1-27 湖の主






(深いな、、、、)


 湖に潜ってから2分ほど経った頃。

 ケンゴはとてつもないスピードで水中を進んでいた。


(一体どこにあるんだ?あまり時間はかけていられない。)


 いくら息が続くとはいえケンゴにも限界はある。

 悠長にしていられる状況ではない。


(しかしこれは、なんとも、綺麗だ。)


 湖の中は素晴らしい透明度だった。

 水草のような植物や苔の生えた沈んだ木々が太陽の光に照らされ、言葉するのが難しいほどに美しい景色を晒し出していた。


(クエストじゃない時に個人的に行ってみようかな、ん?)


 幻想的な景色に目を奪われていた時、ケンゴは前から何かが来ることに気づいた。


(あれは、なんだ?)


 ものすごい速さで進んでくるそれは異様な姿をしていた。


 頭がピラニアになった青い鱗の魚人のような怪物そのものだった。

 もれなく目は赤くなっており、魔獣化している。


(気持ち悪いなぁ、、、、)


 なんとも生理的に受け付けないような見た目をした魚人モンスターは10匹ほどで徒党を組んで、ケンゴに襲いかかった。


「「「########!!!!」」」


 水中でも通るなんとも不快な、特殊な叫び声を上げながら、魚人モンスター達は襲いかかってくる。


(フッ!!!!)


 ケンゴは水を蹴って大きく後ろへ下がる。

 そしてまず初めに襲いかかってきた魚人モンスターの右手の引っ掻き攻撃を掴み、引き寄せてから貫手で顔面を貫いた。


 さらに次に襲いかかってきた魚人モンスターの噛みつきを両手で掴むと、強引に顎を引き裂いて倒す。


(やっぱり、水中じゃ動きづらいか、)


「「「########!!!!」」」


 水中とはいえ、高い近接戦闘能力を見せたケンゴに対し、魚人モンスター達は水中で大きく腕を振るった。


 するとケンゴに向かって三日月型の水流が大量に襲いかかってきた。


「!?」


 驚きながらもなんとか水を蹴って回避するケンゴ。

 しかし躱わしきれずに腕に切り傷ができてしまった。


(なるほど、奴らも魔法を使えるんだな、大したことない威力だが、食らい続けるとまずい。)


「「「########!!!!」」」


 魚人モンスター達は今度は魔法を溜めて使うつもりらしく、その両手の爪には魔力のようなものが凝縮されていた。


 ケンゴは水中で両手を腰に据える。


(この景色を破壊するのは申し訳ないが、仕方ない。)


 両手の拳は硬く握り、あらかじめ捻りを加えておく。


(神室流奥義)


「「「########!!!!」」」


 溜めが終わった魚人モンスター達はケンゴに向かって三日月型の巨大なウォーターカッターを飛ばす。


 それと同時にケンゴも両手の拳から技を放った。


 右手と左手、異なる回転を加えられた拳撃は、巨大な2本の渦巻きを横方向に飛ばす。


 神室流奥義の中でも珍しい、水中で使うことを目的として作られたその技の名は。


(螺旋水塵大砲!!!!)


「「「「####!!!!」」」」



 巨大な2本の渦巻きに巻き込まれたウォーターカッターはことごとく打ち消され、巻き込まれた魚人モンスター達はバラバラに体を引き裂かれて絶命していった。


(ふう、もうそろそろ息がもたない、水上に出ようかな、、、、?)


 ケンゴが水面に顔を出そうかと思ったその時、湖の奥から一際大きな影が迫ることに気がついた。


(でかい!なんだあれは!)


 先ほどの魚人モンスターよりも速いスピードでこちらに向かって来るそれは近づくごとにその巨体が顕になっていった。


 言うなればそれは岩のような鎧のような鱗で覆われた巨大な黒いワニだった。


「!!!!」


 鎧ワニは大口を開けてケンゴに遅いかかる。


(セイ!!!!)


 ケンゴは再び水を蹴って大きく後ろへ下がりその噛みつきをかわす。


 大きな衝撃音がその噛みつきの威力の高さを物語っていた。


(流石にあれは喰らいたくないな。)


 鎧ワニはその場で回転し尻尾による一撃をケンゴに繰り出す。


 ケンゴはそれを右腕で防ぎ大きく吹き飛ばされた。


(やっぱり水中じゃあ、踏ん張りが効かないからこうなるよな、仕方ない、こっちから仕掛けるか。)


 ケンゴは鎧ワニに向かって泳ぎ出した。


「!!!!」


 鎧ワニはしめたとばかりにケンゴに向かって噛みつきを繰り出した。


(フン!!!!)


 噛み潰される直前、ケンゴは鎧ワニの上顎と下顎を両手両足で押さえて踏ん張る。


「!?!?」


 これには鎧ワニも驚く。


(フッ!!!!)


 そこからケンゴは足だけを下顎から外し、噛み潰されないように鎧ワニの鼻先に捕まりながらながら体を口から出す。


 足のストッパーがなくなった鎧ワニの口はもちろん閉じられる。


(破ァアアアア!!!!)


「!!!!」


 そこからケンゴは鎧ワニの顎に渾身の膝蹴りを叩き込んだ。

 いくら水中といえどそれは凄まじい威力を持ち、鎧ワニはいとも簡単にひっくり返ってしまった。


(神室流奥義、大砲!!!!)


 ケンゴはひっくり返った鎧ワニの腹に渾身の大砲を叩き込む。


「!!!!」


 鎧ワニは口から大量の血を吐き出して絶命した。


(よし、なんとかなったな。)


 水中での戦いを制したケンゴは水面に上がろうとした。


 その時だった。


(なんだ?うまく泳げない、、、、)


 どれだけ水を掻いても、蹴っても体が水面に上がらない。


(水流がおかしい、まるで僕を引き摺り込んでいるようだ、まさか!)


 嫌な予感がしたケンゴは湖の中を振り返る。


 そこには先ほど倒した鎧ワニが新たに2体待ち構えていた。


「「!!!!」」


 2体の鎧ワニの目は赤い光を強く放っていた。


(あいつら、魔法を使って水流を操っているのか、ダメだ!息が!)


 ケンゴの息が続かないことを知っているのか、2体の鎧ワニはケンゴをさらに深く引き摺り込もうとしている。


 その時ケンゴの体につながった魔力の糸がケンゴの体を引っ張った。


(イリスさんの魔法が反応したのか!)


 ケンゴの体はイリス達の方に向かって引っ張られていく。


(ダメだ、水流が強すぎる!!!!)


 しかし、それを見た鎧ワニがさらに水流を強くした。


(やるしかないか、神室龍、、、、!?)


 ケンゴが限界を振り絞り、立ち向かおうとした時だった。


 巨大な何かが鎧ワニ達に向かっていった。


「「!?!?」」


 鎧ワニ達はその長い体にたちまち絡め取られ蹴散らされた。


(水色の大蛇!?)


 光に照らされたそれは見たこともないほどに巨大な水色の蛇だった。


「シャー!!!!」


 蛇は水中で叫んだ、すると巨大な渦巻きが発生し、2体の鎧ワニをキリキリ舞にしてしまう。


(なんだか知らんが助かった、この隙に!?)


 蛇はその場を離れようとしたケンゴを尻尾で捕まえる。


(な、なにを!?)


 流石に驚くケンゴをよそに、蛇は全速力でイリス達とは逆方向に泳いで行った。


(うわぁああああああああ!!!!)


 心の中で絶叫するケンゴ。


 果たしてケンゴの運命はいかに。








 ☆登場モンスター☆


 サハギン

 ランク:C +

 青い鱗を持った魚人型のモンスター。

 集団で獲物を追い込み、仕留める。

 水魔法を使うこともできる。


 スケイルダイル

 ランク:B

 岩のような鎧を持った巨大なワニ型のモンスター

 物理、魔法、どちらにもそれなりの耐性を持っており強力な水魔法を使う。





 ☆登場した神室流奥義☆


『螺旋水塵大砲』

 水中で使うことを目的に作られた奥義。

 両手の拳を腰に据え、逆方向の捻りを加えて放つことにより、二つの異なる回転の渦巻きを発生させる。

 渦巻きに巻き込まれた敵は体を引き裂かれる。





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