1-6 変化のちペット

 



「・・・・」


(やれるだけのことはやった。さあ、どうなる?)


「グゥゥゥゥゥゥ、、、、クゥーーン!クゥーーーーン!!!!」


 白狼は苦しんでいた、しかし抗っていた、自分を支配しようとする何かに。


「ゥゥゥゥゥゥ!!!!ウォオーーーーーーーーーーーーン!!!!」


 そして一際大きい声を上げた時、白狼の体から黒い煙のようなものが溢れ出てきた。


(これが、こいつを苦しめていたものなのか?)


「アオーーーーーーーーーーーーーン!!!!」


 遠吠えのような咆哮が終わった時、黒い煙は霧散し、白狼の体からも黒い模様は消え去っていた。


 どうやらケンゴの作戦は成功したらしい。


「良かった、もう苦しくないか?」


「ウォン!」


 問いかけたケンゴにまるで答えるかのように白狼は吠えた!


「ウォン!」


「わ!?」


 それだけではなく、白狼は吠えながらケンゴに飛びかかった、しかし敵意はなかったためケンゴはカウンターを返さず、受け止めた。


「ペロペロペロペロペロペロペロペロ」


「ワハハハハハハ!!!!や、やめろ、くすぐったいぞ!」


 ケンゴがしてくれたことへの感謝なのか、白狼はケンゴの顔を舐め回した。


 ケンゴは上になる白狼の顔を抑えながら撫で回す。


「ハッハッハッハッハッハッハ!!!!」


 ケンゴに撫でられるのが嬉しいのか、白狼は興奮した息をしながらケンゴの手に顔を押し付ける。


「可愛いなぁ、青い瞳が綺麗だ。」


「ウォン!!!!」


「嬉しいか?ウリウリ!」


「クゥーン」


 頭を撫で回されるのがよほど気持ちいいのか、白狼はそのままケンゴの腹に頭を預けて腹這いになる。


(可愛いなぁ、あぁ可愛い)


 そんな白狼の姿にケンゴもメロメロだ。


 頭だけでなく背中の方も撫でてやる。


「クゥーーン」


 白狼もとても嬉しそうな声を出す。


 ひとしきり撫で回したところで、ケンゴは白狼を腹から下ろし、立ち上がる。


「ワン!」


 白狼はケンゴの前でお座りをし、尻尾をブンブンと振っている。


 そんな白狼に対し、ケンゴは告げた。


「お前はもう自由なんだ、もうお前を縛るものは何もない、お前の好きなようにするんだ。」


「クゥーン?」


 白狼はケンゴの言葉がわからないのか、首を傾げる。


(今まで出会ってきた獣たちは、みなどす黒いなにかを感じた。でもこの子は違う、気高いものを感じる、もう無闇に暴れることはないだろう。)


「また会える時があるだろう、じゃあな。」


 そう言ってケンゴが立ち去ろうとしたとき。


「キャオン!キャオン!キャン!キャン!」


 白狼は甲高い泣き声を上げて、ケンゴの前に立った。


「クゥーン」


 ケンゴは白狼がなにを言っているかはわからないが、おそらく離れたくないとおもっていることはわかった。


「俺も悲しいよ、でもお前がいるべき場所は多分この森だと思うんだ、お前は縛られるべきじゃない。」


「キャン!キャン!キャオン!!!!」


 ケンゴの言い分に対し猛反発する白狼。


 悩むケンゴは、苦しか思いながらも行動した。


「すまない。」


 そう一言告げた時、ケンゴの姿は白狼の前から消えていた。



 ******



「おお!びっくりした!お前さんいつのまに?」



「ああ、すみません」


 白狼を巻くために"全力で走ってきた"ケンゴは不覚にも門番を驚かせてしまった。


「まあ、いい、任務は終わったのかい?お疲れさ、、、、お前さんなんだいその身なりは?」


「え?」


 門番の問いに対し、ケンゴは自分の姿を見た。

 ケンゴの服は尋常ではないくらいボロボロになっていた。

 かろうじて服としての機能は保ってはいるが、


(必死で気付かなかった、こんなことになっていたとは、)


「ちょっと、獣に襲われまして、思ったよりもてこずりました。」


「獣?ゴブリンとかじゃなくてか?何にせよ大事がなくてよかった、はじめたてなのにあんまり奥には行くもんじゃないぞ。」


「す、すみません、ありがとうございます。」


「まあ、いいさ、疲れてるだろ?すまんな、説教じみたこと言って、とりあえず冒険者カードの確認を、、、、」


「いえ、ありがたいですよ、、、、門番さん?どうしたんですか?」


 不意に言葉を止めた門番の顔を見るケンゴ。


 門番の顔をケンゴの後ろの方をみて、ひどく青ざめていた。


 まるで生命の危機を感じているかのような。


「?なにが、」


「キャオン!」


 その泣き声を聞いた瞬間、ケンゴは全てを理解し、後ろを向いた。


 そこにいたのは、あの白狼だった。


「クゥーン、」


 白狼はケンゴの前で伏せの態勢になり、潤んだ目でケンゴを見つめる。


「白狼、君は僕のもとにいるべきじゃないと思うんだ、諦めてはくれないか?」


「キャオン、」


 ケンゴの問いかけに対し白狼は悲しそうに泣いたあと、ケンゴの服の裾を咥える。


「クゥーン」


 そしてより一層悲しそうな声をあげる。


「どうしたもん、」


「お、おい!お前さん、一体どういうことなんだ!わけがわからんぞ!」


 悩むケンゴに対し、半ばパニックの門番が叫ぶように聞く。

 さらに門番は腰にさしている剣に手をかけていた。


「?!グルルルルルルルル!!!!」


 自分やケンゴに対し敵意を向けていると思ったのか、白狼は門番に牙を剥く。


「!!!!」


 門番は恐怖しながらも体を構える。


「お、落ち着いてください!お、おい、お前も!牙を剥いちゃダメだ!」


 そう言って、ケンゴは白狼の頭を撫で回す。


「グルルルル、、、、クゥーン!!!!」


 ケンゴのナデナデにより、フニャフニャになる白狼。


「大丈夫だよ、よしよし。」


「お前さん、そのモンスターといったい、、、、」


「えっとあの、なん、」


「そいつとはいったいどういう関係なんだ!」


「うーんと、も、森で苦しんでいたこの子を、助けてあげた、かな?」


 嘘は言っていない。


 方法が方法だが。


「、、、、それで、そんなふうになつかれたと?」


「そ、そんな感じです。」


「アオーーーーン」


 ケンゴが受け答えている最中に、白狼はケンゴにお腹を撫でてもらい、だらしない声を上げていた。


「うーん、どうしようか、」


「、、、、そこまで懐いているなら、飼ってやってもいいと思うんだが、モンスターだし、お前さんテイムの魔法は使えるかい?」


「いえ、(魔法は)使えません、」


「だよなぁ、それになんといってもデカさがなぁ」


 門番のおじさんがそう発した時、不意に顔を上げた白狼は勢いよく立ち上がる。


「ウォーーーーーーーーン!!!!」


 一際大きく吠えた白狼。


 白狼の体は光に包まれた。


 目を背けるケンゴと門番。


 光がやみ、目を開けたら門番とケンゴの前には。


「ワン!!!!」


 かなり、サイズが小さくなった白狼がいた。


 どれくらい小さくなったかというと、中型犬と呼べるくらいには、


「こ、こいつは驚いた、相当高位のモンスターなんだな、いや、ひょっとするとこいつは、」


「ワン!!!!」


 門番が驚きを口にしている時、白狼はケンゴに飛びかかった。


「よっと!すごいなぁお前は、そんなこともできるのか、」


「クゥーーーーン、」


 白狼を抱えたケンゴは白狼を褒めながら撫で回し、白狼はケンゴの腕に嬉しそうに身を委ねる。


「ま、まぁ、デカさはオッケーだし、なつき方的にも大丈夫なんだが、モンスターだしなぁ、う〜ん、どうしたものか、」


「、、、、やっぱりお前は自然の中で暮らすべきなのかもな、」


「クゥーン、クゥーン、」


 責任と危険に悩む門番とケンゴ、一際悲しそうにする白狼、そこにある人物が現れた。





「すまない、どうかしたのかね?」





 反応したケンゴは声の人物を見る、そこにいたのは優雅な貴族風のスーツに身を包んだ片眼鏡の紳士だった。


「こ、これは、ハウエルさんじゃあないか、お疲れ様です。」


「やあ、フランクさん、お疲れ様。それで、一体何が?」


「じ、実は、、、、」


 突然現れた紳士ハウエルさんに、門番のフランクさんはことの次第を説明する。


「なるほど、そういうことだったのか、そしてこの逞しい青年と可愛らしいこの子が、件の、」


「ど、どうも、初めまして、ケ、ケンゴと言います。」


「ウォン!!!!」


 目を合わせられないケンゴは伏目がちに挨拶をし、白狼は大きく吠える。


「確かにすごい懐きっぷりだね、ふむ、」


 ハウエルは顎に手を当て、何かを考えた後、こう言った。


「わかった、私が直々に許可を出そう、何かが起これば、責任は全て私が取る。」


「!?」


「ハ、ハウエルさん、いいんですかい!?そんなことを言っちまって!?」


 驚くケンゴと門番のフランク。

 それもそのはず、友人どころか、知り合いでもない赤の他人の責任を全て取ると言ったのだから。


「そ、そんな、こま、困ります、あなたに迷惑は、かけ、かけられません、、、、」


「大丈夫、心配はいらないさ、たとえ何か起こって私が責任を取ることになったとしても、それは君のせいではなく、愚かな私の責任だ。」


「で、でも、」


「本当に大丈夫さ!私の勘がそう告げているからね!」


 どこか説得力のある笑顔でそう告げたハウエルに対しますます不安になるケンゴ。


「ま、まぁ、確かにケンゴの言うこともわかる、だがここはハウエルさんに頼ってみたらどうだ?」


 門番フランクまでそんなことを言い出した。


「も、門番さ、い、いや、フランクさんまで何を言って、」


「いや、まあ、確かにモンスターなんだが、その子を見てたら、俺もその子が何かしでかすとは思えなくなっちまってなぁ、」


 ありがたい話だが、それでも迷惑がかかってしまう、困惑するケンゴ。


 ケンゴは腕にいる白狼を見る


「クゥーン、、、、」


 白狼の上目遣いにケンゴは心を決めた。


「ハ、ハウエルさん、すみません、頼ってしまってもよろしいでしょうか?」


「勿論だ、私に任せてくれ!」


 胸を張るハウエル。


「わかりました、本当にありがとうございます、よろしくお願いします。」


「ウォン!」


 深々と頭を下げるケンゴと嬉しそうに吠える白狼。


「大丈夫だよ!ああ、一応許可証がわりに渡しておくよ、」


 そう言うとハウエルはケンゴにメダルのようなものを渡した。メダルにはサインのような文字が刻まれていて不思議なオーラのようなものが漂っている。


「こ、これは?」


「わたしと繋がりがあるものに渡すものだ、もしその子の事を疑われたら、それを見せるといい。」


「そ、そんなものを頂けるなんて、ほ、本当に、」


「そんな気にしないでおくれ、それより早くその子の世話をする準備を整えてやるんだ。」


「そ、そうですね、ありがとうございます。ではこれで、」


「ああ、何かあったらこのハウエルを頼ってくれ!」


「すいません!ありがとうございます!」


 再び頭を下げたケンゴは全速力で居候先へと向かった。


「あ、足速ぇぇな、それよりハウエルさん、えらくあの子を気に入ってるようですが、一体なんで、」


「まあ、それも私の勘だね、あの子はきっととてつもない子だと思うんだ、こう見えても、私の勘はよく当たるんだよ。」


「は、はぁ、」


「では私もギルドに戻るとするよ、フランクさん、頑張ってね!」


「ありがとうございます!」


 門番フランクにエールを送り、仕事場へと戻る紳士ハウエル。


(あの子には言ってなかったが、あれはモンスターではなく"聖獣"だ、そして聖獣を手懐けたあの子は只者ではない、それに何より気高い精神を感じた。素晴らしい子と知り合いになれたものだ。)


 紳士ハウエルはどことなく嬉しそうだった。






 ****





「そ、その、本当に、すみません。」


「ワン!」


 猛スピードで帰ってきたケンゴはイリスとレナにことの次第を話した。

 白狼を抱き抱えながら。


「ケンゴ様とそこまで激しい戦いをするなんて、その子はとってもお強いんですね!」


「い、いや、そういう問題じゃ、」


「ケンゴ様、事情はわかりましたが一体何をしたいのですか?」


 的外れな感想を言うイリスと違い、レナは冷静にケンゴに尋ねた。


「正直に言うと、この子の面倒を見てやりたいと思います、その、ここまで連れてきちゃったし、それに、」


 ケンゴは抱き抱えている白狼を見る。


「クゥーン」


「こんなに懐いちゃってると無下にはできないと言うか、」


 申し訳なさそうに呟き白狼の胸を撫でるケンゴ。


「ただ、餌とか場所とかの問題もあるし、やっぱり難しいですよね、」


「いえ、問題ないと思われます。」


「え?」


「この子は魔獣やモンスターの類ではありません、聖獣です。」


「えっと、魔獣と、あと聖獣とは?」


「あぁ、ケンゴ様は特殊な境遇の方でしたね、では簡単に説明しましょう



 モンスターとは通常この世界に生息している動物であり体内にある魔石から生み出される魔力で様々な力を行使することができる、稀に家畜用の無害なモンスターもいるが基本的には膨大な魔力を必要とし、魔力を得るためにはしっかりとした食事を必要とするため凶暴なモンスターが多く、特に目が赤くなっている物は魔獣と呼ばれ餓死寸前なので非常に危険である。近年モンスターの数が増えており、それに伴い飢餓などから魔獣化が進行する問題も増えているため深刻な問題が多い。


 聖獣とはモンスターの中でも自身の魔力との親和性が非常に高く、魔獣化した際に体内にある魔石が完全に肉体と融合することによって生まれた個体。この個体は空気中の魔素を取り込むことができるため基本的に食事を必要とせず、己の魔力を自由自在に操ることが出来る高次元の存在であり、並のモンスターや冒険者では全く歯がたたない。ただし限りなく数が少ない。


 以上がモンスターないし魔獣と聖獣の違いでございます。」


「ありがとうございます、とてもよくわかりました。とどのつまりこの子はモンスターではなく聖獣で餌がいらないんですね。」


「その通りでございます、ケンゴ様とまともに張り合える時点でもしやと思いましたが、身体の大きさを変えることが出来ると聞いて確信しました。飼う場所に関しても、基本的にはこの家の中で問題はありません。」


「よかったなあ!」


「ウォン!!!!」


 ケンゴに撫でられながら白狼は嬉しそうに吠えた。


「ふふ、本当に可愛いですね。」


 そう言いながらイリスは白狼の頭を優しく撫でる。


「クゥーン」


「あ、そういえば、ケンゴ様、この子に名前はつけないのですか?」


「あ、そうだった、たしかに白狼じゃ名前でもなんでもないなぁ。」


「クゥーン?」


「うーん、どうしよう」


「クゥーン?」


 白狼を見つめ悩むケンゴとそれを見て首を傾げる白狼。


(単純だがこれが一番いい気がするな)


 ケンゴの心は決まった。


「"ハク"、今日からお前の名前はハクだ!」


「ウォン!」


 ケンゴの腕の中でお腹をみせながら白狼は嬉しそうに吠えた。


「ふふふ、よろしくお願いします。ハク様!イリスです!」


「よろしくお願いします。ハク様、レナと申します。」


「ウォン!!!!」


 ハクとケンゴたちの自己紹介が終わり、今日も一日が終わろうとしていた。


「しかし妙ですね、聖獣は本来食事を必要としないため、魔獣化することはないはず、なのにケンゴ様の話を聞く限りこの子は半分魔獣化していた、一体何が、」







 その日の夜。




(なんやかんやあって今日も疲れたな、寝るとするか。)


 ケンゴがベッドに入ろうとした時だった。


 "カリカリカリカリ"


「クゥーン」


「?ハク、どうしたんだい?」


 どうやらハクがケンゴの部屋のドアの前にいるらしい。


 ケンゴはドアを開けてハクを招き入れる。


「クゥン、クゥーン、」


「?」


 ケンゴの前でお座りをして何かを訴えかけるハク。


「もしかして、一緒に寝たいのかい?」


「ウォン!!!!」


 ケンゴの問いに対し、耳をピンと立てて吠えるハク。


「いいよ、おいで。」


「ウォン!!!!」


 ケンゴの招きに対しすぐにハクは反応し、ベッドに乗りケンゴの横に寝そべった。


「ふふ、おやすみハク」


「クゥーン」


 ハクを撫でながら、ケンゴは深い眠りについた。









 ☆風聖獣フェンリル(ハク)☆


魔獣化フェンリルが己の魔力と完全に融合し進化したもの。風を自由自在に操り、身体能力もはるかに高い。本来聖獣は飢えないため魔力に身体を侵食されることはないがなぜ魔力に侵食されていたかは不明。




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