1-19 ケンゴ追放?
「ヒッ!ヒッ、ヒク!」
「リリィ!」
なんとか気を保っていたハウエルが降参を宣言し、ケンゴが本気を解いた時、リリィはケンゴの覇気に当てられ、パニック状態になっていた。
「リ、リリィさん、お、落ち着いてください、もう終わりましたよ。」
「ヒィ!ヒィ!」
ケンゴが優しく語りかけるも、リリィのパニックは治らない。
「し、失礼します。」
そんなリリィをケンゴはやさしく、強く抱きしめた。
「大丈夫です。リリィさん。」
ケンゴはリリィの背中を優しく撫でる。
「あ、あぁ、、、、」
するとリリィのパニックはゆっくりと治まっていった。
「あ、あ、ありがとう。」
「いえ、、、、」
すっかりとパニックが治ったリリィはケンゴにお礼を言った。
「ケンゴくん、ありがとう。そして、本当に申し訳ない。」
ハウエルは感謝を伝えた後、深く頭を下げて謝罪した。
「え?ど、どうして?」
突然の謝罪に困惑するケンゴ。
「君が僕達を侮っていると思い、ほんの少し怒りを見せてしまった。むしろ僕が君を侮っていたのにね。」
それに対し、ケンゴは慌てて答える。
「そ、そんなことはないです。僕はまだまだ未熟で、ハウエルさんやリリィさんは素晴らしい力を持った方々です。」
「ケンゴくん、謙遜も行きすぎると嫌味になるよ。」
「・・・・」
ケンゴの謙遜した言葉にリリィはジト目を向けていた。
「す、すみません。」
「まあいいさ。さぁ、僕のデスクへ行こう。報酬の話をするよ。ほら!キースくん達も!呆けてないで、行くよ!」
ハウエルはあまりの戦いに言葉を失い呆然としていた、キース、リサ、ウィルに声をかけ、ケンゴと共に自分のデスクへと案内した。
ーーーーーーーーーーー
「今回の獣害を収めてくれて本当にありがとう、情報提供をしてくれたキースくん達にはこれを。」
そう言ってハウエルはキース達の前に金貨を30枚置いた。
「な!」
「うそ!」
「こんなに!」
その報酬額に興奮を隠せないキース達。
「君たちの情報がなければ、事態はもっと深刻になっていたかもしれない。それに君たちはゴブリンの変異種を倒してくれた実績もあるからね。」
「いや、それは。」
キースはゴブリンの変異種を倒したのはケンゴだと言おうとしたが、ケンゴがキースに笑顔で首を振った。
その様子をハウエルはニコニコニコした顔で見ていた。
「次にケンゴくん、今回の獣害で君は大半の魔獣化したモンスターを殲滅しただけでなく、その元凶すら破壊して見せた。これだけの成果はAランク冒険者でも出せるものではない。よって今回の報酬はこうなった。」
そう言ってハウエルはやや大きめの巾着袋を机の上に置いた。
置いた瞬間、かなりの衝撃音がなる。
「ざっと金貨100枚。受け取ってくれたまえ。」
「えぇ!?」
「マジかよ!!!!」
「すっごぉ!!!!」
「ひゃ、100枚!!!!」
驚くケンゴと、それ以上に驚くキース達。
「い、いや、その、流石にこれは、、、、」
あまりの額に拒否しようとするケンゴ。
「いや、受け取ってほしい。今回の事件を解決したのは君だ。頼む」
そう言ってハウエルは再び頭を下げた。
「わ、わかりました。」
ケンゴは未だ納得がいかないながらも、その報酬を受け取ることにした。
「ありがとうケンゴくん、もちろんハクくんもね。」
「ウォン!」
ハウエルに呼ばれて、ハクは元気よく返事をした。
「ちなみにこれは前払いの意味もあるのさ。今後君がさらに偉大な冒険者になると思ってね。」
「い、いや、そんなことは、、、、」
「なるさ、私の勘はよく当たるんだよ。」
否定しようとするケンゴに対し、ハウエルはウィンクしながらそう言った。
「ケンゴ、お前、本当にすごいやつだな。」
「ケンゴくん。」
「ケンゴさん。」
キースたちはケンゴに対し羨望の眼差しを向けていた。
「な、なんだか、むず痒いです。」
「クゥーン、、、、」
「ハハハハ。」
恥ずかしがるケンゴにハクが甘えて擦り寄りそれを見て、ハウエルはカラカラと笑った。
「さて、話は以上だよ。今回は本当にありがとう。ゆっくり休むといい。」
「「「「ありがとうございました。!」」」」
「ウォン」
4人と1匹はハウエルにお礼を言い、デスクを出て行った。
ケンゴ達がデスクを出て行ってしばらく経った後、ここまで一言も話さなかったリリィが口を開いた。
「ケンゴ、一体何者なの?」
「うーん、わたしにもさっぱりわからない。」
リリィは先ほどまでの決闘で、ケンゴの強さを嫌と言うほど思い知らされていた。
「何をどうやったらあれほど格闘術を極めることができるの。剣はおろか、父さんの魔法まで吹き飛ばすなんて。」
「そう思うよねぇ、こんなでもわたしは元Sランクなんだけどねぇ。」
軽い調子でいいながらもどこか残念そうなハウエル。
「それともう一つ。今回の獣害のこと。」
リリィは神妙な面持ちで話しだす。
「なんであんなところに"ダンジョンコア"があったの?あんなに大きいやつ、自然発生したとは思えない。」
それに対して、ハウエルもまた、神妙な面持ちで答えた。
「確かにね、何か良くないことが起こり始めているのかもしれない。」
ハウエルは窓の外を見ながらつぶやいた。
「すまない、頼りにするよ、ケンゴくん。」
ーーーーーーーー
「ケンゴ、その、言いたいことが、あるんだ。」
「はい?」
ギルドを出てすぐのところ。
キースは申し訳なさそうにケンゴに話をし始めた。
「そ、その、なんていうか、その、」
「「・・・・」」
キースだけではなく、リサやウィルも申し訳なさそうだ。
「え、えっと、どうしたんですか?」
中々話を進めないキースにケンゴが問いかける。
「す、す、すまない!!!!」
大声で謝罪するキース。
「お、お、俺たちのパーティから抜けてくれ!」
「え????」
突然の追放宣言に困惑するケンゴ。
「いや、ちょっとキース!ケンゴくんまだ正式に私たちのパーティ入ってないじゃない!」
「あ!そうだった!」
リサの指摘にハッとなるキース。
「いや、その、僕は、皆さんの足を引っ張りたくないので、全然大丈夫、、、、」
「逆ですよ、ケンゴさん。」
ケンゴの謙遜に、ウィルが真剣に答える。
「ケンゴさんは強いです。強すぎます。今ケンゴさんを僕達のパーティに入れたら、僕達がケンゴさんにおんぶに抱っこの状態になってしまいます。」
ウィルの意見にキースとリサは何度も深く頷いていた。
「え、い、いや、そんな、」
「謙遜しないでください。これは事実なんです。」
どこか怒ったように言うウィル。
「す、すみません、わかりました。」
「いえ、僕の方こそ。」
謝るケンゴと謝り返すウィル。
「ただ、ケンゴ、頼みがあるんだ、大事なことなんだ。」
話が落ち着いたところでキースが本題を切り出す。
「な、何でしょうか?」
真剣なキースに気圧されるケンゴ。
「お、俺を、」
一旦言葉を切って息を吸い、そして勢いよくこう言った。
「俺達を、弟子にしてください!!!!」
まさかの頼みにケンゴは驚く。
「ええ!いや、なんで、、、、」
続けてリサとウィルも頭を下げる。
「お願い!ケンゴくん!」
「お願いします!ケンゴさん。」
3人の剣幕に驚きっぱなしのケンゴは問いかける。
「その、どうしてなんですか?僕なんかよりも師事するに相応しい人がたくさんいると思い、、、、」
「いや、お前しかいねぇんだ!!!!」
力強く断言するキース。
「あの立ち回り、あの技の数々。」
「素晴らしすぎます。たとえ流派は違っても、あなたの技を、強さを、少しでも教えてほしい。」
同じくリサとウィルもケンゴに頼み込む。
「みなさん、、、、」
「クゥーン、、、、」
そんな3人の思いを受けて、感動するケンゴとハク。
「僕は未熟者です。誰かに物を教えられるような人間ではありません。」
ケンゴの答えに落ち込む3人。
「ですが、僕と一緒に鍛錬するくらいなら、大丈夫だと思います。ど、どうですかね?」
しかし続きを聞いて3人は勢いよく顔を上げた。
「「「よろしくお願いします!師匠!!!!」」」
「や、やめてください、、、、」
「ウォン!!!!」
かくして、キース、リサ、ウィルはケンゴの弟子となった?
ーーーーーーーー
「た、ただいま戻りました、、、、」
「ケンゴ様!お疲れ様です!!!!」
「お疲れ様です、ケンゴ様、既に夕食が出来上がっております。」
喜ぶキース達と別れたケンゴは真っ直ぐイリスとレナのいる屋敷に帰ってきた。
リビングにて夕食を食べながらイリスがケンゴに問いかける。
「ケンゴ様、ハウエルさんとはどんな話し合いをしたのですか?」
「そうですねぇ、ただの報酬の受け渡しでしたよ。」
それに対して、ケンゴは大まかなところを端折って答えた。
「それで直々の呼び出しですか、相当活躍したんですね!」
「さすがです、ケンゴ様。」
「そ、そんなことは無いと思います、よ、、、、」
いつもの如く猛烈に讃えてくるイリスとレナにたじろぐケンゴ。
束の間の穏やかな時間が今夜も始まったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます