第9話 イサギ その3

イサギはうつ伏せで倒れ込んでおり、動けない。


幾度にもわたる身体の再生と崩壊を繰り返し、イサギの魔力はほぼ底をついていた。


そのすぐそばに、ワッシュが立っていた。


「・・・決め手となる第四の杭を刺した岩は、宇宙に浮いていた小さな破片だ。


いくつも刺していた。・・・だがさっきの状況で狙うならあの場所しか無かった、いや・・・偶然あの場所へお前が来た。」


ワッシュは静かに言い放った。


満身創痍のイサギが、か細い声で言う。




「・・・殺さない、のか。」




ワッシュは、哀しく、遠くを見るような目をして少し経ってから、返事をした。


「私には・・・今、お前達を殺す理由は無い。


邪魔をするなら相手をするが・・・私が殺したいのはただ一人だ。」


「・・・」


「私は、私を生かした友人を復活させ・・・クリエイターを殺す。


ただ・・・それだけだ。」


そう言うとワッシュはしゃがみ、イサギの肩に触れた。


ワッシュの手から、イサギへほんの少し魔力が注がれた。


「・・・!?」


「カーナの件の借りはこれで返した。


・・・感謝する。」


そういい、ワッシュは立ち上がる。


「さらばだ、イサギ。」


ワッシュは跳び、仲間達の居る方へ向かって行った。


「・・・」


イサギは、ワッシュが去り風の音だけになった空間で一人呟く。


「本当・・・何が・・・どうなってん・・・だ・・・」








ワッシュが到着し、縞、タノス、レセウラ、カーナが出迎える。


「ワッシュ!!


・・・勝ったんだな!!!」


「ああ。」


縞が喜んで出迎え、タノス・レセウラ・カーナが胸をなでおろし、ずっと溜め込んでいたかのように息を吐きだした。




そして、戦闘態勢でワッシュを見つめる者が三人。


ワッシュは三人の方を向き、言い放つ。


「残念だが私の勝ちだ。


イサギはあっちに居る。魔力を少し分け与えておいたから徐々に回復するだろうが・・・すぐ手当してやるといい。」


三人が不可思議な顔をする。


「・・・聞いてた話と違うわ。」


雪那が、こらえきれなくなった言葉をワッシュへ向ける。


「貴方、本当に”ワッシュ”なの・・・?


私が聞いた限りじゃ、大量虐殺の末天照達と戦った、極悪人・・・」


「そうだ。お前の言っている事は正しい。」


ワッシュが言葉をさえぎって話す。


「昔の私は、それが事実だ。」




「・・・いや。今もまだ、そうなのかも知れない。


だが少なくとも、お前達の眼に映る私が・・・今の私だ。」




「さぁ、イサギが復活する前に急ごう。


六道賢者は恐ろしく強い・・・もし私がイサギを本気で殺す気だったらまだ秘めた力を出していたかもしれない。」


「あ、あれで本気じゃなかったのか?」


縞が驚いて聞いてくる。


「いいや・・・本気だったさ。


ただ私は最初からイサギを殺すつもりは無かったんだ。


イサギからも、私の事を完全に殺すと決意したような気配はなかった。」


「そうだったのか・・・」


「私は二度殺されているからな・・・区別がつくようになってしまった。


全員準備はいいか?」


ワッシュが問いかけると、みな無言で頷いた。








ワッシュ達が去ってから、2時間が経過した。


雪那達が魔力を分けてくれたおかげで、なんとか立てるまでに回復したようだ。


「イサギ、無理するな。


あと数時間は安静にしていた方が・・・」


ミロが心配してくれる。


「いや・・・報告は早めにしておかないとな・・・」


イサギはそう言うと、「連鏡。」と名前を呼び、自分の腕を見る。


イサギの腕から、黒い文字が浮かび出し、それは宙に浮きイサギの目の前でピタリと止まる。


文字から声が発せられる。


『こちら連鏡。状況は?』


「ワッシュと交戦、双方動力を使った戦いになったがギリギリのところで敗北した。


その後ワッシュは俺に最低限の魔力の施しをしてから、仲間と共に去って行った。」


『・・・わかった。


任せちまってすまなかったな。


傷が深いようなら戻ってこい、治療する。』


「そうだな・・・少し休んだら戻るとするよ。」


少しの間を置いて、連鏡が問いかける。


『・・・ワッシュの人物像は、お前の目にはどう映った?』


「・・・あいつは戦う前、迷ってた。


儀式の手助けをした俺と戦うことを躊躇ってたんだ。


だが意思を決めてからは凄まじかった・・・あれは誰かを護る時の眼だ。」


『・・・』


「連鏡、俺はよ・・・出来ることならもうあいつと戦いたくないってのが本音だ。」


『だろうな。』


「ただ、『クリエイターを殺す』って意思は変わって無かった・・・」


『もし本当にクリエイターと対峙するようなことになるのなら、やはり俺たちが止めるしかない。』


「・・・そうだな。


天照達にも今回の件、伝えておいてくれ。」


『すぐに伝えておこう。


ありがとな、イサギ。』


「ああ。」


会話が終わり、宙に浮いた文字はゆっくりと下降し、イサギの腕の中へ入り消えて行った。


「は〜・・・」


イサギはため息をつき、曇り空を見上げた。




||||||||||||||||||||||

[セロットの心臓]


録音された言葉には続きがあった。




『それとね、この心臓は、老いないしそのまま持っていれば問題なく生きる。


大体一年後・・・溜まった力を元に復活する。この心臓に魔力を注ぐことは出来ないから、時間を短縮するのは無理なんだ。


そして、凄く脆い。誰かが持ってないと、数分で塵になっちゃう。そういう代償のある、リスクの高い術なんだ。


さらに、強いダメージがあると壊れちゃう。


その時点で死んでしまう。そのままの意味さ、君に僕の命を預けるよ。


だから、この心臓、どう扱ってもいい。僕は君に殺されても文句は言えないし、僕が選んだ道だ。


君の好きなようにしてくれて、いい。




ああ、君との旅は・・・楽しかったなぁ!』

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