2章 奴隷買い
第25話 暗がりの憩い場
一週間が経ったその日にワッシュ達が降り立ったのは、雲が晴れない陰気な世界だった。
枯れた地面には石のような質感の小さな木のようなものが時折目に入る。
「さっきの所は氷しか無いし寒かったから、次の世界では食料手に入れてあったまる飯を作ろうと思ってたんだけどなぁ・・・」
縞がうなだれる。
「食料ならまだ数日分はストックがあるだろう。」
「そりゃそうだけどよ!タノス・・・俺は忘れられねぇんだよ、シチューがよ・・・。」
「フレンシさんのシチュー、本当に美味しかったですよね。」
「カーナもそう思うよな?あんな美味しいもの食べちまうとよ、いつもの乾燥した非常食じゃ辛くなってくるんだよ・・・」
ぶつぶつ言う縞に、タノスが言い放つ。
「今はこれしかない。」
「タノスは強いよな、割り切りが早いんだ。」
「旅の基本だろ・・・」
動じないタノス、感情を表によく出す縞、合いの手を入れるカーナ。
「ワッシュもよ!
他にも美味しい料理食べてみたくないか!?」
「・・・そうだな。確かに気にはなる。」
「ほら見ろ!
今まで味覚が無かったって言ってたワッシュでさえこう言うんだぜ!多数決だろこんなの!」
タノスは少し面倒そうな顔をしながら縞とは逆の方を向いた。
「は~相変わらずだぜタノスは。
この世界、野生動物さえも居ないのか?」
ワッシュが立ち止まる。
「うお?どうした?」
「どうやら望みはあるようだぞ、縞。」
「え?まだ何も見えねぇけど・・・ワッシュには何が見えてんの?」
「視力も人間のそれとは違う。
ここからまっすぐ進んだ所に街らしきものが見える。」
ワッシュの一言に、縞が徐々に表情を明るくした。
「ふっふっふ・・・タノス!
シチューに負けねぇ料理を作ってやるから覚悟しろ!」
振り向きながらタノスの方を指さす縞。
タノスは依然として面倒くさそうな顔をしていた。
国と呼べるものはなく、さびれた店のような何かが立ち並ぶ。
ところどころに草か紙を燃やして出たような煙が揺れ動き、歩く人へ巻き付いては離れていく。
屋根のついている店、そうでない店・・・藁で出来た敷物の上に品物を置いて商売する者も居た。
通行人も商売人も皆、陰湿で近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
「闇市だな・・・ここは。」
タノスがボソリと呟く。
縞がさっきの明るい表情とはうってかわって、真上の曇り空を体現するかのようなげんなりした顔をしていた。
「ごめんな・・・カーナ。」
「えっ、いや・・・縞さんは悪くないですよ。」
「だってよ・・・
あ~・・・一応、奥の方に建物がいくつか見えるな。
少しはマシなもんあるかなぁ・・・」
最早期待はしていないという縞。
カーナがワッシュの近くに寄りながら歩く。
「あ、あの・・・大丈夫でしょうか、この街・・・」
「問題ない。
何が起きようと私が居る。」
カーナがほんの少し安心した表情を見せる。
すると、向かいから歩いてきた筋肉質の眼が四つある大柄の男がワッシュの肩にぶつかる。
「ってぇな・・・」
「・・・」
ワッシュは気にせず歩こうとするが、男が振り向いてワッシュの肩を掴む。
「てめぇ、俺にぶつかっておきながら―――」
しかし、強く掴んだワッシュの身体は微動だにしない。
ワッシュはゆっくり振り向き、男の眼を見る。
「私に何か用か?」
男は、掴んだ肩から相手の魔力を感じ取る。
慌てて掴んだ手を放す。
「な、なんでもねぇよッ!」
男は足早に去っていく。
「気が立っている人間が多いな・・・」
「一通り見まわしたが、厄介な人間の巣窟だなここは。」
タノスが小さな声で話す。
「国や組織がしっかり出来てる世界では生きにくい、裏社会の奴らはこういう居場所を好む。」
「俺も何度かこういう場所は来たなぁ。あんま長居しない方が良さそうだ。
ちょっと食料見つけたらそれだけ仕入れて早いところ出よう。
そんで、もっと安定した国見つけに行こうぜ・・・。」
縞はそう言うと、周りの店を吟味しながら歩く。
そうして歩いている最中だった。
ワッシュの耳に、通行人の話が聞こえてきた。
「・・・ルスだ。」
(?)
「ファルスが来てるらしい。
一か月ぶりか?奴隷が商品に並ぶのは。」
「あいつ、奴隷が出品された時必ず姿を現しやがる。
俺らにはあんな高い値段出せるわけねぇが・・・ムカつくやつだ。」
「もう今日の仕事は終わってる。奴の顔でも拝みにオークション会場へ行こうぜ。」
「ああ。」
(奴隷・・・)
ワッシュは、セロットと一緒に人間を解放していた時に奴隷が居たことを思い出す。
立ち止まったワッシュは振り向き、話をしていた二人に声をかける。
「そのオークション会場とやらはどこにある?」
「おぅっ・・・なんだよお前は。」
「ここらじゃ見ない顔だなお前・・・奴隷に興味があんのか?」
その言葉に眉をひそめるワッシュ。
「やめとけよ。今の話聞いてたならわかるだろ?
どんだけ大金積んでも奴隷は買えねぇ。ファルスが全員買って行っちまう。」
「私もそのファルスという男を一目見ておこうと思っただけだ。」
「あ?なんだそういうことかよ。」
縞は不思議そうにワッシュのほうを見て首を傾げていた。
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