第26話 オークション会場 その1

「入館バッジを購入する際には―――」


「所有物のチェックだろう?好きにやってくれ。」


ワッシュの返答に、緑色のスーツを着込んだ大柄な男が少しにこやかな顔を見せる。


「ありがとうございます。


それではこちらの部屋へどうぞ。お連れの方は別室へご案内致します。」


天井までの高さが10m程、大きなステージに観客席が大量に用意された館・・・


その入り口には、客がぞろぞろと並び外まで長い列を成していた。


ワッシュ、カーナ、タノスがそれぞれ別の個室へ入っていく。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「その奴隷をよく買う奴が今日開かれるオークション会場に来るってことか。」


「ああ。そんな奴が堂々と出向いてくる・・・行ってもいいか?」


「ワッシュは前もセロットと奴隷解放とか色々やってたんだったな。


俺は構わないぜ、人助けには大いに賛成だ!」


「・・・」


タノスがじっとワッシュの方を見る。


「気乗りしないなら、待っていてくれ。


厄介事に手を出そうとしているのは事実だ。」


ワッシュがそう言うと、「いいや」と否定するタノス。


「俺も行く。


気乗りはしないが・・・セロットなら同じ事をする。」


ワッシュは安堵した様子で「そうか。」と答えた。


「カーナはどうする?」


「僕も・・・行きます。」


「・・・辛いものを見る事になるかも知れんぞ。」


「奴隷にされてしまった人が居たなら、その人の方がずっと辛いです。


僕はそこから・・・逃げたくない。」


縞はカーナの頭を撫でまわす。


「ホントお前は良い奴だよ~~~涙出て来ちまうぜ。」


「わわっ・・・」


カーナが少し照れ臭そうにする。


「さて、場所と時間を調べよう。」




「暗黒街にこんなデカい館あんのかよ・・・」


驚く縞の前には、およそ5階建てはある大きな館があった。


「やはりこれか。


先程から見えていたからわかりやすい。」


ワッシュは館の入り口に居る、緑のスーツを着た男に話しかける。


「オークション会場はここか?」


「ん?・・・ええ、そうですが何か?」


「オークションの開催時間を教えて欲しいんだが。」


「来館予定ですね?こちらをお読みになって下さい。」


男はそう言うと、手元に持っていた一枚の大きなカードをワッシュに手渡す。


(午後2時開始・・・一か月ごとの開催・・・


入館する際には入館バッジの購入、武器等の持ち物チェックがあり一旦会場側で預かる・・・か。)


「すまないな、また来る。」


ワッシュはそう言い、カードを返すと縞達の方へ戻る。




「ふーーーんなるほどねぇ。」


少し考えこんでいた縞が口を開いた。


「何か気になることでもあるのか?」


「いいや。多分このオークション会場は信用していい。


見た感じ結構長く使われてる。会場側がトラブルを起こすとは思えねぇし、客側でのトラブルも起きなさそうだ。


しかも、バッジに抑魔機能がついてりゃあな。」


―入館バッジには魔力を制御し使えなくする機能がついており、お客様の安全をお守り致します―


「なら、一体・・・」


「いやぁ、俺はパスするってことだ。」


「なに?」


タノスが怪訝な顔をする。


「ほら、タノスだったらよくわかるだろ。


俺は服の中とかあちこちに暗器隠してるんだぜ?


それを全部出して預けて、んでまた返してもらって装備し直す―――


もうめんどくさいったらありゃしねぇよ!」


縞が先の苦労を思い浮かべ、苦い顔をした。


怪訝な表情をしていたタノスが、黙って身を引いた。


「だから俺、館の外でのんびり終わるの待ってるぜ。」


「大丈夫ですか?この街で一人って・・・」


心配するカーナにタノスが口をはさむ。


「心配はいらない。


そもそも縞は一人で異世界を旅して回ってるんだ、何かあってもなんとかするだろ。」


「なんか俺雑な扱いされてないか??」


「事実だろう。」


「そうだけどさ!


まぁそういうわけで俺の事は大丈夫だし、この周りにある店を見て回ってるさ。」


楽観的な口調で縞が笑っていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「武器は何もないようだが・・・


その袋はなんだ?」


スーツの男に指摘されたワッシュが答える。


「武器は入っていない。」


「中身を見せろ。」


ワッシュは表情を崩さぬまま、袋を開け、中を見せる。


「うっ・・・!?」


動かぬ心臓が一つ、袋の中から顔を出した。


スーツの男二人が驚き、一歩後ずさる。


「これは私の友人の心臓だ。


形見として持っているんだ、預けたくはない。」


「いい。そんなもの預けられてもこっちが困る。


・・・入館を許可する。」


ワッシュは解放され、個室から出てきた。


(形見になどさせないがな。)


少ししてから、タノスとカーナも別の部屋から出て来る。


「ワッシュさん!」


「カーナ。・・・タノス、銃は預けてきたのか?」


「いいや?」




『その銃は預からせてもらう。』


スーツの男はタノスの持っているオートマチック式のハンドガンを指さす。


アタッチメントは一切ついておらず、銀色の身に弾倉部分はこげ茶色の木の材質だ。


『悪いがこれは手放したくない。』


『なんだと?武器を持って入館など・・・』


『その代わり銃弾全てを預ける。一発でも無くさないでくれ。』


タノスは装填されていた弾、持っている銃弾全て・・・合計200発程をテーブルに出した。


『なんて量だ・・・』


『異世界を旅するんだ。これじゃ足りないぐらいだろう。


それから・・・この銃は親の形見だ。手放したくないんだよ。


なんなら、口の中にもあるか見るか?』


『あぁ、そうさせてもらおう。』




「それで許可してくれたんですね・・・」


カーナが驚く。


「魔力が使えない状態では能力で銃弾を作ることもできない。


魔力ありきの世界で奴らは生きているからこういう所は手薄だ。」


そう言ったタノスが、ワッシュだけに聞こえるように小さく呟く。


「・・・何かあれば俺も戦える。頭数に入れておけ。」


「わかった。」


三人は入館バッジを買い、観客席の方へ歩いていく。


ステージには既に天井から光が灯り、司会者らしき者が喋っている。


「もうしばらくお待ちください!


残り10分で開催させて頂きます!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る