第8話 イサギ その2

(ワッシュを見失った・・・っ!)


降り注ぐ隕石が全て地上へ落下し、隕石のうち一つの上にイサギは居た。


(隕石全てに杭が刺さって動力が回ってるからワッシュがどこにいるか判別がしにくい・・・)


その時だった。


イサギの乗っている隕石に大きな衝撃が走る。


すぐさま乗っていた隕石を離れ後ろに跳ぶイサギ、ヒビが入り砕ける隕石。


(違う!刺さってる杭は第一の杭だ!ということは―――)


別の隕石へと着地したイサギは振り返り、あたり一帯の隕石を見渡す。


(これら全てがワッシュの支配下―――ここもまずい!)


空中へ行き、地上と距離を取ろうとしたイサギ。


跳ぼうとするが、片足が地面から離れなかった。


体勢を崩し、その場に倒れそうになる。


「まさか―――」


倒れ込む先、隕石の真下からワッシュが現れた。


「第三の杭か・・・っ!」


「そうだ・・・そしてこれが」


ワッシュは倒れ込むイサギを通り過ぎる。


イサギの腹に、杭が刺さっていた。


「―――第五の杭だ。」


イサギの身体のあちこちに裂傷が発生する。


「・・・!」


ワッシュは眉をひそめ、振り返る。


イサギは倒れ込みながら右腕を振り上げ、乗っている隕石へ叩きつけた。


ワッシュが跳んですぐ、隕石が砕け散る。


同時に、隕石に刺さっていた杭も抜け落ちた。


「・・・体内に巡らせているな。」


ワッシュはそう呟きながらイサギを見やる。


イサギは、腹に刺さった杭を抜き取る。


身体の傷は、ほぼ再生しかかっていた。


「ああ・・・今のお前にならいつ刺されてもおかしくない。


灰色の血溜まりは既に俺の全身を巡ってる。」


(灰色の血溜まり・・・


原理はわからないが極めて強力な防御壁。


現に今の第5の杭も刺さりが浅かった。あれでは真価を発揮しない。)


イサギが宙に浮き、更に続ける。


「そして・・・準備は整った。」


「!」


イサギは、懐から角の生えた能面を取り出し、顔に被った。


(鬼の能面!)


ワッシュが身構える。


イサギが、ワッシュの視界から消えた。


「―――ッ」


ワッシュの目が右下の方向へイサギの影を捕らえた瞬間―――


イサギは、ワッシュの目の前に居た。




イサギの左手による正拳が、ガードするワッシュの腕を捕らえる。


ワッシュの身体は吹き飛びながら、隕石を突き抜けていく。


(なんてパワーだ・・・やはりこの状態のイサギの攻撃を直に喰らうわけにはいかない。


動力の方向さえも乱す呪力も込められている。


・・・準備が整ったということは、私の力を削り一撃を入れる機会をうかがいにくる・・・)


ワッシュは身を回転させ一つの隕石に着地する。


着地した瞬間、身が震えるような気配。


真上にイサギが迫っていた。


イサギの真上からの掌底をかわし、距離を取る。


距離を取ると同時に、元居た場所の周辺に発生させた杭をイサギへ放つ。


イサギの両腕から、灰色の液体のようなものが飛び出し、杭を全て弾いた。


そして、イサギがすぐこちらへ向かおうとする。


(灰色の血だまりはイサギの身体を巡っている。


半端な杭は全て防がれる。


――――”直接”でなければ。)






ワッシュは落ちている隕石の裏へ回る。


イサギがすぐ追い、ワッシュが隠れた隕石に触れないよう、隕石の裏へ回り込む。


ワッシュを見つけたイサギが、距離を詰めようとした瞬間。


イサギの顔の真横から、ワッシュの右腕が迫っていた。


右腕は肘から下だけになっており、杭の紋章が刻まれていた。


(自らの腕を切り離し、腕に杭を刺す事で操っている――――)


そして、その右手には一本の杭が握られ、イサギへ向けられていた。


イサギは片足でその場の地面を踏みつける。


迫ってくる右腕を阻むように、地面から岩が高速でせり上がる。


右手に握られた杭は岩に刺さる。


その瞬間、せり出した岩がイサギのほうへ倒れ込んできた。


(違う!右手に持っていたのは第1の杭!)


倒れ込んでくる岩を避け、ワッシュが逃げた方へ飛び出す。


ワッシュは居なかった。


そして再び、周りの隕石が動き出す。


(奴は俺に直接第5の杭を刺そうとしてくるはず。


・・・二回目を凌ぐのは不可能だ。さっきのでかなり魔力を持っていかれた。


道力を込めての直接攻撃は、完全防御型の灰色の血だまりなら防げるが・・・体内循環しているものでは限界がある。


俺の隙を作り、そこを突いてくる・・・そして俺は、そこを逆手に取る。)


隕石の多くは、浮き上がりイサギへ向かう。


「太陽よ・・・来い。」


イサギの頭上、遥か上空―――


イサギが隕石を避けながらも、上空から来るそれは近づいてきた。


やがて、大きな火柱が落ちてきた。




直径300m程の火柱・・・太陽から噴き出した炎が、イサギめがけて落ちる。


隕石は全てドロドロに溶け、刺さっていた第一の杭も消滅する。


イサギは火柱の中、特殊な結界によって身を守りながら索敵を始めていた。


(どこへ隠れた?


周りに杭を仕掛けているのか?


それとも―――)


イサギは気付いた。


火柱の中、一つだけ溶けていない隕石を。


それは、イサギの真下にあった。


(確か燕罪が教えてくれた、第二の杭で刺された物は―――)


真下の隕石が閃光を放つ。


(最初に決めた”発動時刻”になるまで攻撃等による影響を一切受けない―――)


火柱が、地面の部分から大爆発を起こした。


火炎が周りへ飛び散り、火柱は消え、あたりは火の海と化す。


イサギは少し離れた地面へ跳び、受け身を取って立ち上がる。


(先読み・・・展開の速さ、どれもが聞いていたものよりも格段に上―――)


イサギは後ろに気配を感じ、振り返る。


ワッシュが目の前まで迫る。


イサギはすぐ構え、杭を握っている右手を払い、掌底を心臓部分へ叩き込む。


深く、骨や組織が砕ける音がした。


「ぐっ・・・」


しかしワッシュは吹き飛ぶことなく、地面へかなりの勢いがついたまま倒れ、地面に激突する。


その瞬間。


「なっ・・・・・・」


イサギの背に、杭が刺さっていた・・・


正確には、ワッシュの左手が握った杭が刺さっていた。


(気付くのが遅れた・・・っ)


イサギは倒れたワッシュを確認する。


ワッシュの左腕はそこに無く、切り離された腕が杭を握っていた。


杭は背中からどんどん奥へ入り込もうとする。


(なら・・・ここしかない。)


杭の進行が、止まった。


イサギを中心に禍々しい呪力が渦を巻く。


(!


イサギ・・・ここであたり一帯にちりばめた呪力を集積したか・・・!)


ワッシュはそこで気付いた。


掌底を喰らった心臓部分に、印のようなものがついていることを。


「印は外れない。


呪力も十分。


・・・この杭も、もう押し出し始めている!」


イサギが言い放つと、ワッシュの心臓部分の印が鼓動する。


「がぁっ!」


印は広がり、ワッシュの身体全体にいきわたろうとする。


(印が全身に広がり切ったなら俺の勝ちだ・・・っ!


ここで決めずに仕切り直しをしたらスタミナ切れで俺が負ける・・・!)


イサギの全身もまた、軋んで血が噴き出していた。


「イサ・・・ギ・・・」


ワッシュがか細い声ながらも、ハッキリと喋った。




「・・・私の、勝ち・・・だ・・・!」


その言葉と同時に、イサギは気付いた。


自分の真上から、何かが落ちてくることに―――


(そうか)




(あの動力でコーティングされた岩は、俺の背に刺さった杭を狙っている―――)




イサギはすぐさま力を振り絞り、わずかに動き避けようとした。


しかし、イサギは一歩も動けなかった。


「なっ・・・」


イサギは、自分の左右・・・50m程離れたところにそれぞれ第1の杭の紋章が浮いている事に気付かなかった。


「残念・・・だろうが・・・


第1の杭・・・は・・・動力自体にも・・・刺し、操る事が可能・・・だ・・・」


左右の杭が操る動力は、イサギの身体に巻き付き固定していた。


「――――ッ!」


イサギは、渾身の力を振り絞り、呪力をワッシュ本体に集中させた。


そして―――




岩は、イサギの背に刺さった杭に落ちた。


杭が奥まで刺さり、イサギの身体の崩壊は何倍にも膨れ上がった。




||||||||||||||||||||||

[鬼の能面]


怨念や悪霊等が数えきれない量封印されている呪具。


その力を使えば使うほど怨念の力を消費するので、使うこと自体が「祓い」になる。


イサギはこれを顔につけて怨念の力を憑依させ、身体能力・霊力を上げて戦う。


ただし本人も怨念の力に影響されるので長く使用するのは不可能。


現在これを触って操作できるのはイサギと他数名。

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