1- 8 コミュ障発言できない。

 


「あれが、キースさん達のターゲットなんですね、」


「ああ、俺たちのクエストは10匹の"ゴブリン"の討伐だ。」


(あ、あいつらってゴブリンって言うんだ、なんかRPGとかの雑魚敵によくいるやつなんだ。」


「ちょうどいいな、ケンゴ、俺たちの狩を見学してくか?」


「え、い、いいんですか?」


「もちろんだぜ」


 特段ケンゴはゴブリン達に苦戦したわけではなかったが、この世界における狩を何も知らなかったため参考にしたいと思っていた。


「じゃ、じゃあ邪魔にならないようにします。」


 そう言って一歩後ろに下がるケンゴに対してリサは言う。

「もし手伝わせてあげられそうだったら、声かけるわね!」


「ありがとうございます。」


「さて、始めるぜ。」


 そう言うと、キースはゆっくりと盾を用意して剣を抜き、リサは弓に矢をつがえ、ウィルは大きな杖を構える。


 ここから見る限りゴブリンは三体。


 音を立てぬようリサは慎重に弓矢を引き、しっかりと狙いを定め、

 放った。


「ギャ!!!!」


 リサの放った矢は弓を持ったゴブリンの胸に命中する。


「パラライズ」


「「グギャア!!!!」」


 次にウィルが呪文と共に魔法を放つ。


 電撃のようなものが飛び残りの2匹が痺れて動けなくなる。


「セイ!ヤァ!!!!」


 そしてその痺れた2匹をキースが剣で切った。


「おお、これは、すごい」


 遠距離からの攻撃を防ぐために弓術士が弓持ちを潰し、魔法使いが敵の動きを止め、そこを剣士が叩く。

 お手本のような動きにケンゴは素直に感心した。


「まあ、腐っても俺たちはcランクだ、これぐらい出来なきゃ話になんねぇよ。」


「といっても、あたしはまだまだね、頭を狙ったのに、」


「僕もです、本当はあの3匹をいっぺんにしびれさせることができればいいんですが2匹が限界で、」


「そ、そんなことないですよ!すごいです、やっぱり一番大事なのは基本ですから!」


 厳しい自己評価を下すリサとウィルを励ますケンゴ。


「ありがとよケンゴ、よっしゃ!この調子で残りの7匹も狩っちまおうぜ!」


「はい!」


「はい」


「ええ!」


「ウォン!」


 気合を入れ直す4人と1匹、そんな彼らを遠くから見つめ、不敵な笑みを浮かべる3つの影があった。


「ん?なんの気配だ?」


「ん?なんか言ったかケンゴ?」


「あ、い、いえ、なんでもないです。」




 ******




「グギャ!!!!」


「ナイスだぜ!リサ!」


「ふふん、当然。」


 リサの放った矢がゴブリンの眉間を貫く。


「ロックバレット!」


「ガフゥ!!!!」


 ウィルの放った岩の塊を飛ばす魔法がゴブリンの鳩尾を捕らえる。


「グ!ギ!ギ!ギ!」


 他のゴブリンがやられ狼狽える残りの1匹。


「よっしゃあ!こいつは俺がやるぜえ!」


 威勢よく叫んだキースが最後の1匹を切ろうとした時。


「ギ、ギギャ!!!!」


 最後のゴブリンは腰を抜かしてしまい、その剣戟は空を切ってしまった。


 なおかつそれに乗じて凄まじいスピードで逃げてしまった。


「あ!チキショー!あいつ倒しゃあ残り4匹だったのによお!」


「全く、何やってのよ、あんたってやつは、」


「うるせぇなぁ!俺だって悔しいよ!」


「リサ、そう攻めないであげてください。しょうがないじゃありませんか。」


「うう、ウィル、ありがとよ、」


 キースが悔しがり、それを責めるリサをウィルが宥めているころ、ケンゴはゴブリンに対する評価を改めていた。


(あの状況で逃走を選択するあたり、中々賢いな。舐めてかかると酷い目に遭うかもしれない。)


「はーあぁ、すまねえなケンゴ、不甲斐ないところ見せちまって。」


「あ、い、いえ、そんなことないですよ!が、頑張りましょう!後5匹ですから!」


「そうだよな!悪かった、あんなミスはもうしねえ!後5匹、やっちまおうぜ!」


 それから5分ほど後。


「せい!」


「グゲ!」


 キースの盾による体当たりがゴブリンを捉え、潰す。


「ロックニードル」


「ギャ!!!!」


 ウィルの魔法により地面から生えた石の棘がゴブリンを串刺しにする。


「それ!」


「フギ!!!!」


 リサの矢がゴブリンの胸を貫いた。


「よっしゃあ!今度はしっかり捉えたぜ!」


「やりましたね!」


「ちょっとまって!もう1匹いる!」


 喜ぶキースとウィルにリサが叫ぶ。


 リサの視線の先には確かにゴブリンがおり、こちらを見ていた。


「ギャギャ!!!!」


 自分が見つかったことに気づいたゴブリンはすぐさま逃走を開始する。


「逃がさないわよ!」


 リサが素早く矢をつがえ放ったものの外れてしまった。


 その時ケンゴは気づいた。


(ニヤ)


 逃走したゴブリンが振り返る直前に笑っていたのを。


「かー、ちくしょう、あれをやれてりゃあ残り1匹だったのによぉ、」


(なぜやつは笑っていたんだ、わからないが警戒した方がいい)


「あ、あの、す、すみません、皆さん、」


「うっさいわねえ!しょうがないでしょ!あたしにだって外す時ぐらいあるわよ!」


 ケンゴは3人に相談しようとするも、会話に遮られてしまう。


「あ、あ、あ、あの、す、」


「2人とも、ここで喧嘩している場合ではありません、さっさと残りの2匹を狩りましょう。」


(だめだ、発言できない。)


 己の面倒な性分を嘆くケンゴ。


「そうだよな、行かねえとな。」


 立ち上がるキース。


「あ、そうだ、もしできたら残りの2体はケンゴに狩らせてやろうぜ、経験を積まないとな。」


「いい考えね、キース。」


「賛成します。」


「あ、あはは、ありがとうございます。」


(どうしよう、大丈夫かな、)


「そんな不安そうな顔すんなって!大丈夫だよ!」


 ケンゴの不安の原因を勘違いしていることをキースは知らない。



 さらに5分ほど後。



「ギギギ!!!!」


「ギャ!ギャ!ギャ!」


「よっしゃあ!ちょうど2匹いるぜえ!」


 運良く2匹で行動しているゴブリンを発見。


「ギギャア!!!!」


 しかしすぐさま逃走を開始してしまった。


「あ!絶対逃がさないわよ!」


「すみません!魔法の射程範囲外です、追いましょう。」


 それぞれが追うことを選んだ中、ケンゴは焦っていた。


(まずい、これは罠だ、誘い込まれている。攻撃が届かないギリギリの距離をあの2匹は知っている、そんな感じの間合いと逃走の仕方だ!)


 先ほどまでは奇襲とはいえ、戦うことを選んでいたはずなのに今回は最初から逃げることをあの2匹は選んだ。


「あ、あの、み、みな」


「ぜってえ逃がさねえぞ、緑チビが!」


「ああ、もう!足速い!」


 ケンゴが声をかけようとするものの、キース達には届かない。


「あ、あ、あ、」


「遠いですが魔法を放ってみましょうか?」


「いや、ウィルは魔力を温存しておけ、にしても速い!」


(まずい!取り返しのつかないことになる!)


 焦ったケンゴは勇気を出して声を出す。


「待ってください!皆さん!これは、、、、」


 叫んだ瞬間、いやな圧力を感じるケンゴ。


 その圧力の斜線上にはキースがいた。


「危ない!」


 そういったケンゴは間一髪キースを突き飛ばす。

 しかし、ケンゴ自身はそれをもろにくらい、吹き飛ばされた。


「ケ、ケンゴ!どうしたってんだよ!大丈、、、、」


 ケンゴを気遣おうとした。キースは言葉を失う。


 なぜなら圧倒的な力の波動と恐怖を感じたからだ。


 キース、ウィル、リサがその波動の出どころを見る。


 そこにいたのは緑色の肌を持ったゴブリンのようなもの。


 見た目は酷似しているが、明らかに大きい。

 身長は190セルほどはあろう。


 極め付けはゴブリンにはない立派なこしみのとドレッドヘアのような髪、それらが3体。

 それぞれ左のが顔を布のようなもので覆っており杖を獲物にしている。右のが猪のような動物の頭蓋骨を仮面のように被り槍を獲物にしている。そして真ん中のが一際大きい体躯をしており、鉤爪を獲物にしている。


 その佇まいと覇気でわかる。


 やつらは強い、他のゴブリンとは比べ物にならないほどに。


「ギャギャ!!!!」


「ゲゲゲゲゲ!!!!」


「グギグギグギ!!!!」


「ひ!」


「う、うそだろ、」


「・・・・」


 周りには大量のゴブリン、つまるところ彼らは誘き出されたのだ。


 奴らの狩場に。


「ギヒヒヒヒ。」


 でかいゴブリンの真ん中のやつが不気味に笑う。


「ああ、」


 3人が絶望しかけたその時だった。


 ぶっ飛ばされたケンゴがまるで地面から弾かれたかのように勢いよく立ち上がった。






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