第23話 夕食をもう一度

一週間が経った王都には、ヒューマンの姿は無い。


ゴブリン族達が今も壊れた建物等の復旧作業にあたり、せわしなく動いている。




あれから、ヒューマン族が元の国へ戻れるようゴブリン族も協力し5日間で移動を完了した。


ゴブリン族の優秀な者が数名、ヒューマン族の大臣達と協議し不可侵の条約を結んだ。


国境を改めて整備し、国境には双方で警備隊と監査役を置く。


これからは、ヒューマン族とゴブリン族がどうしても直接会わなければならない時には国境にてやり取りをすることになるだろう。




ザグン・ベジー・ツァル。


彼は元々この世界の住人ではない。


別の異世界で戦争中に負傷、顔の約半分と両足を失うも機械科学により復活を果たす。


その世界で手に入れた魔力の制御装置を持って一人旅立ち、今に至る。


ヒューマン族に取り入り、装置を使い他種族の国を制圧することで絶対の地位を得ることが出来た。


だが今となってはただの罪人・・・


森に棲む者達によって地下へ幽閉されることになった。




丘の上から、夜空と王都を見渡すワッシュ。


(罪・・・償い・・・)


自らが言った言葉が、頭の中にこだまする。


(・・・滑稽なことだ。


私こそ、最もそれを言う資格が無い。)


王都は夜になっても一部に灯りがついており、復旧作業が行われている事がわかる。


(一体何人殺したのか・・・


天照達と会ってから数百人程はいただろう。それ以前など数えられるわけもない・・・


だがそれだけの人間を・・・誰かの意思を私は・・・)


眉をひそめ、視線が少し下に落ちる。




(今までの私は一体なんだったんだ。)




『さぁこいつらをどうやって守る!


抗ってみせろ燕罪!!!』


『人など数えきれん程いるのだ、何人殺そうと蟻を踏み潰すのとなんら変わりないだろう。』


『汚い人間も山ほどいる。少し掃除してくれていると感謝でもしてみたらどうだ?』




(・・・本当にあれは自分だったのか?)




「おーいワッシュ!そろそろ出来るってよ!」


縞が後ろからワッシュを呼ぶ。


「ああ。今行く。」


振り向き、ワッシュはフレンシの家へと戻っていく。


家の中から、オレンジ色の灯りが外へ漏れている。




家に入ると、テーブルに皆が居た。


左から縞、タノス、カーナ・・・モース、マッシ。


カーナは料理の匂いで目を輝かせている。


「ワッシュの席はここだぜ。」


縞が隣の椅子をトントンと叩く。


「あらおかえりなさい、ワッシュ。」


左側のキッチンから、フレンシが出来た料理をテーブルに持ってくる。


「ばあちゃんの魔法の灯り、久しぶりだよ!すごく明るい!」


マッシが喜び、天井を見上げる。


天井からぶら下がる複数の紙で出来た球体の中からオレンジ色の光が室内を彩る。


「この5年間ずっとロウソクだったからな。


ありがとう、ばあちゃん。」


「ふふ・・・やっぱりこの色が一番ね。」


フレンシは笑いながら、マッシとワッシュの間に座る。


「さぁ、頂きましょう。


みんな、ゆっくり召し上がれ。」




全員の目の前には、深い皿に盛られたシチューと大きな楕円系のパンがあった。


「やっぱりフレンシさんのシチュー美味しいです!むぐっ あっふあふ・・・」


「カーナ君、慌てずゆっくりね?」


カーナはシチューを多めに頬張ってしまい、熱さで舌をやけどしそうになる。


「いやほんとうめぇな!タノス、足りるか?」


「食事中に何度も話しかけるな・・・」


元気に笑う縞と、静かに食べるタノス。


ワッシュはその光景を見ながら、右手に持ったスプーンでシチューを口に運ぶ。




「お味はいかがかしら?」


フレンシがワッシュに聞く。




「・・・美味しい。」




ニコリと笑ったフレンシを見て、ワッシュは視線を自分のシチューへ戻す。


正確には、反射的に下を向いた。




「今はシチューを味わって食べて頂戴、ワッシュさん。」


ワッシュは思わず顔を上げ、フレンシを見る。




「今だけは、それでもいいのよ。」




「・・・ああ。」




丘の上の小さな家から、談笑する声が畑へ響く。


ほのかに温かい風が、王都から吹いていた。

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