第19話 命の5分
「こちらですカオーテ様!」
ジルニが先導し、城の玄関から左の扉へ入り先へ進むモース、マッシ。
「ジルニ!先へ行け!!」
背後からの奇襲に備えて後ろに居たベンケルが叫び、振り向く。
廊下の後ろから、兵士が3人走ってくる。
「くっ・・・!」
ジルニは一瞬後ろを確認し、すぐに前を向きなおす。
「ベンケルさん!」
「マッシ様!振り向いてはなりません!
彼に任せるのです!」
「うっ・・・」
(もう壁づたいに音が響いてきている!
間違いなくフレンシ様が戦っている、間に合うのか・・・!?)
ジルニは冷や汗を垂らす。
廊下の突き当り、左側から兵士が一人出てくるとこちらを向いた。
(いいや・・・間に合わせるのだ!!)
ジルニは右足に力を込め、床を蹴る。
気付いた兵士が武器を構えようとする前に、ジルニの拳が兵士の腹部を捉える。
「がっ!?」
兵士は壁に激突すると気を失った。
「さぁ早く!!」
ジルニはそう言いながら突き当りを右へ進む。
(ばあちゃん・・・無事で居てくれ!!)
ジルニが、両手で大きな扉を開く。
「!!」
中に入ったジルニが、目を見開く。
1秒程遅れて中に入るマッシとモース。
「おや?
遅かったなぁお孫くん達。」
モースとマッシが、目の前の景色を見て止まった。
ヘンドル将軍・・・二人の両親を殺した張本人。
二人は、写真でその顔を知っている。
だが、二人の目はヘンドルの少し手前を見ていた。
フレンシ・カオーテの首から下が倒れ、近くにその首が転がっていた。
大剣は無造作に床に落ちていた。
「あっ・・・ああ・・・」
マッシが涙を浮かべながら、立ちすくむ。
「・・・ぁっ」
モースが汗を垂らし、自分の祖母の死体を凝視する。
「最強の魔法剣士と呼ばれたフレンシも魔力が無ければ俺には敵わない・・・
成し遂げたぞ・・・成し遂げたぞ!!!!」
ヘンドルは顔を上に向け高らかに笑う。
静まり返った大広間に、その笑い声だけが響く。
しかし、すぐにヘンドルは笑うのをやめ顔をモース達の方へ戻した。
薄く開いた目でモース達を見つめながら言う。
「ふぅ・・・
大丈夫だ安心するといい。
お前達も両親と祖母に会わせてあげよう。」
口角が上がり、ニタリと笑うヘンドル。
絶望と憎悪で歪んだ表情になりかけたモースが、苦渋の選択を叫ぶ。
「マッシ!!!逃げろおおおおおお!!!」
「!!」
今すぐにでも、祖母までも殺した憎き仇を討ちたい。
あの薄ら笑いを浮かべる男に、金槌を喰らわせてやりたい。
全ての溢れそうな感情を一瞬の決断で抑え、モースは逃走を選択した。
『モース。
戦士とは、感情に任せて力の限り相手を倒そうとする者ではないわ。
どんなに苦しくても、どんなに許せなくても・・・
今すべき事をすぐに判断して、誰かを守る。
それが、戦士よ。覚えておきなさい。』
(弟まで失ってたまるか!!!!!)
マッシが泣きながらも、逃げるため振り向こうとする。
だが、ヘンドルが先に走り出そうとする。
(そんな青二才が俺の速度から逃れられるわけないだろ。バカが!)
余裕の笑みを浮かべるヘンドル。
一歩を踏み出した時、その表情は崩れる。
(なっ・・・)
モースとマッシ、ジルニ。
その後ろの開いた扉の左側から、一人の男が姿を現す。
姿を現すと同時に銃を構えたのは、タノスだった。
銃撃音が二回鳴った。
ヘンドルは咄嗟に止まり、剣で銃弾を弾く。
「旅行者か・・・!」
タノスが更に追加で2発、ヘンドルの左肩と右足を狙って撃ち込む。
ヘンドルはそれを弾きながら、タノスの銃口の向きを見た。
「っ!」
ヘンドルは咄嗟に後ろへ跳び、足の甲を狙った銃弾をかわす。
「急げ!!こっちだ!!」
タノスの後ろから声がした。
「タノスさん!!それに縞さん!!」
そう叫んだモースとマッシが走り、廊下へ消える。
ジルニも走り、二人の後を追いかける。
「逃がさんぞぉ?」
ヘンドルが再び走り出した。
タノスが心臓部分を狙って弾丸を撃ち込むが、ヘンドルはヒラリとかわし向かってくる。
(見切られた!)
タノスは銃を下ろしながら廊下の左側へと走っていく。
「走れ走れ!!とにかく逃げろ!!」
先頭をジルニ、モースとマッシ、そしてタノスと縞の順で走る。
曲がり角を左に入り、玄関の方へ向かう。
「あの男、相当強い上に速い。敵の大将か?」
「奴の名はヘンドル・バーキオン!
この国の軍隊の将軍です!!真っ向から挑んでも勝ち目はありません!!」
ジルニがそう叫ぶと、先程曲がった所からヘンドルが現れた。
「!!」
「タノス、三人を外に逃がしたらお前は地下へ行け。」
「は?」
縞が後ろを振り向き、短剣を構えた。
「おまっ・・・」
「いいから行け!
上手いこと時間稼いだら俺も逃げる!!」
タノスは走る速度を一瞬緩めたが、再び元の速度で走り出す。
「死ぬなよ縞!!!」
「おうよ!!」
目の前まで来たヘンドルが剣を振り下ろす。
縞が短剣で受け止め、拮抗状態となる。
「ほぉ!
よくもそんな小さなナイフで俺の剣を受け止められるな!」
「い、いや~・・・
この短剣、結構高くてさ。すっげぇ頑丈なんだぜ。」
縞は必死にヘンドルの剣を抑えながら、申し訳なさそうに話しかけた。
「そうかそうか。
一体どのぐらいの値段か気になるところだ・・・なっ!!」
ヘンドルは上から押さえつけていた剣の力を緩める。
押し返そうとしていた力で、縞はほんの少し身体を浮かせてしまう。
ヘンドルはその隙を見逃さず、右足で縞の腹を蹴った。
「んぐっ!」
5m程後ろへ蹴り飛ばされ、後転して体勢を立て直した縞にヘンドルが再び剣を上から振りかぶって追撃しようとする。
「!」
縞は体勢を立て直したと同時に、床を蹴りヘンドルの方向へ走っていた。
(間に合わん!!)
振り下ろす剣よりも速く縞の攻撃を喰らうと判断したヘンドルは、咄嗟に剣を下ろし縞の短剣を防ぐ。
「なかなかやる・・・」
「うっ!?」
ヘンドルが慌てて後ろへ跳んだ。
縞が、短剣を構えている。
「どうした?俺の踏み込みの速さに驚いたか?」
縞はそう言いながら、ヘンドルの攻撃を待つ。
(な・・・なんだ今のは?
背筋が凍るような・・・今までに感じたことの無い強烈な殺意が・・・)
「・・・」
(いいや・・・気のせいか?
今のこいつはただ戦おうとしているだけの旅行者の男・・・
そうだ。私が誰かに臆するなどあるはずがない。)
「ふふふ・・・確かに速かったぞ。
だが二度目は無いぞ旅行者!」
ヘンドルが剣を構え、走り出す。
二人の刃が交わる瞬間、縞の表情は再び一変した。
4人は玄関までたどり着く。しかし―――
「タノスさん、ジルニさん。
俺は城の外へ逃げるわけにはいかない。地下へ行かなければならないんだ。」
モースが二人に聞こえるようにつぶやく。
「それなら、ワッシュ達がなんとかしてくれるはずだ。
見た目は普通の人間だがアイツは―――」
「違うんです。
急がなければ、ばあちゃんは本当に死んでしまう。」
「・・・!?」
タノスとジルニが驚き、一度止まる。
「ど、どういうことですかモース様・・・?」
「いいか。
ばあちゃんはまだ完全に死んでない。
5分以内に魔力を解放すれば、復活できる。」
「!!!」
マッシが、フレンシから渡されたメモ書きを思い出す。
『二人とも
万が一私が死ぬような事があったなら 地下へ行きなさい
5分以内なら 私は自己蘇生が出来る
だから魔力を解放して頂戴
こんなことを頼んでごめんなさい モース マッシ』
「そ、そうだ・・・
ばあちゃんがくれたメモに・・・!」
(フレンシ様・・・
私に託したメモはそういうことだったのですね・・・)
「・・・わかった。
だがさっきの広場はまずい。一旦外に出て敷地内から小部屋に入るルートで地下を目指すぞ。」
タノスがすぐに方針を決め、玄関を開ける。
だが、玄関の外には兵士と戦うトカゲの化物達。
「私が道を切り開きます。
三人共、行って下さい!!」
ジルニがそう言いながら、先陣を切った。
「なんなんだあいつは・・・!?」
「矢を喰らったところが再生し始めているぞ!」
「人間じゃないのか!?」
ワッシュを取り囲む兵は、矢を放ち続けた。
全てを避けるのにも限界がある。
腕や足に矢が刺さり、刺さった矢を引き抜いては兵士の肩や足を狙って投げ返していた。
だが、立て続けに降ってくる矢にワッシュは身動きが取れずに居た。
(大きく動けば内側に隠しているセロットの心臓に矢が当たる。
それだけは死守せねばならない。)
兵士の一部は、矢をワッシュの周りへと放ち逃げる隙を与えぬようにしていた。
(くそっ・・・せめて魔力さえ戻れば・・・!!)
地下3階の空間で、カーナの身体を操り攻撃を避け続けるハースは消耗し始めていた。
「その勢いでガラスに突っ込んでくれりゃあ楽なんだがな・・・」
「ふふふ・・・私はそんなミスはしない。
もう二度とミスなんて、したくはないのだよ。」
ザグンが不適に笑い、再び拳を構える。
(ど、どうすれば・・・このままじゃ・・・)
(カーナ、策がある。
協力しろ。)
(え!?な、なに?)
(お前があの装置を壊すんだ。)
(・・・え?)
ハースは、敵を見据えながら覚悟を決めた。
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