004 『手紙は千円札の人』

 その後、手紙に書く内容を打合せしてから、マチルダさんは帰った。うん、大体の方針は決まってきた。


「山田様、アップルティーのおかわりはどうされますか?」


「いる」


 ミリーは僕の空いたカップにアップルティーを注ぎながら、尋ねてきた。


「本当に毎年お手紙を書くおつもりですか?」


「ああ」


 ミリーは不思議そうな表情で僕を見つめる。


「……なぜそこまでするのですか?」


「あのお母さんを見てたらそうしたくなった。それだけだよ」


「本当にいつも"お母さん"にだけは、サービスがいいですね」


「うるさいな」


「マザコンなんですか?」


「違う」


 ここで、インターホンの音が鳴った。

 ミリーが応答して、玄関へと向かい小さなお客様であり、もう一人の依頼人を連れてきた。

 その少女は、先程見せてもらった写真の少女。

 ザリガニを片手に、Vサインをしていた少女。

 マチルダさんの娘にして、今回の手紙の受け取り人––––エミリちゃん。


「やあ、よく来たね、ご用件は何かな?」


「あのね! ママにね! お手紙を書きたいの!」


 開口一番、エイミちゃんが元気にそう言った。


「何故だい?」


「もうすぐ母の日だからね、プレゼント!」


「いいね、ママもきっと喜ぶぞ」


「それでね! なんて書いたらいいか学校で友達に相談したら、『手紙は千円札の人』って言ってたから来たの!」


 そう、僕の顔はなぜか千円札に乗っている。文系の偉人枠として、なぜか乗ることになってしまった。

 まだ、生きてるのになぁ。


 でもいい子だな。手紙を書きたい……か。

 手紙ってのは送っても幸せになれるし、受け取っても幸せになれる。

 そうだな……今回、マチルダさんには両方をしてもらおう。

 エミリちゃんが心配で心配で仕方ないというのなら、『大丈夫だよ』というのを見せてあげよう。

 マチルダさんが、エイミちゃんを大切に思っていたように、エイミちゃんもマチルダさんのことを大切に思っているのだろう。


 マチルダさんは何も教えてあげられなかった、もっと一緒に居てあげたかったと言ってはいたけれど––––ちゃんと大切なことは伝わっているのだろう。


 大事なのは、一緒に居てあげられる時間でも、何かを教えてあげることでもない。


 沢山の愛情を注いであげることだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る