第26話 オークション会場 その1
「入館バッジを購入する際には―――」
「所有物のチェックだろう?好きにやってくれ。」
ワッシュの返答に、緑色のスーツを着込んだ大柄な男が少しにこやかな顔を見せる。
「ありがとうございます。
それではこちらの部屋へどうぞ。お連れの方は別室へご案内致します。」
天井までの高さが10m程、大きなステージに観客席が大量に用意された館・・・
その入り口には、客がぞろぞろと並び外まで長い列を成していた。
ワッシュ、カーナ、タノスがそれぞれ別の個室へ入っていく。
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「その奴隷をよく買う奴が今日開かれるオークション会場に来るってことか。」
「ああ。そんな奴が堂々と出向いてくる・・・行ってもいいか?」
「ワッシュは前もセロットと奴隷解放とか色々やってたんだったな。
俺は構わないぜ、人助けには大いに賛成だ!」
「・・・」
タノスがじっとワッシュの方を見る。
「気乗りしないなら、待っていてくれ。
厄介事に手を出そうとしているのは事実だ。」
ワッシュがそう言うと、「いいや」と否定するタノス。
「俺も行く。
気乗りはしないが・・・セロットなら同じ事をする。」
ワッシュは安堵した様子で「そうか。」と答えた。
「カーナはどうする?」
「僕も・・・行きます。」
「・・・辛いものを見る事になるかも知れんぞ。」
「奴隷にされてしまった人が居たなら、その人の方がずっと辛いです。
僕はそこから・・・逃げたくない。」
縞はカーナの頭を撫でまわす。
「ホントお前は良い奴だよ~~~涙出て来ちまうぜ。」
「わわっ・・・」
カーナが少し照れ臭そうにする。
「さて、場所と時間を調べよう。」
「暗黒街にこんなデカい館あんのかよ・・・」
驚く縞の前には、およそ5階建てはある大きな館があった。
「やはりこれか。
先程から見えていたからわかりやすい。」
ワッシュは館の入り口に居る、緑のスーツを着た男に話しかける。
「オークション会場はここか?」
「ん?・・・ええ、そうですが何か?」
「オークションの開催時間を教えて欲しいんだが。」
「来館予定ですね?こちらをお読みになって下さい。」
男はそう言うと、手元に持っていた一枚の大きなカードをワッシュに手渡す。
(午後2時開始・・・一か月ごとの開催・・・
入館する際には入館バッジの購入、武器等の持ち物チェックがあり一旦会場側で預かる・・・か。)
「すまないな、また来る。」
ワッシュはそう言い、カードを返すと縞達の方へ戻る。
「ふーーーんなるほどねぇ。」
少し考えこんでいた縞が口を開いた。
「何か気になることでもあるのか?」
「いいや。多分このオークション会場は信用していい。
見た感じ結構長く使われてる。会場側がトラブルを起こすとは思えねぇし、客側でのトラブルも起きなさそうだ。
しかも、バッジに抑魔機能がついてりゃあな。」
―入館バッジには魔力を制御し使えなくする機能がついており、お客様の安全をお守り致します―
「なら、一体・・・」
「いやぁ、俺はパスするってことだ。」
「なに?」
タノスが怪訝な顔をする。
「ほら、タノスだったらよくわかるだろ。
俺は服の中とかあちこちに暗器隠してるんだぜ?
それを全部出して預けて、んでまた返してもらって装備し直す―――
もうめんどくさいったらありゃしねぇよ!」
縞が先の苦労を思い浮かべ、苦い顔をした。
怪訝な表情をしていたタノスが、黙って身を引いた。
「だから俺、館の外でのんびり終わるの待ってるぜ。」
「大丈夫ですか?この街で一人って・・・」
心配するカーナにタノスが口をはさむ。
「心配はいらない。
そもそも縞は一人で異世界を旅して回ってるんだ、何かあってもなんとかするだろ。」
「なんか俺雑な扱いされてないか??」
「事実だろう。」
「そうだけどさ!
まぁそういうわけで俺の事は大丈夫だし、この周りにある店を見て回ってるさ。」
楽観的な口調で縞が笑っていた。
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「武器は何もないようだが・・・
その袋はなんだ?」
スーツの男に指摘されたワッシュが答える。
「武器は入っていない。」
「中身を見せろ。」
ワッシュは表情を崩さぬまま、袋を開け、中を見せる。
「うっ・・・!?」
動かぬ心臓が一つ、袋の中から顔を出した。
スーツの男二人が驚き、一歩後ずさる。
「これは私の友人の心臓だ。
形見として持っているんだ、預けたくはない。」
「いい。そんなもの預けられてもこっちが困る。
・・・入館を許可する。」
ワッシュは解放され、個室から出てきた。
(形見になどさせないがな。)
少ししてから、タノスとカーナも別の部屋から出て来る。
「ワッシュさん!」
「カーナ。・・・タノス、銃は預けてきたのか?」
「いいや?」
『その銃は預からせてもらう。』
スーツの男はタノスの持っているオートマチック式のハンドガンを指さす。
アタッチメントは一切ついておらず、銀色の身に弾倉部分はこげ茶色の木の材質だ。
『悪いがこれは手放したくない。』
『なんだと?武器を持って入館など・・・』
『その代わり銃弾全てを預ける。一発でも無くさないでくれ。』
タノスは装填されていた弾、持っている銃弾全て・・・合計200発程をテーブルに出した。
『なんて量だ・・・』
『異世界を旅するんだ。これじゃ足りないぐらいだろう。
それから・・・この銃は親の形見だ。手放したくないんだよ。
なんなら、口の中にもあるか見るか?』
『あぁ、そうさせてもらおう。』
「それで許可してくれたんですね・・・」
カーナが驚く。
「魔力が使えない状態では能力で銃弾を作ることもできない。
魔力ありきの世界で奴らは生きているからこういう所は手薄だ。」
そう言ったタノスが、ワッシュだけに聞こえるように小さく呟く。
「・・・何かあれば俺も戦える。頭数に入れておけ。」
「わかった。」
三人は入館バッジを買い、観客席の方へ歩いていく。
ステージには既に天井から光が灯り、司会者らしき者が喋っている。
「もうしばらくお待ちください!
残り10分で開催させて頂きます!!!」
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