第21話 勇者と大罪人

カーナが左わき腹を横から殴り飛ばされ、そのまま壁へ激突する。


か細い嗚咽を上げながらカーナが地面へうつ伏せに倒れ込む。


「き・・・」




ザグンの、残っている生身の顔に大量の冷や汗がにじみ出る。




「貴様ァァァァァ!!!」


制御装置は、カーナに蹴り飛ばされ反対側の壁へ。


そしてその下に、残骸となった制御装置であったものが散らばっていた。


(魔力が・・・復活する!!!


フレンシはどうなった!?ヘンドルは奴を殺しきったか!?


あいつさえ死んでいればどうにかなる・・・だがまずは!!!)


ザグンは倒れているカーナを睨む。


カーナが、両手を地面につき起き上がろうとする。


(こいつを殺してからだ!!!)


ザグンが両足につけられた機械を駆動させ、拳を構える。








高速で移動したザグンの顔面を、カーナの広げた左手が捉えていた。


左手の腹の部分が、ザグンの顎に直撃し、脳を揺さぶる。


「ッッ・・・」




「よくやった、カーナ。」


鋭い目つきに戻り、その低い声は身体を操る主がハースに入れ替わったことを意味する。


そのままザグンの顔を掴み、ほんの少し上へ放り投げる。


そして、ハースは右足を折り曲げながら跳び上がり、狙いをつける。






魔力を込めた右足で、ザグンの腹を全力で蹴り飛ばした。


骨が割れる音がする間もなく、ザグンはガラスとは反対方向の壁へ激突し、めり込んだ。


大きな音がし、壁の周りに大きな亀裂が入る。


ザグンは壁にめり込んだまま動かない。


血だらけになった両手を見ながら、ハースがボソリと呟いた。


「・・・俺たちが勝ったぞ。」








「!?」


「!!」


ヘンドルの表情が強張る。


縞は一瞬驚くも、ニヤリと口角を上げる。


縞が投げた二本の針から、二人の黒子が生成されヘンドルへ向かっていく。


ヘンドルは剣に魔力を集中させ、二人の黒子を横なぎにし、真っ二つに斬る。


「ザグンめ!!!何をやっている!?」


「逆転しちまったなぁ。


しかしホント、よくやったもんだぜ・・・ん?」


そして二人は気付く。


大きな魔力が、ある場所で湧きだした事に。








中央広間に横たわるフレンシの身体と頭部から、突如魔力があふれ出す。


そして、真っすぐ伸びたままの身体がひとりでに持ち上がり、ついに立ち上がる。


頭部は空中へ浮き、引き寄せられるように身体へ近づき・・・


首の部分へたどり着くと、グルンと回転し肉と肉が恐ろしい勢いでくっつき再生する。






3秒後、目をパチリと開いたフレンシが呟いた。


「間に合ったわね。」




フレンシが右手を開くと、床に落ちていた大剣が吸い寄せられるように飛び、フレンシの右手へ。


何かを横なぎに斬るために、剣を構える。


「長かったわ・・・」


フレンシは地面を蹴り、構えたままある方向へ水平に飛んでいく。


纏った魔法は、壁を削り取り道を作る。






「なっ・・・」


(首を切り離したはず!!!何故!!!)


ヘンドルは、こちらまで伝わってくる魔力ですぐにそれが誰のものかわかる。


(恐らく壁を貫いてそのまま俺の元へ・・・)


「いいだろう!!!


もう一度真っ二つにしてやる!!!」


ヘンドルはそう言い、壁へ向かって・・・中央広間の方向へ向き、剣を振りかぶる。


縞は思わず後ずさり、距離を取る。




崩壊し、破壊された壁からフレンシが現れる。


ヘンドルの首を狙ったフレンシの横なぎに合わせ、ヘンドルが剣を縦に振り下ろす。




振り下ろした剣が、フレンシの大剣によって豆腐のように切断され―――――








フレンシは、大剣を振り切った体勢でヘンドルの背後に居た。


程なくして、空中に浮いたヘンドルの頭部が床へ落ちた。


大剣を下ろし、落ちた頭部へゆっくりと視線を合わせる。


フレンシは喜ぶわけでもなく、睨むわけでもなく、表情を失くしたかのように見える顔で黙っていた。


一筋の汗を垂らしながら、縞が聞く。


「ヘンドルが言ってたのを聞いたんだ。


仇を・・・取れたんだな?」


フレンシはヘンドルの頭を見る目を一度閉じ、顔を上げる。


再び目を開け、縞の方を見ながらほんの少し笑う。


「一国の将を殺したのだから、私は大罪人よ。」








「兄ちゃん!!!」


マッシが泣き叫び、ジルニが涙を流し、タノスが驚く。


「この凄まじい魔力が、あのフレンシなのか・・・?」


そう聞いたタノスに、ほんの少し目元に涙を滲ませたモースが答えた。


「そうだ。


あれが俺たちの、ばあちゃんなんだ。」


安堵する一行の元へ、複数の兵が姿を現し向かってくる。


「でもまだ完全に終わりじゃあない・・・!」


マッシがそう言い、金槌を構える。




「あっ」


タノスがそう声を漏らしたと同時に、向かってきた兵達の首に杭が刺さる。


刺さった杭は首の中へ入り、刺さった部分に紋章が浮かぶ。


兵達は冷や汗を垂らしながら、動けなくなった。


(な・・・なんだこの魔力。


ばあちゃんとは比べ物にならない程の・・・)


驚くモース達に、タノスが教える。


「フレンシも凄まじかったが・・・これが、ワッシュだ。」






そして、タノス達の周りにも杭が現れた。






「戦いは終わりだ。」


ワッシュは、北西の広間でそう呟く。


周りの兵達全てに、第一の杭が刺さり紋章が浮かび上がる。




ワッシュの杭は、国の中に居る全ての敵兵達に、国民達に・・・


そして、フレンシ達や縞達全てにも刺さった。


ワッシュは城を出て空へ飛びあがる。






城の外に、国民達や兵達が集められる。


その中にはフレンシやジルニ達、縞達も居た。


皆、ワッシュの第一の杭によって肉体を操られている。


(ワッシュ・・・何故俺達まで?)


縞が怪訝な顔をしていると、横に居るフレンシが言う。


「心配しなくても大丈夫。


彼は本当に優しいのね・・・」




「喋れはするが動けない・・・!」


「どうなるんだ、俺たちは・・・」


「あの空中に浮かぶ男は誰だ!?」


集められた兵達や国民の声は、小さくもワッシュの耳へ届く。


「少し癪だが・・・こうした方が人間には効くだろう。」


上空10m程の高さにワッシュが現れる。


その姿は、登りきった太陽を背に大きな影を作り出す。


ワッシュは、城の外に集まった全ての者へ聞こえるように、喋り出した。


「聞け。人間共よ。」

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