーーー!!!!」
ケンゴの力強い返事に嬉しそうに鳴く蛇。
「ただ一つ聞きたい、お前は本当にもうすぐ死んでしまうのかい?」
「シャーーーー、、、、」
『チカラ ナイ アレバ ダイジョウブ』
「そうか、なんとかしてやりたいなぁ。」
『ハヤク イク ジカン ナイ』
「ああ、すまない、、、、」
悲しい気持ちになるケンゴを蛇は急かした。
「なぁ、ひとつ聞いていいか?」
「シャ?」
ケンゴは蛇に問いかける。
「お前はあの人に飼われてたんだよな?名前とかはあったのか?」
「シャ?」
「いや、何、仮に短い時間になるとしてもお前は僕の仲間になるんだ、どうせなら名前で呼びたいなって思って。」
「シャーーーー!!!!」
『オマエ イイヤツ』
蛇は嬉しそうに笑った。
『オマエ スキニ ヨブ』
「え?」
蛇の答えにケンゴは驚いた。
「どうしてだい?あの人につけてもらった名前とかは?」
『イマノ アルジ オマエ ダカラ オマエノ ツケル ナマエ ヨブ アイツモ ヨロコブ。」
「お前、、、、」
『アイツ オレ ヒトリボッチ スルノ アヤマッテタ ダカラ ヨロコブ』
「うぅぅ、、、、」
ついに我慢できなくなったケンゴは泣いてしまった。
「グス、グス、、、、わかったよ、これからよろしく、『ナギ』、、、、」
「シャーーーー!!!!」
呼ばれた蛇は嬉しさが爆発したのかケンゴの体にまとわりついた。
「ヒャ!冷た!!!!」
「シャー!!!!」
ケンゴのシャツの首から顔を出してケンゴの顔に頬擦りをしている。
「あはは!可愛いやつだなお前は、、、、」
「シャーーーー!!!!」
美しい水色の蛇との戯れを心から楽しむケンゴ。
「さあ、行こうかナギ。」
「シャーーーー!!!!」
立ち上がるケンゴと答えるナギ。
しかし、奇跡というものいつも予期せぬときに起こるものだった。
「ん?これは?」
「シャーーーー!!!!」
ナギがいまだにケンゴの体にまとわりつき、頬擦りしている、その度にケンゴの体に水がまとわりついてきた。
「これ、何か覚えがあるぞ、まさか!?」
「シャーーーーーーーー!!!!!!!!」
ケンゴがそれに気づいた時、ナギが大きく鳴いた。
それと同時にケンゴの体を大きな水玉が包み込む。
やがて水玉は弾け飛ぶ、そこにいたのは。
「やっぱり、、、、」
『シャーーーー!!!!』
水色の髪に変わり、手や足、こめかみに水色のキレイな鱗を発現させたケンゴだった。
カムロ ケンゴが水色の蛇と融合した姿である。
「ナギ まさかとは思ったが、お前は聖獣だったんだね。」
『シャーーーー!!!!』
「まあいい、あいつらを倒すことには変わりない、いくよ!ナギ!」
『シャーーーー!!!!』
叫ぶケンゴと答えるナギ。
融合した両者は決戦へと赴くため湖に飛び込むのであった。
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