第24話 カオーテの家

昇ってきた太陽が、王都を・・・森を、そして丘の上の家を照らし出す。


眩しすぎる程に強い光に、ワッシュは思わず目を細める。


(王都で豊かに暮らす選択もあったはず。


だが・・・モースとマッシはフレンシと共に暮らす方を選んだ。


顔の効く者と森で会い、食物などを受け渡す事で生活すると言っていた・・・楽ではないだろう。)


家の外で、ワッシュは王都の方を眺めている。


(昔からそうだ・・・あえて楽ではない選択肢を選ぶ人間がたまにいる。


そしてそこには拠り所とする"誰か"が居る・・・


理解しがたい感情だった。)




どこを見るわけでもなく、ただ真っすぐ前を見ながら、ワッシュはほんの少し穏やかな顔になった。


(だが今なら・・・少しわかる気がする。)






「おはようワッシュさん。」


「フレンシ。


・・・まだ日が昇ったばかりだぞ?」


「ふふ、早く起きていないと貴方たちがいつ出発するかわかったもんじゃないからねぇ・・・。」


「・・・」




「本当に今日出発するのかい?」


「ああ。


時間が惜しい。」


「そう・・・。」




「貴方達には、返そうにも返しきれない恩が出来たわ。


私達の国を元に戻してくれたこと・・・双方の国が争いにくくしてくれたこと。


私の命を救ってくれたこと・・・孫を守ってくれたこと。


そして、隠れながら復興まで手伝ってくれたわね。」


後ろから話し続けるフレンシ、前を向いたまま黙って聞くワッシュ。


「力になれることがあれば、何でも言って頂戴。」




「この家を守り続けろ。」


「・・・え?」


「私の友人が復活するまで、約1年。


・・・復活した友人を連れて、再びここへ来る。」




「だから・・・それまで待っていろ。」




「・・・わかったわ。」


声色から、フレンシが笑っていることがワッシュにも伝わった。






「皆さん、もう行ってしまうんですね・・・」


「うっ・・・皆、本当に、本当にありがとう・・・ございまず・・・うう」


ワッシュ達の出発にフレンシ、モース、マッシが見送りに来てくれた。


最初にこの世界に来た時の地点である、森の中へ全員が揃う。


「マッシ!また来てくれるって話なんだからそんなに泣くな!」


「だ、だって・・・うう~~!!」


兄に少し怒られるも泣き止まないマッシ。


「大丈夫だって!一年後にまた出迎えてくれよマッシ!な?」


縞がそう言うと、マッシは更に泣き出した。


「・・・ぐすっ」


縞の隣で、カーナも涙を零す。


「うお!お前もか!!」


「ご、ごめんなさい。」


「いやいいって。


そうやって泣いてくれるのはいいことだぜ。」




「皆、気をつけてね。


貴方達の旅がどうなるのかなんて全く予想できないけれど・・・


辛くても、苦しくても、生き延びて・・・


そしてまた、ここで会えることを祈ってるわ。」


「・・・ああ。」


「時に、ワッシュさん。」


「なんだ?」




「ここぞって時には、罪悪感の一切を捨てるのよ。


一瞬の判断が遅れるから・・・。」


フレンシが先程までの笑顔を崩し、言い放つ。


「・・・要らぬ心配だ。」


「そう・・・ならいいのだけれどね。」


再びいつもの笑顔に戻ったフレンシ。




「では、さらばだ。」


「ええ、"また"。」


ワッシュが空間を裂き、その奥へと入って行く。


後に続いて、縞、タノス、カーナも入って行った。




空間が閉じ、フレンシの目の前はいつもの森だけになっていた。




「さぁ、家に戻ろうかしらね。」


「うん。」「う"ん"。」


鼻水を垂らすマッシの肩をポンポンと叩きながら、モースが連れ添って歩く。




「本当に全員、戻って来れるかしら。」


少し先を歩くフレンシが、小さく呟いた。


曇った顔の理由を知る者はいない。

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