第28話 隠さなければならない花園

オークション会場から参加者が次々に館から出て来る。


その中に混じって出てきたワッシュとカーナを、縞が見つけた。


「お!」


ワッシュとカーナは、縞の元へ行き合流する。


カーナが暗い表情をしているが、ワッシュが先に切り出す。


「縞。この館の裏側は見たか?」


「え?あぁ、さっき一通り見て回ったぜ。」


「裏口があっただろう。場所はわかるか?」


「おお、あったな。


この建物の裏は屋根だけ取り付けられた貸し場所の店が並んでてよ。


ただ一か所だけ何も無くて、代わりに建物にドアがついてたな。」


「そうか・・・」


「てことは、見つけたのか?」


「ああ。


商品を落札した者は裏口から出るらしい・・・ファルスはそこから出て来る。」


「なるほどな。


てか、タノスはどうしたんだ?」


すると遅れて出てきたタノスがやってきた。


「俺は預けてた弾を回収してたんだ。遅れてすまない。」


「え?預けてたって・・・お前まさか、手持ち全部かよ!?」


「手持ちは、な。」


「よくそんなめんどくさいこと出来るな・・・やっぱ俺入らなくて良かった~~~!」


安心する縞に、タノスが切り出す。


「それよりも今はファルスを追うのが先決だ。」


「お、おう。


今ワッシュから聞いたぜ・・・裏口を遠くから見張れる場所なら見当がつく、ついてきてくれ。」


そう言い、縞が歩き出す。


「・・・大丈夫か、カーナ。」


タノスが暗い表情をしたカーナに声をかける。


「大丈夫です。


大丈夫じゃないのは・・・奴隷にされた、あの子の方ですから。」


「・・・」


タノスは特に何か返事をするわけでもなく、歩き出す。


ワッシュ、それにつづいてカーナも縞の後を追う。






建物の裏口から、首輪に繋がれた鎖を持ってファルスが出てきた。


「お帰りの際はお気をつけて下さいませ、ファルス様。」


「あぁ。今日もいい商品に出会わせてくれて感謝するよ。フフフ・・・」


ファルスは鎖を引き、奴隷を大きな一つ目で見つめる。


「さぁおとなしくついてこい。


お前にもう自由は無いんだ・・・もがいても無駄だぞ?」


「・・・」


少年は黙ったまま、トボトボと歩く。


「もがく気力も残ってないか・・・フフフ!!!」


ファルスは嫌な笑みを浮かべながら、どこかを目指し歩いていく。






街外れから荒野へと足を踏み入れ、10分程歩いたのち―――


ファルスは、奴隷を連れたまま空間を裂いて別の異世界へと消えていった。






ファルスは奴隷を抱えながら、異世界を走り抜けていく。


「・・・チッ。


久々だな。」


ファルスは更に速度を上げた。




異世界を三つ程移動したファルスは、羊のような頭部を持った男と合流する。


「レシン。


透明迷路を作ってくれ。」


「なに?まさか・・・」


「追われている。


・・・恐らく4人。」


「最近はめっきり無かったが・・・新顔かも知れんな。」


「あぁ。」


レシンと呼ばれた男が、魔力を解放した。






「ダメだ。


一回途切れたところから偶然にも魔力の痕跡を見つけたが、ここまでだな・・・クソッ」


縞がそう言い、悪態をつく。


「途中で気付かれたのはいいとして・・・


追手を撒くのに便利な能力を持っているな。」


ワッシュ達は、ファルスの痕跡を見失った。


途中で痕跡は突然途切れており、どの方向へ行ったか見当がつかない。


冷や汗をかきはじめたカーナが呟く。


「どうすれば・・・」


「落ち着けカーナ。


方法はあるはずだぜ。・・・これから考えるんだけどな。」


縞がうーんと唸っていると、タノスが口を開いた。


「これは追いかけるよりも・・・待つ方が得策だろうな。


縞、お前の能力で罠を張るぞ。」


縞が振り向く。


「え、俺?」








「我が名はファルス。


主の声に呼応しろ。」


何も無い、山奥のひらけた場所でファルスがそう呟く。




すると突然目の前に、大きな建物と巨大な扉が現れた。


ひとりでに開いた扉に、ファルスとレシン、奴隷が入って行く。


長い廊下を進んで行く最中、ファルスが喋る。


「ここは特別なんだ・・・


私やレシン、もう一人の仲間の名前に反応して入り口が開く。


そしてこの先の扉をくぐったら最後・・・


外からは再び入り口となるこの建物は姿を消し、誰も追う事はできん・・・」


ファルスが、奥へ辿り付き大きな扉を開ける。




開いた扉から、廊下の暗がり全てを照らすかのような光が入って来た。


奴隷の少年が思わず目を細める。


そして、奴隷の少年は目の前の景色を見て目を丸くした。




広がる花畑、周りに生えている果実の生った木。


そして、奥に見えるレンガで出来た、赤と白の基調で出来た館。


ファルスとレシン、奴隷の少年がくぐりぬけた扉が閉まった。


その瞬間、ファルスがしゃがみ、少年と目線を同じにしながら言う。


「もう大丈夫だ、安心しなさい。」


これまでとは別人のような、優しい声だった。

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