第18話 フレンシ・カオーテ

フレンシが大剣を構え、ヘンドルの胴を狙って横なぎに斬りかかる。


ヘンドルは片足で床を蹴り後ろへステップし巧みに剣撃を避ける。


更に二度、フレンシが剣を振るがヘンドルは身のこなしでかわした。


「はぁ・・・フレンシよ。」


三度目の剣撃をかわしたヘンドルは、右手に持った剣を振りかぶりながら間合いを詰める。


ヘンドルの振り下ろした剣をフレンシは大剣の根本で受け止める。


「やはり衰えたなぁ?


ゴブリン族は長命と聞くが老いには勝てんよなぁ!」


ヘンドルは剣を引き、突きの構えを取る。


「!」


目にも留まらぬ速さで、雨だれのように突き技が繰り出される。


だがどの一撃もフレンシの腕や首、腹を的確に狙ってくる。


フレンシは右手で持っていた大剣の頭頂部付近に左手を添え、剣を即座に回転させながら剣撃を防ぎ続ける。


およそ17回を受け切ったフレンシは、18回目の剣がフレンシまで届かず上の方へ行った事に瞬時に気付く。


ヘンドルは笑いを浮かべながら、フレンシの頭上から剣を振り下ろす。


フレンシは膝を曲げ体勢を低くしながらも大剣を頭上へ持ち上げ、ヘンドルの剣を受け止める。


そしてすぐに、フレンシは後ろへ跳び距離を取った。


「俺を殺すんじゃなかったのか?ん?


距離を取ってもどうしようもないだろう、フレンシィ。」


「・・・」


フレンシは取り乱さず、返事もせず冷静に相手の動きを注視する。


(まだ本気を出していない。


私以外にもワッシュ達が侵入していることは知ってるはず・・・


本当なら今すぐにでも私を殺して他の侵入者を片付けたい、そう思うわよね。普通なら。)


ヘンドルはゆっくりと歩きフレンシの方へ向かっていく。


ニタニタと笑っているが、ヘンドルの持っている剣はほとんど動かない。


(いや、誘っているんだわきっと。


今こうして歩いている最中もかなりの握力で剣を握ってる。


いつでも最速、最大の力で剣を振れるようにする構えを崩さない。)


「どうしたフレンシ。あ~このままだと間合いに入ってしまうぞぉ。」




「間合いの外なら無事っていうのは面白い発想ね。」


「何?」


フレンシは構えた剣を後ろに振り上げ、月を描くように剣を振る。


床は勢いよく削れ、飛んだ石がヘンドルへ向かっていく。


ヘンドルは笑みを崩さず、飛んできた石を全て剣で弾く。


「ん?」


気付くと、ヘンドルの左側からフレンシが迫っていた。


「おっとぉ!」


ヘンドルは横なぎの大剣を宙がえりするように跳んでかわす。


フレンシが、更に踏み込み床が割れる。


もう一度繰り出すフレンシの横なぎは、ヘンドルが丁度着地する地点へ。


「!」


ヘンドルは咄嗟に剣を床に刺し、逆立ちの状態のままフレンシの剣を受け止める。


大剣の衝撃でヘンドルは空中で回転するが、すぐに片足を着き、三度目のフレンシの剣撃を簡単に受け止める。


「アッハハハハ!!!全くとんでもないババアだ!!


床を簡単に削り取りやがる上に瞬発力は変わってないな!!」


フレンシの表情が歪む。


「お前が先に仕掛けたんだ、俺も小細工をさせてもらったよ・・・」


フレンシの右肩に、ほんの5cm程の小さなナイフが刺さっていた。


再び後ろへ跳んで距離を取り、ナイフを抜き取る。


ナイフを抜き取った瞬間には目の前にヘンドルが迫っていた。


「くっ・・・」


ヘンドルは剣撃を止めない。


(ナイフを抜き取れたのはいいとして・・・


患部の血を出す暇がない!)


「フフフ・・・ハハハハハ!!!」


フレンシは防戦一方のまま、焦り始める。


(微かな香り・・・恐らく植物性の毒!


もう血流に乗って全身に回り始める・・・!!)


フレンシは両腕に力を入れ、ヘンドルの一撃を打ち返す。


急に強くなった威力にヘンドルは数メートル押し飛ばされるが、再び笑みを浮かべる。


フレンシの息が、荒くなり始めた。


「このクズが・・・ハァッ、ハァッ・・・」


「いくらでも言え言え。遺言はたくさん聞いてやるぞ?


そうだ!後で文書に残しておいてやろう。良い考えだろう?」


フレンシはヘンドルを恨めしくにらみつける。






ガンガンと床を蹴りつける音が部屋中に響く。


「!!


この部屋の下だな・・・」


ハースは地下2階のある部屋に来ていた。


(地面を蹴って反射音で空洞を探り当てられるかなって思ったけど、これはハースの力じゃなきゃ無理だったね・・・流石だよ。)


「それを思いついたのはお前だろうが・・・。」


(そもそもこれはカーナの身体だ。


俺は少しコツを知ってるぐらいで・・・しかも、こいつはそこまでヤワな肉体じゃねぇ。)


ハースは倉庫になっている部屋の角にある木製の箱をどかし続ける。


「面倒な場所に隠しやがって。」


5つ目の箱をどかすと、他の床と少し色の違う床を見つける。


その床の奥に取っ手がついており、それを引っ張り床を開けると、ハシゴのかかっている空間が姿を現した。


「あぁ?鍵をかける部分があるのに、開いてやがる・・・。」


(な・・・一体なんで・・・)


「知るかそんなもん。装置壊せりゃなんでもいいんだ。」


ハースはためらいなくハシゴを降りていく。




細い空洞を降りていくと、下に広い空間があることに気付く。


ハースは急いで降り、地面と3m程までの高さになると飛び降りた。


「これは・・・


!!」


(あっ・・・)


ハシゴに背を向け、前を見るハースとカーナ。


下や壁が土で覆われ、一切整備されていない。


天井まで7m程ある薄暗い空間だった。


奥にはガラスが壁一面に張られており―――


ガラスの更に奥に、2m程の高さの柱の上に置いてある網目模様の球体があった。




そして、ガラスの前に立つ一人の男が喋り出す。


「君たちは疑問に思っただろう。


『何故入り口に鍵がかかっていないんだろう?』と―――」


頭の左側が鉄の機械になっている男が、話し続ける。


「ここの鍵は私しか持っていないんだ。


そして内側から鍵をかけられない。


いつもはせいぜい中身をすぐ確認して部屋に戻るだけだったんだ。


これは私のミスってわけだ。」


男は屈み、両足の足首に手を伸ばす。


「本当なら内側にも鍵を作るべきなんだろうが、余計にこの部屋の存在を知る者は少なくていい・・・ちょっと慎重になり過ぎたのだよ。」


両足首に伸ばした手で何かを押し、カチッと音が鳴る。


「あぁ・・・自己紹介が遅れたね。


私の名はザグン・ベジー・ツァル。この世界にあの装置を持ち込んだ者さ。」


「!!


じゃあやっぱりアレが・・・」


「そうそう、君らが壊したくて仕方ないものさ。」


(ハース、さっきの音聞こえた?)


(わかってる。


それに妙な振動音もする・・・。)




「保険はかけておくものだと、つくづく思うよ。」


ザグンの身体から発せられる振動音が強くなっていく。


「おかげでだーいじな装置を守り、君を殺せるのだから。」


ザグンは、ひらいた左手を前に出し、右手を握りしめ構える。


(なんだ?


あの構えのまま走ってくるつもりか?


まだ30mぐらいは距離が―――)




およそ、2秒。


ザグンの右拳がハースの居た場所の壁にめり込み、砕くまでかかった時間だった。


ハースは咄嗟に左へ跳んでかわし、前転して体勢を立て直す。


(は・・・・・・速過ぎる。)


もし自分だったなら避けきれなかったであろう一撃に、カーナは恐怖する。


「化物野郎が・・・!」


右手を壁から抜いたザグンが、首だけをハースの方へ向けてニヤリと笑った。

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