第15話 僕がやらなければ

「居たぞ!!侵入者の生死は問わん!!」


兵士の声が廊下に響く。


王都内部、北側の通路を縞とタノスが駆けまわる。


「一番手薄になる時間って言ってたけど結構出くわすな。」


「出くわす方が俺たちにとって都合がいいだろう。」


「そりゃそうだけど・・・よっ!」


縞は曲がり角から出てきた兵士の顔面に跳び蹴りを喰らわせ、道を確保する。


後ろから兵士が5人追ってくる。


「タノス!そこの部屋入れ!」


縞は目の前から兵士が3人やってくるのが見え、タノスに指示する。


タノスは通り過ぎようとしたドアを開けながら縞の前に居る兵士の足を狙って二度発砲、縞が部屋の中に入った瞬間ドアを閉める。




縞とタノスは王都の塀を登り敷地内へ侵入、4階分程の高さがあるやぐらの中心の小窓から内部へ入った。


ワッシュ達が王都に入る予定時刻の5分後で、侵入者に気付いた兵はすぐに他の兵へ伝達し、フレンシの思惑通り逃げ回る縞とタノスを捕らえるために多数の兵が投入された。


(兵士達の使う武器は剣と一発ずつ弾をこめ直す古いタイプの銃だ。


種類が限られてるし兵士達も多数で少人数を相手するやり方を知らないみたいだ、時間はまだ稼げる。)


入った部屋から更に次の部屋のドアを開けると、中に居た二人の兵士が気付く。


縞はナイフを構え、先に迫ってくる兵士の剣を受ける。


剣を受けながら滑らせるように剣の根本へナイフの刃を移動させ、空いている手でナイフを持っている手を強く叩く。


衝撃で兵士は剣を手放す。


「うっ!?」


奥に居た兵士の左足を銃弾で撃ち抜くタノス。


剣を手放してしまった兵士は縞に掴みかかろうとするが、縞はそれをかわし首の後ろに手刀を叩き込む。


手刀を叩き込まれた兵士は前のめりに床へ倒れ込み気絶。


銃で片足を撃たれうずくまった兵士は、タノスに顎を下から蹴られ気絶。


「よし、後ろからなだれ込んでくるからすぐに移動を―――」


【正面玄関よりフレンシと化物達が侵入した!!


既に追っている侵入者への人員を最小限に留めフレンシを討伐せよ!!】


突如として部屋の上部に取り付けられた伝声管から声が響く。


「よし、俺達も兵士達をもう少し撒いて1階へ向かおう。」


「・・・ああ。」




(きっとフレンシさんが来たんだ。急に騒がしくなってきた。)


カーナは通気口から敷地内に降りた後、外側からドアを開け誰も居ない小部屋に入っていた。


(あっ・・・これだ!地下へ行く方法のうち三つ目。


楽器のある物置部屋のタンスの下・・・)


カーナは角に設置されたタンスを引っ張る。


「お、重い・・・っ!」


引っ張る最中、王都内部側のドアの方からする足音が大きくなる。


(!!


ダメだ!!音をさせたら気付かれる!!)


カーナはタンスを引っ張るのをやめ、動きを止める。


大きな足音は次第に遠くなる。


(・・・い、今だ。)


カーナは再びタンスを引っ張り、移動させる。


タンスのあった場所の床に、取っ手がついていた。


取っ手を引くと地下へのはしごが現れる。


唾をゴクリと飲むと、カーナははしごを降り、地下一階に到着する。


灰色の石で出来た壁と通路は、一階の模様が描かれた華やかな通路とは別世界であるかのように異質な雰囲気を醸し出している。


カーナは慎重に廊下を進み、兵士の足音がすると空いている部屋へ身を隠す。


(偶然が重なってるだけだ。


咄嗟に入った部屋に誰も居なかったから良かった、もうそれが2度も続いてる。


・・・僕は本当にたどり着けるのか?)


緊張と不安で手汗が止まらない。


部屋に飾ってあった、自分の顔より少し大きい盾を外して片手に持つ。


(無いよりは、マシだ・・・無いよりは・・・!)


カーナが再び通路に出て、更に地下への道を行こうとした瞬間だった。


「お忍びごっこは楽しんでるか?」


後ろから声がし、カーナはグルンと振り返る。


今まで見た兵士とは違った服装。


鼻の骨が削れており、茶色の短髪に黒い半袖の上着を着た両腕に鉄の輪をつけた男。


「俺は王都の兵士じゃねぇ、外から雇われた傭兵だ。


だから―――」


男は両手に小型のナイフを持った。


「侵入者を一人殺せば俺自身に報酬が入るんだよ。わかるか?わかるよな。」


カーナの背筋が凍る。


男が迷いなく真っすぐ走ってくる。


ナイフを振りかぶる男に、カーナは咄嗟に盾を構える。


「うぁっ!」


男のナイフを盾で防ぐも、盾ごと蹴りを喰らったカーナは5m程突き飛ばされる。


盾も床に転がり、カーナは身体を持ち上げようとする。


「おいおい、こんなに弱いのかよお前。


よくそんなんで王都に侵入しようと思ったな?ん?お前、頭が足りないのか?」


男は喋りながらカーナの方へ歩いてくる。


(だめだ、こいつから逃げなきゃ。


逃げて、地下へ行って、装置を壊さなきゃ―――)


「よ~~~しこれで報酬貰ったら休暇でも申請するかぁ。」


男はカーナの目の前まで来ると、振りかぶったナイフを持つ手に力を入れる。


(僕が、僕が、僕がやらなきゃダメなんだ。)




(ここで死んだら、皆が――――――)


カーナの喉を狙って、男がナイフを振り下ろす。

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