第17話 5年の想い

王都の街は騒ぎになっていた。


次々に現れた巨大なトカゲのような化物に、憲兵が応戦していた。


「フレンシだ!!


あの魔女、伏兵を用意していたんだ!!くっ!」


化物と対峙する憲兵は、気配に気付き後ろを振り向く。


「えっ」


目の前まで迫った二人のゴブリンが、憲兵の足を蹴り、腹を殴りつけた。


「がふっ・・・」


憲兵と対峙していたトカゲの化物が、二人を見て驚く。


「!?


お孫様方、何故ここに・・・!?」


二人の後ろに居るジルニが答える。


「モース様とマッシ様は私に打ち勝った。


よって、フレンシ様の第二の命でお二人を戦場へ案内している。


ベンケル、お前も護衛に加わってくれないか。」


時は十数分前に遡る。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


モースは隠れず、向かってくるジルニの攻撃を避け続けた。


ジルニの爪による攻撃は鋭く、喰らえば致命傷は免れない。


しかし、モースは相手が話の通じる相手だとわかると冷静に行動し始める。


(よ、読まれている。


恐らくは私の性格をこの短時間で把握したのだろう。)


そして、木から木へ移動し隠れながら攻撃のタイミングを伺うマッシ。


モースが咄嗟に地面に溜まった落ち葉を蹴り上げる等して作り出した隙をマッシは見逃さなかった。


ジルニは3度、マッシからの攻撃を受けた。


(木をなぎ倒しても別の場所へ移動される。


広い空間を作り出して戦おうとすると街の方へ逃げていく・・・


そしてそれを追って行ったなら、再びお二人の攻撃パターンが始まる。)


ジルニは攻撃の手を止め、まばたきをする。


「・・・私の負けです。


ここまでとは思っていませんでした、フレンシ様が行った指導の過酷さが伺えます。」


「えっ。」


木に隠れていたマッシが恐る恐る顔を出す。


「て、てことは・・・」


「ええ。


私はもう止めません。・・・止められない、と言った方が正しいでしょうね。」


モースは少し安堵し、マッシは「やった!やった!」と喜ぶ。




「しかし。


フレンシ様からの命はもう一つあります。」


ジルニが覚悟を決めた目で告げる。


「なっ、まだ何かあるのか?」


「えぇ・・・僕たちを止めるのは無しになったんじゃないの?」


「あの方はこの未来を見通していたのですよ、きっと。」




『もし、止められなかった場合・・・


貴方が二人の護衛となり、私の元へ案内しなさい。


もし時間を稼ごうとしても気付かれるから、最短ルートを案内していいわ。


まだまだ未熟だけど、それでも私の孫よ。』




(ジルニさんの言う通りだ。


最初からばあちゃんはこうなるのをわかっていたんだ。)


「ばあちゃんはやっぱりすごいなぁ・・・」


マッシが関心していると、ジルニが一つの折りたたんだ紙を取り出す。


「それから、これを渡すように言われています。


内容はわかりませんが、お二人はこれを読んだらすぐに土に埋めるように、と・・・。」


モースはジルニから紙を受け取り、開いてマッシと一緒に中身を読む。


「・・・」


「・・・えっ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「見えましたね!城まであと少しです!


フレンシ様の突入ルートを考えると、逆側から回りましょう。


正面を入ったらすぐ左の扉です。そこから廊下を走りぬけます。


そして、中央奥の大広間への大きな扉から入るのです。」


「わかった。」


ジルニ、ベンケル、モース、マッシは走り続ける。


(クソッ・・・!!


このままだと俺の嫌な予感が当たっちまう!!


急いで、急いで魔力を解放しなきゃ・・・でないと―――)






フレンシ達は正面玄関から入り、すぐ右の扉を開け廊下を進む。


角を曲がり、奥まで突き進もうとするが―――


「!


お前達、すぐ隣の大広間に入るよ!」


フレンシは、およそ100mはある廊下の奥に兵士が十数人こちらへ向かってくるのを視認した。


左の扉を開け、フレンシが真っ先に入る。


大広間には、フレンシから見て右側にある奥の大広間へ続く廊下への扉に四人。


フレンシの左右に二人。


奥の階段から十数人の兵士が降りてくる。


フレンシは、迷わず左へ跳び、大剣の腹を兵士へ打ち込む。


兵士は咄嗟に剣で受けるが、後ろへ吹き飛び壁に激突する。


「がぁっ!」


そして、フレンシに続いてトカゲの化物がおよそ二十人入ってくる。


二十人全てが入り切ると同時に、階段から降りてきた兵士達が襲ってきた。


あたりは乱闘騒ぎになる。




「フレンシ様!!先へ!!」


一人のトカゲの化物が、廊下への扉を開けながら叫ぶ。


フレンシは、身を屈めながら大剣を構えた状態で走る。


行く手を阻む兵士達5人を、鮮やかな剣さばきでなぎ倒す。


フレンシは廊下を進み、突き当りの扉を開ける。


さっきまで居た大広間よりも少し奥行きのある大広間。


二階部分の通路に数人の兵士。


そして―――


「やはりここに来ると思っていたよ、フレンシ・カオーテ。」


大広間の中央に、兵士を4人連れた男が一人。


かきあげた肩程まである薄い金髪、茶色の眼、そして軽装備の甲冑を着てマントを羽織っていた。


「あら・・・丁度良かったわ。


あなたを探していたのよ。」


フレンシはニコリとほほ笑む。


だが、大剣を持つ手に力が入り、血管が更に浮き出る。


「何?俺を探していたのか?


なんと恐ろしいことだ・・・その剣で俺の首をはねる気か?だとしたら恐怖で足がすくんでしまいそうだ。」


飄々と言ってのける男に、フレンシは静かに言う。


「えぇその通り。


お前の首を貰いに来たのよ、将軍。」


「俺の名はヘンドル・バーキオンだ!!


忘れたのか?自分の息子夫婦の仇の名前を!!」


ヘンドルが叫び、高らかに笑う。


「これから殺す相手の名前なんて要らないわ。


顔と声さえわかれば十分よ。」


「話が通じんなぁ。


だからゴブリン族は嫌なんだ・・・会話を成り立たせる労力さえも無駄なんだよ。」


ヘンドルは腰に携えた鞘から剣を引き抜き、構える。


「こっちもこの時を待っていたんだよ。


これでやっと・・・正当な理由によってお前を殺せるからな!!


おいお前達!!!この戦いに手を出すなよ・・・死にたくなければな!!」


ヘンドルが叫ぶ。


フレンシもまた、自分の後ろで低く唸る部下達に告げる。


「貴方たちも手を出してはダメ。


もし私が負けた時は逃げなさい。」


「フレンシ様・・・」


「5年・・・人生の中で最も長い時間だったわ。」


フレンシからにじみ出るように、しかし強烈な殺気が放たれた。




数秒の間を置いて、フレンシとヘンドルが、同時に走りだした。

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