1-18 平伏す者たち



「ヤァアアアア!!!!」


 ケンゴがリリィの剣の範囲に入った時、リリィの神速の剣が上から振り下ろされた。


 ケンゴはリリィの剣の腹に左手の手の甲を当てて滑らせるように流す。

 さらには流した左手はそのまま貫手となり、リリィの顔を穿とうとしてきた。


「「「な!?」」」

(!?)


(嘘!?)


 何気なく繰り出された神業にハウエルやリリィはおろか、キース達も酷く驚いた。


 しかしリリィもA級冒険者である。

 紙一重でケンゴの貫手を避ける。


「ハァア!!!!」


 そこから右切り上げの軌道で剣を振るう。

 ケンゴは体を晒しながらのバックステップでその剣撃を避ける。



 しかし敵はリリィだけではない。


「アースブラスト!!!!」


 リリィの後方からハウエルが拳程の岩石を弾幕を張るように放ってきた。


 ケンゴはそれを上体を晒しながら左にステップしてよけた。


「アースブラスト!!!!」


 しかし魔法はそれだけでは終わらない。


 さらに大量の拳程の大きさの岩がハウエルの周りに出現する。


「いけ!!!!」


 先ほどよりもはるかに多い岩の大群がケンゴにせまる。


「神室流奥義!風神鉄扇脚!!!!」


 ケンゴはその場で後ろ回し蹴りの鉄扇脚を繰り出す。

 風の魔法が乗ったその技はケンゴに迫っていた岩の大群を全て吹き飛ばし、ハウエルの方に押し返した。


(ハァ!?)


(なんと!!!!)


「ハイ シールド!」


 リリィは驚愕で目を見開き、ハウエルは驚きながらも魔法を展開する。

 ハウエルとリリィの前に半透明の壁が現れ、ケンゴが押し返した岩の大群を防いだ。


「いやはや、驚いた。ここまでとはね。」


「なんて強さ。」


「あ、ありがとうございます。」


 ケンゴは自分よりも立場が上の2人から褒められて、どう反応すればいいのかわからなかった。


「さあ、小手調べは終わりだね、本番と行こうか。」


「次で決める。」


 ハウエルとリリィは改めて構えをとる。


「ハァアアアア、、、、」


 それに答えるようにケンゴも気合を込めて左構えをとる。


「シッ!!!!」


「!?」


 先に仕掛けたのはリリィだった。

 瞬間移動と思えるほどの踏み込みで一気に距離を詰めてケンゴの胴を横一文字に切り裂こうと剣を振るう。

 あまりの速さにケンゴも驚き、全力で回避する。


「セイ!ハァ!タァ!!!!」


 リリィはそこからさらに畳み掛ける。

 袈裟斬り、右薙、左切り上げ。

 ケンゴはそれらをステップや上体そらしで危なげなく回避していく。


「破ァアアアア!!!!」


 そしてリリィが剣を振り上げた一瞬の隙をついてリリィの胸の中心に掌底を叩き込む。


「グゥ!!!!」


 うめき声をあげながらも大きく後ろに飛んで衝撃を逃すリリィ。


「エアーブラスト!!!!」


 ハウエルは追撃を阻止するために風の砲弾の弾幕を貼る。


「セイ!!!!」


 ケンゴは腕をただ振るうだけで大量の風の砲弾をかき消す。


「なるほど、風の聖獣と融合したことで風魔法が通じなくなっているのか。」


「厄介すぎ。」


「そ、そうなんですかね?」


 自分でも知らなかった自分の力に驚くケンゴ。


「まあ、わたしは風魔法以外も使えるんだけどね。パラライズ!!!!」


「うぉお!!!!」


 謎の危機感を感じたケンゴはすぐさまそこから飛び退いた。

 すると先ほどまでケンゴがいた場所に電撃が発生した。


「雷属性魔法を勘だけでよけるのか、、、、」


 もはや驚きすぎて言葉も出ない様子のハウエルは再び魔法を放つ。


「ライトニングレイン!!!!」


 ケンゴは自分の周囲に凄まじい危機感を感じとり、回避する。

 するとケンゴの周りに雷が雨霰のように降ってきた。


(正直得意じゃないけど、雷を避ける訓練はしていたんだ。)


 雷が落ちる際の微弱な静電気の変化を感じ取ることができるケンゴはなんとか交わし続ける。


「これならどうかな、ファイアウォール!!!!」


 雷を避けるのに精一杯になっていたケンゴに対してハウエルは津波のような炎を繰り出す。


「神室流奥義!!!!」


 大量の雷を避けながらケンゴは技の準備をする。

 ケンゴのすぐ目の前に炎の津波が迫る。


「風神兜割!!!!」


 ケンゴは振り上げた手刀を地面に叩きつける。

 すると眼前に迫っていた炎の壁が縦に割れた。


「もらった!!!!」


 しかし、その炎の壁の向こうからリリィが飛び出し、ケンゴに襲いかかった。


「風神鉄扇脚!!!!」


 ケンゴはその場で恐ろしいほど速い後ろ回し蹴りを繰り出す。


 直撃こそしないものの、その蹴りは凄まじい突風と衝撃波を発生させる。


「クゥウウウウ!!!!」


 突風と衝撃波に当てられ、吹き飛ばされながらもなんとか着地するリリィ。


「こっちから行きますよ、風神爪葬!!!!」


 ケンゴは爪を立てた両手交差するように振るう。

 巨大な風の刃がハウエルとリリィを襲う。


「エクス シールド!!!!」


 ハウエルはそれを防ぐために魔法を唱えた。

 先ほどとは違い、透明ながらも七色に輝く壁が2人を守る。

 しかし二つの壁には少し亀裂が入った。


「いやはや、凄まじいねケンゴくん。」


「こんなに強い拳士がいたなんて。」


「あ、あの、ありがとう、ございます、、、、」


 大絶賛されるケンゴ。


「しかし、納得がいかないねぇ。」


 その時ハウエルの雰囲気が変わった。

 多少の怒りや募りといった感情がみてとれた。


「ど、どうしたんですか、ハウエルさん?」


 先ほどまでの穏やかなハウエルのあまりの変わりっぷりに困惑するケンゴ。

 そんなケンゴにハウエルは答えた。


「ケンゴくん、君は本気を出していないね。」


「え?」


 ケンゴは言われて気づいた。

 自分が本気で戦っていなかったことに。


「あ、あれで本気じゃ、ないの?」


 そしてケンゴが本気で戦っていないことにリリィは戦慄していた。


「どうしてだいケンゴくん、私達では本気を出すに値しないのかい?」


 努めて穏やかに、それでいながら隠しきれない怒りの感情を感じ取るケンゴ。


「本当にすみませんハウエルさん、決してそんなつもりはありません。」


 ケンゴはハウエルに丁寧に謝罪する。


「思えば、ここ最近ずっと本気を出していなかったです。慢心していました、いけませんね、修行が足りない。」


 そして己の怠慢に反省した。


「ハク、離れてくれ。」


 ケンゴはハクとの融合を解く。


「どうしてハクくんと融合しないんだい?」


「クゥン?」


 なぜかハクとの融合を解いたケンゴにハウエルは問う。


「なんとなく、ハクと結びついたままだとダメな気がして。」


「ワオゥゥゥゥン、、、、」


 遠回しに邪魔と言われてハクは落ち込んでしまった。


「ごめんよ、ハク、どうか許しておくれ。」


「クゥン、、、、」


 拗ねてしまったハクを宥めるケンゴ。


「お待たせしました。行きます、ハウエルさん。」


 ケンゴは腰に両手を構え、硬く拳を握り込み気合を入れる。


「ああ、きたまえ、ケンゴくん。」


「・・・・」


 それに応じるように構えをとるハウエルとリリィ。


「極みの構え。」


 ケンゴはそう唱えた。













(なんなんだあれは。)


 ハウエルは困惑していた。

 目の前にいるケンゴに。


(何という圧力だ、体が動かない。)


 何かを唱えたケンゴは異常なまでの覇気を体から発していた。


 その圧倒的なまでの覇気は、離れているハウエルやリリィにまで影響を及ぼす。


(うまく呼吸ができない。まるで空気までもが彼の強さの前に平伏しているかのようだ。)


「あ、あぁぁ」


 リリィは既に呆然として膝をついていた。

 そんな2人に向かってケンゴはゆっくりと近づいていく。


(少しでも攻撃の意思を見せるとダメだろう。あまりにも強過ぎて悔しさすら湧いてこない。)


 一歩づつ近づくたびに圧力が増していくケンゴ。

 ついにはハウエルですら膝をついてしまった。


「こ、降参、だ、よ、」


 なんとか声を絞り出すハウエル。

 そこでようやくケンゴは技を解いたのだった。











 ☆登場した神室流奥義☆


『兜割』

 神室の操気術により強化された手刀を上から振り下ろす技。

『風神兜割』

 ハクと融合したことにより風の魔法が乗っている。



『鉄扇脚』

 大鉄扇脚の小規模バージョン。

 非常に技を繰り出すのが速い。

『風神鉄扇脚』

 ハクと融合したことにより風の魔法が乗っている。



















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