第13話 フレンシの孫

2足歩行の魚のような顔をした合成獣が、腹上部に蹴りを喰らい吹っ飛び、壁へ激突する。


4足歩行の人面犬は頭部を千切られ絶命する。


2m程ある四本腕の合成獣は胸に二か所穴が開き出血多量で倒れた。


ワッシュは次々に合成獣に致命傷を与える。


(攻撃性が高い割には皮膚の強度が弱い・・・


異種の生物を混ぜれば当然の結果か。)


戦闘が始まり3分。


合成獣達の千切れた腕や足がそこら中に散りばめられている。


ワッシュの拳は相手の肉体をえぐり―――


蹴りは肉体をいとも簡単に吹き飛ばす。


吹き飛ばされた合成獣に当たる事で首が折れる合成獣も居た。


けたたましい咆哮と肉が千切れ吹き飛ぶ音が壁に反射し続け、大きな壺の中は血と騒音で埋め尽くされる。




10分後、暗がりの中でワッシュだけが立っていた。


(思ったより時間がかかった上に3か所傷を負ってしまった。


魔力の無い状態では再生に時間がかかる・・・面倒なことだ。)


周りは合成獣の破片や臓物が散らばり、異臭を放っている。


どことなく虚空を見つめたまま死んだ合成獣の顔を踏まないように、ワッシュは壁まで歩く。


そして、拳を1度叩き込んだ。


金属の重い音が響き渡りこだまする。


「!」


(私の力でもこれを破壊するのは不可能だな・・・硬い上に分厚すぎる。


となれば・・・)


ワッシュは上を見上げる。


(自動的に開いたということは制御装置があるはずだ。


確か地下一階の西側あたりにそれらしき部屋があったはず・・・)


ワッシュは数秒思案する。


「・・・奴に出来るなら、私にも可能性はあるはずだ。」


そう言うと、ワッシュは合成獣の破片が落ちていない床へ仰向けに倒れる。


そして目をつぶった。




10秒後、ワッシュの身体から魂だけが這い出る。


(よし。出来た。)


だが、ワッシュの霊体はところどころ揺らぎ完全な形を保てない。


(どのぐらい持つかわからないが、とにかく急ぐしかあるまい。)


ワッシュの霊体は、壁に向かって飛んでいき―――


壁の中へ入り、消えた。






時間は少し遡り、5時25分。


カオーテ一家の家の中、モースとマッシの部屋。


「---きろ!」


「ん・・・ふわ・・・」


「おきろ!!」


「あぇっ!?」


マッシが驚いてベッドから飛び起きる。


モースが焦ったような表情でマッシの前に居た。


「え・・・?兄ちゃん、まだ5時25分だよ・・・?」


「いいから起きて、急いで出る準備をしろ!もう時間が無いかも知れない!」


「ど、どういうこと?」


モースは冷や汗を垂らす。


「昨日の晩飯は、シチューだった。」


「え?」


「しかも急にだ。いつもシチューを作る時、ばあちゃんは事前に俺たちに伝える。


俺たちは大喜びするからな。」


「な、なに?シチュー?」


「シチューを食べた日の夜は、俺らはいつもより深く眠る癖がある。


翌日起きるのがちょっと遅くなった。」


モースの真剣な表情に、マッシは余計に困惑する。


「思い出せマッシ!!!


あの日もそうだっただろう!!!


急にシチューを作った次の日・・・ばあちゃんは戦争に出かけた!!!」


「!!!」


マッシは一瞬青ざめる。


「で、でもまだそう決まったわけじゃ―――」


「居なかったんだ。誰も。」


「え?」


「ばあちゃんだけじゃない。ワッシュさん達も既に居なかった。


ばあちゃんも含め全員荷物を持って出て行った。」


モースは唇をかみしめる。


「手遅れになる前に行くぞマッシ!!


今度はばあちゃんまで死ぬかも知れないんだ!!」


「うっ・・・!」


モースとマッシは急いで支度をし、金づちやナイフを持って外へ出る。


(杞憂で済むなら・・・


そう思って俺はマッシよりも先に寝て、カーテンを開けたままにしておいた。


的中しちまった。クソッ・・・!)


二人は家を出ると、森へ向かって走る。


「ばあちゃんは軍隊の中でも最強の称号を貰ってた。けどそれは昔の話だ。


現にヒューマン達に負けた時、ばあちゃんも相手からの攻撃で傷を負った・・・。


今度も生きて帰って来てくれる保証はない。」


「うぅ、そんなこと言わないでよ兄ちゃん。」


「情けない顔をするなマッシ!!


現実が甘かったら父さんと母さんは死ななかっただろ!!」


「!! ひぐっ・・・」


既にマッシは涙目だ。


しかし、ふいにモースが森の中で立ち止まる。


「え?」


「シッ!動くなマッシ。」


モースは目の前を、森の奥を見つめた。


森の奥から、化物が姿を現す。


化物は目がどこについているかわからず、前へせり出た長めの大きな口、人間サイズのトカゲが二足歩行で歩いているかのような姿だった。


体中に鱗があり、それらは緑色で皮膚は茶色く、森の色と似た配色になっていた。


「あ、ああ・・・あれって・・・」


「ああ。ばあちゃんが言ってた『森の狩人』だ。」




『夜に森に行っちゃだめよ、モース、マッシ。


森の狩人と呼ばれる化物がうろついて、もし襲われたら生きて戻れる保証はないわ。』


『そ、そんなに強いの?ばあちゃん。』


『えぇ、そう言われているわ。


なんでも、群れで行動するから見つかった時は数匹以上が追いかけてくるらしいのよ。


忘れ物をしても、取りに戻るのは彼らが出てこない昼間にしなさい。』




「で、でも何でこんな時間に・・・


もう日が昇ってきてるのに。」


「・・・」


(それもそうだが・・・


群れで行動するんじゃなかったのか?)


化物は、ゆっくりと歩きこちらへ向かってくる。


マッシは周りを見渡すが、他に化物は見つからない。


(何で一匹だけ、しかも日が昇ってるのに居るんだ。)


すると、化物は立ち止まり――――


大きな口を開き、モースとマッシに向かって叫んだ。


「グルアァァァァァ!!!!」


「!!」


「ヒィッ!!!」


化物は二人めがけて走ってくる。


二人は同時に左へ走り化物の突進をかわす。


「マッシ!!このまま走って街まで行くぞ!!」


マッシは半泣きになりながら頷く。


しかし、走り出した二人の後ろで地面を強く蹴る音がし―――


二人の真上を化物が通り過ぎる。


「えっ」


そして、二人の前に化物が着地し振り返る。


「グルァアア!!」


「ヒィィ!!だ、ダメだ兄ちゃん!!早すぎるよ!!」


「・・・?」


叫ぶマッシとは対照的に、モースは考え込む。


(今のはかなり速かった・・・


なのに何で目の前に降り立つんだ。)


化物は大きな爪を持つ右手を振りかざし向かってくる。


二人は左側へ爪を避ける。


爪は隣にあった大木を抉り出す。


「・・・マッシ。俺の後ろの方へ離れてろ。」


「えっ に、兄ちゃ」


「いいから離れてろ!!!


大丈夫だ、俺たちはここで死なない!!」


マッシはわけもわからずモースの後ろの方へ後ずさり、離れる。


「来い!!」


モースは化物に向かって叫んだ。


大きな口から鋭利な歯をぎらつかせ、モースの方を向く。


「グルアアアアアアア!!!」


化物は叫びながら、両手をモースへ伸ばし走ってくる。


モースは、真っすぐ化物を見据えながら何もせず立っていた。


「兄ちゃん!!!!!」


マッシが思わず走ろうとした。




化物の爪は、モースの顔から数センチの所で止まる。


モースは冷や汗を一筋垂らす。


「えっ・・・?」


止まった化物を見て唖然とするマッシ。


「やっぱりな。」


モースがそう言うと、化物は一瞬ビクッと身体が震え、爪を引っ込めて後ずさる。


化物は冷や汗をかき、無言でモースを見つめる。


「殺意とそうでないものの区別は、ばあちゃんからよく教えてもらった。


アンタ、なんのために俺たちを通さないんだ?」


十数秒、静寂に包まれる。


「恐れ入りました・・・まさかここまでとは。」


化物は流調に、くぐもった低い声で喋った。


「!」


「えっ!?」


化物は、臨戦態勢を解き両手を下ろした。


「私は名をジルニと申します。


フレンシ様の命により、あなた方ご兄弟をここから先へ行かせる事は出来ません。」

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