第6話 お前は敵じゃない

イサギ達が儀式の間と呼ばれる部屋に入り、2時間が経過した。


待っていたワッシュは、開かれた扉の方を見る。


イサギ達がゆっくり歩いて部屋に入ってきた。


「イサギ。」


「おう。・・・やっぱ難しいな、ミロの刀も能面も。」


結果として、イサギ達の方は失敗に終わった。


ミロ・バオールの持つ刀は、刀匠が異常なほどの執念を込めて造られたものだ。


執念と共に込められた魔力が能力を発現し、強い怨念を取り込み続けている。


怨念の塊は刀から離れることは出来ず、ゴルメロの術師へ危害を加えそうになったため、イサギが無理矢理怨念を封じ込めたあと術式は中止された。


そして、イサギの持つ『鬼の能面』は・・・




『も・・・申し訳ございません、イサギ様。


恐ろしい・・・見ただけでわかってしまった。私達でも手に負えません。


一体何をしたらこんなおぞましいものが出来上がるのですか?』


『この面には、悪霊や生霊そのものが何千何万と封印されてる。


少しでも面の中の状態を和らげられればと思ったが・・・厄介なものを持ち込んですまなかったな。』




「その能面はそんなに強力なのか・・・?見た感じそんな雰囲気はねぇけど・・・」


イサギの持つ能面を縞がまじまじと見る。


「俺が持ってる間はおとなしくなってるだけだ。


2千年程生きてきたがこれより強力な呪具を見た事がない。大体100年ぐらい前に俺が回収して破壊・封印方法を探してるが、外に頼るのはそろそろ限界だな・・・」


イサギが困ったように言いながら、面を懐にしまった。


「・・・天照ではどうにかできないのか?」


ワッシュの質問に、イサギは首を横に振る。


「魂を直接取り扱うもんでな、出来ない事はないだろうが相当な準備が要る。


期間もかかるし人員も割く・・・俺が上手く扱えてるのなら、そこには頼れないんだ。


万が一の事態が起こった時に世界最強の人間が出動できません、じゃ話にならねぇからな。」


「そうか・・・」


ワッシュは納得した様子で、ゆっくり立ち上がる。


扉の奥から、術師が二人出て来る。


「縞様、お連れの皆様・・・準備が整っております。


こちらへどうぞ。」








「・・・それではワッシュ殿。カーナ殿の背中に手を当てて下さい。」


言われる通りに、術式の円陣の中心に立つカーナの背中に手を当てるワッシュ。


そして周りで術を執り行う術者達、10名。


それらを離れた所から見やる縞達、イサギ達。


「では、術式を行います。」


「ああ・・・始めてくれ。」


カーナの身体に緊張が走った。


「・・・大丈夫だ、カーナ。」


ワッシュが声をかける。


「ワッシュさん・・・」


「なんとかなる。今も、この後も。」


術式が、始まった。


円陣に魔力がこもり、カーナの身体に霊力がまとわりつく。




10分後だった。


「この封印術・・・かなり特殊だ・・・ッ」


術者達は、手間取っていた。


「ダメだ・・・あと1分が限界だ・・・ッ


それを過ぎれば、この封印に私達まで持っていかれる!」




「・・・」


(私に魂を移す能力は無く、魂を操作したこともあまりない・・・


強すぎる力でカーナ自身が死ぬかも知れない。


もし失敗しそうになったら・・・術式を中止するしか・・・)








「お前ら踏ん張れよ。」


円陣の魔力が、倍に膨らんだ。


10人の術者が取り囲むその外側に、イサギが居た。


「イサギ殿・・・ッ!」


「封印術はなんとか俺が解いてやる。魂の放出に備えろ・・・!」


「イサギ・・・お前・・・っ」


「言っただろ、お前の行動を俺は肯定する。・・・手助けだってする!


それが”俺達”なんだ・・・!」


イサギは器用に霊力をカーナに送り込み、操作する。


(イサギ・・・いや・・・


六道賢者・・・お前達は・・・)








(本当に・・・私の敵なのか・・・?)












それから20分、魔力を消費し続けながらも術師達とイサギの尽力が結果を成す。


「あ・・・」


カーナが、自分の中から他の魂が抜けていったのをハッキリと感じ取った。


「・・・上手く行ったようだな。どうだ、ワッシュ。」


「ああ・・・ちゃんと、私の中へ三人共いる。」


ワッシュが、微かに笑みを浮かべる。


イサギも、ホッとしたような表情でその場に一旦座り込んだ。


術師達も汗だくで疲弊した様子だったが、すぐにイサギの方へ向き直り―――


「イサギ様!この度は助太刀頂き――」


「あーいい!そういうのはいい!


本来そっちでやるものなのを勝手に手伝っちまったからな。ひとまず、上手く行って良かった。」


イサギは皆へ笑いかけた。


ワッシュも、ゆっくりと息を吐いた。


カーナの目には、涙が漏れていた。


「ワッシュさん・・・僕・・・」


「・・・ああ。


お前は生きている。これからも、生きればいい。逃れられぬ運命は―――終わりだ。」


カーナがとめどない涙を流しながら、嗚咽した。


その場に居る者皆が、カーナを囲んでいた。




||||||||||||||||||||||

[イサギ]


六道賢者のうちの一人、畜生道を司る。


"日本"と呼ばれる国の出身。


呪具を処理するために旅をしている。

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