第4話 食堂

昼休み。


俺は大学の生協食堂『レストラン ファミリア』に来ていた。


ガヤガヤ ガヤガヤ


4限の授業が終わった直後に来たのに、席はほぼ埋まっている。

さて、どこに座ろうか――


ブーッ ブーッ


不意にポケットのスマホが震える。

俺に着信?


自慢じゃないが俺は友達が少ない、というかいない。

一体誰だろうか。


スマホの画面を開くと、そこに表示されていたのは「四条 心寧」という名前。


「はぁ……」


あの後、俺は1限から4限まで四条さんと同じ授業を受けていた。


そして、約束通り全ての授業で俺が教科書かレジュメプリントを見せる羽目に。

経済学部の授業はまだ分かるが、なんで一般教養まで同じなんだよ……。


そしてこの電話の内容はおそらくさっき、つまり4限終わりの続きだろう――





キーンコーン カーンコーン


「はい、今日の授業はここまで」


マクロ経済学の先生はそう言って教材を片付け、教室から出て行った。

ふぅ、これで午前の授業も終わりか。


俺は立ち上がり鞄に教科書とノートを突っ込んで教室から出ていこうとする。


タッタッ タッタッ


「疲れたな……」


「本当に疲れましたねー。私もうクタクタですよ~」


「……おい。なんで付いてきてるんだ」


当たり前のように、俺の後ろをちょこちょこと付いてくる小悪魔系美少女。

もう用はすんだだろ……。


「えっ、浩太くんはお昼食べないんですか?私お腹すきましたよ~」


「いや、なんで俺とお前が一緒に食べる前提になってるんだよ……。あいつ等と食えばいいだろ?」


授業後、俺が席から離れた瞬間に光の速さで四条さんを飯に誘ってきてたチャラ男軍団。


なんか奢るとかなんとか言ってたし、タダ飯余裕でいけただろ。


「いや、私ああいう人達無理なんですよね~。もっとこう、真面目な人がいいというか……。あっ、別に浩太くんのことじゃないですよ?『ひょっとしてこいつ俺のこと好きなんじゃね?』とか勘違いしないでくださいね♪」


「……」


なんなんだこいつは……。

俺は無言で歩くペースを速める。


「あっ!ちょっと待ってくださいよ~。私ヒールだから速く歩けないんですってばー」


「……」





――というわけだ。

まあ、でもここで出ないと後々面倒くさいことになりそうだしな。


ガチャッ


「もしもし」


『もうっ、なんで先行っちゃうんですか!浩太くん!!』


突然の大声に少しビックリする。

なんでこんなに俺怒られてるんだよ……。


「だから、俺じゃなくて他の奴と食えばいいだろ?俺と違って飯食う友達くらいいるだろ、お前なら」


『もーっ!なんでそんな意地悪言うんですか?ぼっち飯を寂しく食べる浩太くんを助けてあげようという私の親切心ですよ?さあ、早く場所を教えてください』


四条さんは有無を言わさない口調で問い詰めてくる。


俺が無害そうだから、俺に飯を奢らせようって魂胆だろう。


それは暗黒時代にもう何度も経験済みだ。

もうその手には引っかからないぜ。


「それは余計なお世話だっての……。それに、今日は飯を食う相手がいるしな。すまん」


『えっ……?だ、誰ですか。まさか女の子なわけないですよね?」


「……まあ、一応性別は女だな」


『だ、ダメです!そ、それは絶対だめ……。騙されてますよ浩太くん。目を覚ましてください!』


「いや、友達というか知り合いだから。まあ、とにかく大丈夫だ。じゃあな」


『ま、待ってください!とにかく私の話を――』


プツッ ピーッ ピーッ


俺は電話を切る。

なんで彼女はここまで俺に関わろうとしてくるんだ?

まあ、いいか。


俺はラインを開き、メッセージを確認する。


「あ、メッセージ来てる」


待ち合わせ相手から『今着いた』とラインが来ていた。

1分前だから入り口付近にいるはず――


「おい、誰だよあの子。めっちゃ可愛いじゃん!」


「え、どれどれ?うわっ、確かにアレはヤバい。モデル?」


「いや、分かんねえ。声掛けたいな~」


「いや、俺らなんかじゃ相手にされないだろ……」


周りの視線の先にいたのは、俺の待ち合わせ相手だった。


「やっぱり目立つんだよなぁ、アイツは」


――水野 アリサ。文学部の1年生。

さらさらとした銀色のロングヘア―に、澄んだブルーの瞳。


彼女と俺の唯一の共通点。

それは、


「ユーチューバー仲間、か……」


――同じぼっち系大学生ユーチューバーである、ということだ。

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