第5話 再会

様々な世界を経て、5日目にようやく目的地へとたどり着く。


大都市ゴルメロ。白いレンガのような石で造られた建造物が立ち並んでいる。


街に見える人の数は少なく、一般市民が暮らしているような雰囲気が感じられない。


各所にある塔のような建物の上部から、黒煙が上がっている。


「あちこちに術が仕掛けられてるな、この国。」


縞が周りをキョロキョロと見渡す。


「・・・罪人が多い故に、逃げ出さないための仕掛けだろうな。」


無数に並んでいる建物や、街のあちこちに術式が施されている。


ワッシュ達は、国へ着くなりすぐに案内を受けた。


『お待ちしておりました。縞様ですね?


我々についてきて下さい。処刑場へ案内致します。』


縞は何も言えず、ひとまずついていくことにする。


カーナが、唾をゴクリと飲んだ。




しばらくして、大きな宮殿のような建物へ着き、中へ入る。


「すみませんが、準備に時間がかかります。


こちらの部屋でお待ちください。」


そう案内役の者が言うなり、大きな扉を開け中へワッシュ達を案内した。


大きな広間で、高さはおよそ6m程あった。


シャンデリアがいくつも並ぶ。


窓は無く、しかし澄んだ空気があった。


そして、ワッシュの目に飛び込んできたのは、それら部屋を構築する物ではなく―――






「お前は・・・ッ!」




「驚いたな・・・こんなとこで出くわすなんて。」


その部屋には、先客が居た。


和服に身を包み、首の中間程まである黒髪でメガネをかけた男が居た。


「イサギ・・・」


「え?イサギって・・・あの六道賢者の・・・ あっ」


縞が呟き、ハッとする。


イサギが口を開く。


「俺らはたまたま、呪いを外す旅の途中でこの国を訪ねてきた。


ただ、術式的には俺らより後から来る客の方が早く終わるって聞いてたもんで、この部屋で待ってたんだ。


そしたらまさか・・・六館の最高戦力で探しているはずのターゲットが来るとはな。」


イサギはため息をつきながら話を続ける。


「お前らも目の前で見たから鮮明だったよな。・・・間違いない、目の前に居るのがワッシュだ。」


イサギの後ろに、男が二人。女が一人。


黒い長髪の女の名は、灯王雪那。


和服を着た金髪パーマのミロ・バオールと、白衣を着てメガネをかけているカルキキ。


雪那は一族絶滅の危機を救うべく、ミロとカルキキ・・・そしてイサギともう一人の六道賢者と共に旅をした。


その最終地点で、杭のパーツが全て集まり・・・ワッシュが復活してしまった。彼女らはその時の光景をよく覚えている。


そして、ワッシュもそれは同じだった。


「・・・」


復活した直後の事を思い出し、ワッシュは脂汗を浮かべた。


イサギはそんなワッシュを見ながら、言葉を続ける。


「・・・やっぱり変わったな、お前。


何がお前をそうさせたのかわからないが・・・俺が知る限りじゃ、お前はそもそも仲間を作り、共に行動をするなんてありえない。」


縞が思わず口を開く。


「ちょっとまてよ・・・!確かにワッシュは昔大ごとやらかしたんだろうが、俺が一緒に旅してる限りこいつは―――」


「縞。少しこいつと話をさせてくれ。」


「・・・!」


イサギが少し驚いた表情をする。


「ワッシュ・・・


でも、今お前の目の前に居るのは・・・お前の天敵なんだぞ!?」


「ああ・・・確かにそうだ。


だが、私の天敵であると同時に人間の味方でもある。六道賢者はな。」


ワッシュが改めてイサギへ向き合い、イサギの目をハッキリと見ながら喋り出す。


「イサギ。私は依頼を遂行するための仲間として来ている。


ここにいるこの人間・・・カーナ・ウルミロスの処刑のためだ。」


「・・・」


「だが、旅の途中で私達は処刑をしないことを決めた。」


「!?」


呆然と聞いていた案内人が、口を開く。


「お待ちください・・・そんなことは聞いていません、一刻も早い処刑が必要だと請け負っているのですよ!」


「突然ですまないな・・・訳を話させてくれ。


イサギ、構わないか?」


「ああ。構わねぇ。」








「なるほど・・・つまり、処刑を取りやめて、代わりにカーナ氏の中にある別の魂達をワッシュ殿の身体へ移したい、ということですね?」


「そうなる。」


「し、しかし・・・」


「そうしてやってくれ。そいつなら大丈夫だ。」


イサギが口を挟む。


「・・・イサギ様がそうおっしゃられるのであれば、そう致しますが・・・」


「ああ。頼む。」


「!」


(・・・"頼む"・・・だと・・・?)


「・・・承知いたしました。術式の変更をします。


その代わり、イサギ様の依頼から執り行う事になりますが、よろしいでしょうか?」


「ああ。助かるよ。」


「ありがとうございます。それでは、私はこれで一旦失礼させて頂きます・・・。」


案内人の男が、部屋を出て行った。




「"どういうつもりだ?"・・・って顔だな。ワッシュ。」


「・・・」


「今お前がやろうとしてる事はな、俺たちが・・・六館側が本来やる事なんだ。」


「!」


「お前は今・・・人間側に立ち、人間の命を、意思を守ろうとしてる。」


イサギは表情を変えず言い放つ。


イサギの後ろに居る三人が、信じがたい・・・と、そんな顔をしていた。


「それを後押ししねぇのは、六道賢者失格だ。


俺は今のお前の行動を肯定する。」


「・・・」


ワッシュは返す言葉が見当たらない。


「だが」




「俺とお前の依頼・・・それらが終わった後。」


縞、レセウラ、タノスが冷や汗を浮かべる。


カーナも遅れて、気付く。


「俺は六道賢者のイサギとして・・・ワッシュ。お前を見つけた以上、お前をそのまま見逃すことは出来ない。」


緊迫した空気が流れる。


「そこで、提案だ。」


「・・・!?」




「この国で、お互いの用事が終わった後・・・人のいない、別の世界へ双方共移動する。


そこで、俺とワッシュの一騎打ちを行う。


俺が勝ったなら、お前を六館へ連れて行く。」




「お前が勝ったら・・・俺たちはお前をそれ以上追わない。その場ではな。


もちろんお前に追跡術式をかけることも、連鏡の文字を入れる事もしない・・・。


これが俺の提案だ。」


縞、レセウラ、タノス、カーナの瞳に、一筋の光が戻る。


だが、ワッシュが声を上げた。


「お前は・・・お前がそんな事をしてしまったら・・・」


「"まずい"、ってか?」


「・・・ッ!」


「別人だよお前。畜生・・・お前が極悪人のままだったら、今すぐにでも奇襲をかけるんだが。」


イサギはやりきれないような口調で言う。


「いいか。今のお前なら話が通じるから言うが・・・


俺の今の提案は、『きっと天照ならこうするだろう』・・・って、そんな俺の思いつきだ。」


「・・・」


天照。


六道賢者の一人であり最も強いとされる人間。


六道賢者を知るほとんどの者にとっての、救世主のような存在だ。


「俺は天照程人の奥底が見えるわけじゃねぇけどよ、そんな俺でも・・・今のお前には”可能性”を感じてる。


今お前を一方的に断罪して処罰を与えるのは、違う気がする。


そんな俺の提案だ。どうする、ワッシュ。」




ワッシュは数秒黙ったまま、何も言わなかった。






そして―――


「・・・わかった。その提案、受けよう。」


「よし・・・成立だな。


ミロ、雪那、カルキキ。構わないか?」


三人はコクリと頷いた。


「ワッシュ・・・」


縞が心配そうに、ワッシュの顔を覗き込む。


「大丈夫だ。


・・・勝つ。」


静かに、しかし強い決意のこめて呟いた。


その呟きは、イサギにも聞こえていた。


(・・・天照や皆に言ったらびっくりするだろうな。


ワッシュの『勝つ』って言葉で・・・)








(天照が俺たちの前で『必ず勝ちます』って言う時を思い出しちまうなんて・・・)

||||||||||||||||||||||

[天照]


"世界最強"と称される人間。能力は「実現」。


スーツを着た、黒髪でメガネをかけた男。


セロットは、自分とワッシュに追いついてきたのが「天照」だとわかり、すぐに心臓をワッシュへ預け天照の足止めをした。

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