第14話 老兵

森の中、二人のゴブリンと一人の化物の話声だけが響き渡る。


「ばあちゃんが・・・」


モースは思案する。


(ということはやっぱり戦いに行ったんだ。


ワッシュさん達と手を組んで・・・しかも森の狩人も連れて。


俺達が万が一起きて自分を追って来ることも想定して・・・)


そしてモースは、拳を握りしめる。


「いつもそうだ。自分の命は簡単に天秤にかけるのに、俺達のことは何があっても守ろうとする。」


「フレンシ様はそれだけあなた方のことが大事で―――」


「そんなことわかってる!!」


モースは大声を出す。


「でも俺だって!!ばあちゃんに負けないぐらい、ばあちゃんに死んで欲しくないんだよ!!


こんなの、許せるわけないだろ・・・!!」


怒りを露わにするモースの後ろから、マッシが震えながら喋り出す。


「ぼ、僕だって・・・ばあちゃんが居なくなったら・・・そんなこと考えたくないよ!!」


モースが一度振り返る。


「マッシ。俺はばあちゃんのために命を賭ける。


お前はどうする。」


マッシは黙ってうなずき、決意した眼でモースを見た。


「・・・ありがとう、マッシ。


ジルニさん、俺たちはどうしても行かなきゃならない。そこをどいてくれ。」


「なりません。フレンシ様より、この命が消えても止めろとのことです。


もしそれでも行くと言うのなら、全力でお相手致します。」


ジルニはゆっくりと、臨戦態勢に入り構えを取った。


「マッシ。


ばあちゃんに習った兵法基礎の3と5を繰り返せ。」


「わ、わかった。」


マッシの震えが止まった。


モースは自分の腕の半分程ある金槌を取り出し、身を屈め構える。


マッシも同じサイズの金槌を二つ取り出し、ジルニの横へ回るように走り出した。


(お二人はまだ子供とは言え、あのフレンシ様から直々に鍛えられていると聞く。


怪我はさせたくないが・・・こちらも余り手を抜いてはいられないかもな。)


ジルニが、構えを崩さぬままモースめがけて踏み込む。








まだ一般市民が誰も起きて来ない、憲兵が数人しか居ない静かな街。


その街の大通りを、大群が突き進む。


城の門へ到着すると、左右に建てられた高さのあるやぐらのうち右側から声がする。


「てっ、敵襲ーーー!!!敵襲ーーーーーーーー!!!」


大群の先頭に居るフレンシが指示すると、およそ100は居るであろう化物のうち二人が壁をよじのぼり、内部へ入る。


「フレンシ様。警備の兵は如何いたしましょう。」


「どのみちこれからすぐ暴れるんだ、警備の兵ぐらい放っておきなさい。」


程なくして、鉄の門が内側から開いた。


「さて、あの子達上手くやってるかしらねぇ・・・」


フレンシは更に奥へ突き進み、木製の豪華な正面玄関の前に立つ。


「下がってなさい貴方たち。」


化物たちはフレンシから一旦距離を取る。


フレンシは背中に背負った大きな鞘から、自分の身長の三分の2程の分厚い大剣を抜く。


そして目にも留まらぬ速さで、玄関の扉を2回斬りつけた。


扉は三分割され、押し出されるように部屋の中へと崩れ落ちた。


「さぁ、行くよお前達。」


フレンシが低く、しかしハッキリとした声で呟いた。

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