第29話 楽園
広がる花畑、風貌とは異なり優しさを・・・温かさを感じさせるファルスの雰囲気。
奴隷の少年は、小さく開いた口を閉じられなかった。
「改めて、俺の名はファルスだ。
・・・名前を訊いてもいいかい?」
「あ・・・」
少年はほんの少しだけ落ち着いてから、喋る。
「れ・・・レト。」
「ありがとう、レト。
色々聞きたい事はあるだろうが・・・まずは食事にしよう。
俺の仲間が丁度夕食を用意しているはずだ。」
そうファルスが言った時だった。
奥に見える館の正面玄関が勢いよく開けられ―――
たくさんの子供達が飛び出してきた。
十数人いる子供たちは皆、ファルスやレシンの元へ駆けよる。
「ファルスさんおかえりなさい!!」
「あぁ、ただいま・・・皆。」
「ファルスさん大丈夫?怪我、してない?平気?」
「心配しなくても、俺は大丈夫だよネルタ。
何かあっても俺は強いんだから・・・」
「強くても心配だよ!」
「そうだよ!とても心配!!」
「わかったわかった・・・」
呆然とその様子を見ていたレトに、他の子供達が駆け寄ってきた。
「君もファルスさんに連れられてここに来たんだね?」
「え。う、うん。」
「良かったね!!ファルスさんに見つけて貰えたんだもの!!」
「ここに居るみーんな、ファルスさんが助けてくれた仲間なんだ!」
「え・・・」
状況を把握し始めたレトに、レシンが説明する。
「レト君。
君はもう地獄のような生活に戻る事はない。
私とイェサル、ファルスが皆を必ず守る。
もう、誰かに・・・何かに怯えて暮らす日は終わりだ。」
レトの目から、涙が零れ落ちた。
「あ・・・」
次第に、涙の量は増え・・・
全てが瓦解するかのように、レトは泣き叫んだ。
泣き叫ぶレトを子供達が囲み、ただ何も言わず笑顔で傍に寄り添う。
その光景を見るファルスとレシンが、優しく微笑む。
そよ風がその場に居る者を優しくなで続けた。
ワシのような顔をした男イェサルが、花畑に設置されたテーブルに料理を運んできた。
木のイスに座って待っていた子供達が歓喜の声を上げる。
さいの目状に細かくなった野菜が入ったスープ。
トマトベースで作った、ハーブが添えられたリゾット。
皆が取れるよう、三枚の皿に分けられたチキンソテー。
他にも色とりどりのサラダ、パン、飲み物の入った鉄製のポットもある。
「「「いただきます。」」」
ファルス、レシン、イェサル。
「「「いただきまーす!!!」」」
そして、子供達。
「い、いただきます。」
遅れてレトがそう言い、食べ始めた。
レトはリゾットを口に運びながら、再び涙を流す。
(かなり痩せている。
数か月はロクな食事をしていないんだろう・・・)
ファルスは一瞬辛い表情をするが、すぐに明るい表情に戻り食事を続ける。
「レト、遠慮なく食べなさい。
もしここにある料理が無くなったら、まだおかわりだって持ってこれるんだ。」
「は、はい・・・!」
「まぁ・・・ここに来てすぐだ、喉を通らない時は無理せずゆっくりでもいい。」
その後は、子供達がレトの様子を見ながら話しかけ・・・
いつの間にか、皆の一員となっていた。
「ファルス。
このあと出る予定だったろう?片付けはこっちでやっておくぞ。」
「イェサル、その予定なんだがな・・・」
「少し日にちを置く。」
「なに?」
「追手が居た。」
「だが撒いたんだろう?それに、次のオークション予定は早めに仕入れておかなければ―――」
「撒きはした・・・
だが今回の奴らは恐らく今までのとは違う。」
「強いのか?」
「強い・・・そうだな。確かに強い。
だが恐らく力だけじゃない。」
「追って来た一員の中に、信じられん程優しい雰囲気をまとった少年が居た。
周りに居た奴らは意識的なのか無意識なのか・・・少年を守ろうとしながら俺を追っていた。」
「!?」
「横取りしようとするゴミ野郎よりも、執念をまとった『良い奴』の方が厄介だ。」
「・・・確かにな。」
「五日だ・・・五日後に、再びあの場所へ行く。
それまでは俺もここを出ない。諦めてくれることを祈るしかない。」
ファルスは冷静に、自分たちの敵となりうる存在を見極めた。
ワッシュ達はそんなやり取りも知らず―――
「さて・・・いつ動く?」
しかし、罠を張って待ち始めた。
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