1-5 出会いと戦いと

 








 次の日、いつもより早く起きたケンゴはレナとイリスがまだ寝ているうちに、朝のウォーミングアップを済ませ、ギルドに向かっていた。


(まだ、陽が出て間もないけど、ギルドは空いてるかな?)


 不安を抱えながらギルドに赴く、なかを見てみると受付には人がいた。どうやら空いているみたいだ。


「いらっしゃいませ、ケンゴ様、お早いですね。」


 どうやら受付にいたのはセリスだったらしい。


「おはようございます、えっと薬草採取を受けます」


「かしこまりました。こちらがクエスト要項になります。それではお気をつけて!」


 受付を済ませ、ケンゴは森に向かった。



 ******



 何かがおかしい


 ケンゴは森に入ってからそう思っていた。


(小人の数が昨日の比じゃない、)


 森に入って少ししたところでケンゴに小人モンスターが次々と襲いかかってきていた。


 次々と襲いかかるそれら有象無象を処理しながらケンゴはある疑問を抱いていた。


(統率がとれていない、最初から僕を襲う気ではなかったのか?なんだろう、何かから逃げてきた途中のような。)


 小人モンスターを処理しながらケンゴは考える、やがてそれは確信に変わった。



 とてつもない大きさの力の気配にケンゴは気付いた。

 方向は小人モンスターが来る先、何かが力強く大地をかける音がする。


 初めて会った鱗をもったサイのようなやつの足音ではない、力の気も鱗サイとは比べ物にならない。


「やはり、何かがいるか、大丈夫だろうか、まずいんじゃなかろうか、」


 少しの不安を覚えるケンゴ、ここは異世界、自分よりもはるかに強いなにかが、いるかもしれない。


 身構えるケンゴの前に木々を押し除け、ソレは現れた。

 









「し、白い狼?」


「グルルルルルルルルルルルルル、、、、!!!!」


 ケンゴの目の前に現れたのは、6メートル以上はあろうかというほどのとてつもなく巨大な狼だった。


(真っ白い綺麗な毛並みだけど、あの黒いのは?)


 狼の全身は綺麗な白い毛並みだが、体の3分の1程度、そして顔の半分ほどを黒い何かが侵食していた。

 そして、極め付けは右目が赤い光を、放っていた。

 その目から、何か得体の知れない邪悪な気を放っているようだった。

 反対に左目は綺麗な青色だった。


「この気、あの時の鱗サイと同じだ、」


「グルルルルルルルルルルルルルル!!!!」


 目の前の狼から感じ取られる邪悪な気はケンゴが初めて出会った鱗サイ(ライノス)に似ていた。


 それは目の前にある生物を蹂躙せんとする、強烈な破壊衝動の気だった。


 初めてこの世界に降り立った時、イリス達を救えたのもその気を感じ取ったからだったのだ。



「グルルゥウアアアアアア!!!!」


 考え、立ち尽くすケンゴに痺れを切らした狼が飛びかかる。


 右前脚による力強い振り下ろしにいち早く気づいたケンゴはそれよりも早く右足による上段回し蹴りを狼の頭部に叩き込む。


「破ァア!!!!」


「ガァアア!!!!」


 モロに回し蹴りをうけた狼は横に大きく吹っ飛ばされるものの、飛ばされてる間に態勢を立て直しケンゴを見据える。


(あの、サイ(ライノス)とは比べものにもならないか、タフさが違う)


 かなり気合を入れた蹴りを側頭部に当てたもののたいしたダメージにもなっていない。


「グルルルル、、、、」


 かといって、舐められているわけでもなく、白狼はケンゴを観察し、注意深く探っているようだった。


「グルァアアアア!!!!」


 観察を終えた白狼は再びケンゴに飛びかかる。


「ハ!セイ!ヤ!うお?!」


 どうやら先程よりもさらにタフになっていたらしい。


 左前脚のなぎ払いを防ぎ右拳によるカウンター、右前脚の袈裟下ろしに対する左フック、噛みつきをショートアッパーでカチあげたにもかかわらず、間髪入れずにのしかかってきた。


「ぐぐぐ、すごい力だ!」


 両前脚を掴み必死に押し返すケンゴ。


「ガウ!!ガウ!!」


 ケンゴの頭を噛み潰さんとする白狼。


「ぐう、どっせい!!!!」


「ガアッ!!!!」


 噛みつきを避けたと同時に、白狼の腹に足をかけケンゴは巴投げを極めた。


 白狼はまたしても空中で体制を立て直しケンゴを見据える。


「グルルルルゥゥ、、、」


「・・・・」


 再びの頓着状態。


 先ほどよりも気を引き締めたように見える白狼が地面を蹴り込み飛びかかろうとしたその時。


 爆発音のようなものとともにケンゴの身体が"加速"した。


 そして今まさに飛びかかろうとして、両腕が上がった状態の白狼の胸にサイドキックに近い形の蹴りが着弾する。


 神室流による特殊な操気法、それを用いた地面の蹴り込みによる爆発的な加速、そしてその推進力と蹴りの着弾の瞬間にさらに気を爆発させる内頸技、それら全てを合わせたその技の名は。


「神室流奥義『爆式推進砲』」


「ガァァアアアアアアアア!!!!!!!!」


 モロにケンゴの奥義を食らった白狼は後ろに大きく吹き飛ばされ、木に激突し、それでも勢いは収まらずその木を思い切りへし折った。


「グ、グルゥ、、、、」


 それでもまだ白狼は立ち上がろうとする、様子を見るにまだ戦えるらしい。


「ク、クゥ〜ン」


「?」


 しかし、何かがおかしい、一瞬先ほどとは全く違ったか細い声を出した、心なしか威圧的な殺気も消えた気がする。


「、、、、グルルゥァアアアアアア!!!!」


 しかしすぐに先ほどの殺気が戻ったかとおもうと、体制を立て直しケンゴに飛びかかる。


(なんだ、この違和感は?)


 悩みながらも、左の振り下ろしをいなそうとした時だった。


「うぐぅ!!!!」


 ケンゴの顔面から腹にかけて強烈な突風が物理的な衝撃を伴って襲いかかった。


 大きく吹き飛ばされそうになったケンゴは地面をえぐりながらも気合で耐えた。


「今のは、お前の技か?」


「グルルァアアアア!!!!」


 答えるかのように白狼は右前脚を振り下ろす。


 それと同時に謎の風圧を感じたケンゴは大きく横に飛ぶ。


 瞬間、ケンゴの後ろにあった木が横に切れた。


(まさか、これは、魔法?)


「グルァア!!!!」


 白狼はケンゴが着地した瞬間を狙って再び風の刃を飛ばす。


「せい!!!!」


 ケンゴはそれを後ろ回し蹴りの圧で相殺する。


「少し驚いたが、それほど脅威的な威力ではないな、こちらから行くぞ!」


 叫んだケンゴは白狼に向かって駆け出す。


 白狼は風の刃をいくつも飛ばすが、ケンゴは勢いを止めることなく、躱し、いなし、相殺する。


 そして白狼まであと一歩、白狼が刃を出そうと左の前脚を上げたとき、先程のようにケンゴは急加速し、白狼の懐に潜り込んだ。


「神室流奥義、『大砲』!!!!」


 ケンゴの大砲をもろに喰らった白狼は声を上げることもなく後方へ吹っ飛ぶ。


 だが、今度はそれだけでは終わらなかった。


「フッ!!!!」


 さらに踏み込み急加速するケンゴ。


 まだ空中にいる、白狼に向けて自身も飛びながら身体をひねり回転させる。


 神室流の操気による加速、そこにさらに捻りを加え遠心力を込めた後ろ回し蹴り、その名は、


「神室流奥義、『大鉄扇脚』!!!!」


 ケンゴの大鉄扇脚を側頭部に受けた白狼は、さらに横に大きく吹っ飛びその身体で地面をえぐりながら着地した。

 先ほどよりもかなり気を込めて、二つの技をたたき込んだ。

 無事ではすまないだろう。

 しかし白狼は身体をダメージで震わせながらもゆっくりと立ち上がる。


「グ、グルゥ、、、、ク、クゥーン、クゥーーン!!!!」


「?」


 だが、白狼は魔法を放つ前のような様子を見せた。

 それも先程よりもより顕著に。


「クゥーン!クゥーン!キャン!キャオン!!!!」


 どこか苦しそうな、必死そうな鳴き声をあげる、先ほどまでの殺気も消えている。

 それはどことなく、


「何かに、抗っている?」


 ケンゴはそう捉えた。


(こいつは、何かに操られそうになっていて、それでも抵抗しているのではないだろうか?先ほどまでの強烈な殺気と今の弱々しい状態の違いはそこから、)


「グルゥ、クゥ、グルゥ、、、、!!!!」


 しかし、その状態はながくは続かなかった。


 身体を震わせながらも、白狼は脚を構え、再びケンゴに向かう体制を整えている。


「グルゥ、クゥ、クゥゥ。」


 しかし、白狼は苦しんでいた。

 白狼はケンゴの奥義をその身に受け続けたことにより、何かの拘束から目を覚ましつつあった。


(闇が、蠢いている?)


 それと同時に、白狼の身体の半分ほどを覆う闇がまるで白狼を完全に乗っ取ろうと蠢いていた。


「クゥゥン、ゥゥゥゥ、キャン!キャン!」


「お前は、苦しんでいるのか?」


「グルルルル、ルゥ、クゥーン、」


 闇がそこまで来ているのか、殺気が溢れてきている。

 しかし同時に苦しそうな様子も変わらない。


(このまま、こいつは乗っ取られてしまうのだろうか、こうなれば一か八か)


「白狼!今からお前をぶっとばす!死ぬかも知れんが、そのまま乗っ取られるよりはましだろう!」


 ケンゴの言葉が伝わったか、はたまた意志が伝わったか、白狼の蒼い瞳が見開かれる。


「グルァアアアアアア!!!!」


 しかし片方の瞳が赤く染まると同時に白狼は口を大きく開き口内に風の塊を生成する。


 その場で左構えをとるケンゴ。


「歯を、食いしばれ、、、、」


 双方が構える、


 そして、先に技を放ったのは白狼だった。


「グルァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」


 凄まじい咆哮と轟音と共に、白狼の口から水平上の竜巻のようなものが放たれる。

 それは伸びるたびに大きさを増し、やがてケンゴを飲み込むほどの大きさになり、ケンゴに着弾した。


 勝った。


 そう、白狼か、もしくは白狼の意識を飲み込もうとするものが思った時、それは訪れた。


「ぬぅうん!!!!」


「!?」


 その竜巻の中を真正面から突っ切ってきたケンゴが白狼の顎にアッパーを叩き込む。


 その強さと衝撃におどろく白狼。


 しかしそれだけでは終わらない。


 アッパーで空高くに舞い上がる白狼、そしてケンゴもアッパーと共に空に飛ぶ。


 まだ空中にある白狼の身体。


「神室流奥義」


 ケンゴは前周りを開始。


 重力、遠心力、神室流の操気を合わせるかかと落とし。


 その名は


「『鉄槌』!!!!」


「ンキュア!!!!」


 衝撃音と共に猛スピードで背中から地面に激突する白狼。


 しかし白狼の呪縛は解けていない、だが、まだケンゴの攻撃は終わっていない。


 白狼の体目掛けて急降下を開始、狙うは白狼の胸あたり。


 ケンゴはイメージをする、相手を物理的に破壊するのではなく、エネルギーそのものを流し込むように。


 拳撃の形は掌底。


「我流奥義『圧撃砲』!!!!」


 その掌底は見事に白狼の胸に叩き込まれた。













☆神室流奥義 爆式推進砲☆

神室流の操気による爆発的な踏み込みのエネルギーを込めて放つサイドキック。物理的な破壊力が高い。かなり遠い距離から放つことができるため相手の意表をつくことができる。


☆神室流奥義 大鉄扇脚☆

神室龍の操気に遠心力をプラスした技。物理的な破壊力は推進砲よりも高いがモーションが大きいためスキを作らないと放つことは難しい。



☆神室流奥義 鉄槌☆

神室流の操気を用いた踵落とし。

非常にシンプルであり重力によりとてつもない威力を発揮する。


☆我流奥義 圧撃咆☆

白狼との戦いにおいて、ケンゴが編み出した技。物理的な破壊ではなく、内部にエネルギーを直接送り込み、気つけのような効果を持たせるイメージをする。




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