第2話 カーナ・ウルミロス
カーナ・ウルミロス、17歳。
グレム国の国王であるグレム・ウルミロスの弟の子として産まれ、時期国王候補として王宮で育つ。
しかし、彼が16歳の時。
二つほど離れた異世界にある同盟国へ父と共に向かい対談。
帰る最中、一つ離れた異世界の国の外側で魔物に遭遇。
魔物は異様に強く、従者の数々はその際の戦闘で命を落とすが、父は命を落とす前に魔物の中に居た魂をカーナの中へ移し、封印。
結果として、突如現れた魔物によりその世界の国の人間への危害は無く、被害を最小限に留める。
満身創痍で国へ戻ったカーナ、生き残った従者。
その数か月後、夜な夜なカーナが起き上がり、別人のような性格と魔力により衛兵や国民を襲うようになる。
封印の効力は日を重ねるごとに薄くなり、カーナが眠った時”ソレ”は起きるようになる。
以来カーナは眠る時独房へ移動し、外へ出ないような処置をされ続けてきた。
「・・・で、処刑しようにも命の危険が差し迫ると"そいつ"が目覚めて抵抗するってワケか。」
カーナが頷いた。
「僕は・・・もう誰かに危害を加える存在でしかありません。」
「今まではどうやって止めてたんだ・・・?」
レセウラが疑問を投げかける。
「私の父が開発した魔術によって、小規模だが内側から破れぬ結界を使っている。
更にその周囲に衛兵を10名配置。・・・正直、かなりの労力だ。」
国王がそう答え、横ではカーナがうつむいている。
うつむきながら、カーナが喋り出した。
「先日、大きな処刑場を持つ罪人を迎える国の事を知り、すぐに声をかけました。
ゴルメロ・・・魂や霊術に長けた術師が多い国だそうです。
そこでなければ、僕の中にいる奴が抜け出して他の身体へ移ってしまうかも知れない。
・・・連れて行って頂けないでしょうか・・・?」
カーナは弱々しく言った。
「・・・グレム国王さんよ、本当にこれでいいのか・・・?」
縞のやりきれない気持ちが、言葉を小さくする。
「弟の息子だ・・・本当ならこんな選択はしたくない。
だが・・・彼はあまりにも多くの兵を、国民を傷つけた。
死傷者はまだ出ていないが、それでもギリギリなんだ。・・・次は人が死ぬかも知れん。」
「・・・ッ」
縞が拳を握りしめる。
ほどなくして、ワッシュが口を開いた。
「・・・わかった。」
「ワッシュ!?」
「縞。依頼を受けるためにここへ来たのだろう。
私も時間が無い。手早く済ませなければならない。」
「あ、ああ・・・」
「それに、私が居れば何も問題は無いだろう。」
「そりゃ・・・そうだが・・・」
そして、縞も覚悟を決めた。
「この依頼・・・受けるよ。
任せてくれ。」
「・・・ありがとうございます。」
国王が、深々と礼を述べた。
周りの従者達も一緒になり、頭を下げた。
カーナが悲しげな眼をしながらほんの少し、笑った。
すぐに支度を済ませ、国を出た。
国王や僅かな従者、衛兵に見送られたが、そこに国民の姿は無かった。
ほとんどの者に疎まれているカーナを見送ろうとする者が居ないのは当然だった。
空間を裂き、亀裂の奥へ入り、グレム国を出る。
「ゴルメロまではここから20ぐらい離れてるんだな・・・カーナがある程度魔力使えるって聞いて助かったよ。」
カーナも四人と同じく、魔力で空を蹴り移動する。
だが、ワッシュ達とは明らかに足りていない魔力量とコントロール力。
ワッシュ達はカーナの速度に合わせて移動する。
「僕の国の人達は皆魔力が使えますからね・・・出来るだけ皆さんの負担にならないようにします。
・・・出来るだけ、眠らないようにも、します。」
「・・・おう。」
縞が返す言葉に迷いながらも、返事をした。
ワッシュは思案していた。
(恐らく・・・カーナの中に居る奴はこれが狙いだろう。
宿主を危険因子に仕立て上げ、外へ連れ出してもらう・・・)
(どこかで脱出する機会を狙うはずだ。その時なら対話できるかも知れん。
それに・・・今のままだと・・・)
移動してから、20時間が経過した。
異世界を三つほど移動し、山の中に入った所だった。
カーナの疲れが限界に達した。
「カーナ、大丈夫か?」
「・・・も、もう少しなら・・・」
疲労と眠気で、今にも意識を失いそうになっていた。
「俺らは魔力コントロールで三日ぐらいは起きてられるが・・・訓練もしてないんじゃ無理がありすぎる。」
縞が心配する。
「縞、移動を中止しよう。」
「ワッシュ。」
「ここでカーナに眠ってもらう。」
それを聞いたカーナが、苦しい表情をした。
「で、でも・・・」
「・・・勘違いしているようだが、お前が眠り中に居る何かが出てきたとして、止められないということは有り得ない。
それに・・・お前の中に居る奴についても少し気になる。」
ワッシュだけが、確信を持ってそう伝える。
縞が声をかけた。
「・・・よし。タノス、レセウラ。準備頼む。」
「オーケイ。」
「・・・わかった。」
タノスとレセウラが、カーナから少し距離を取った。
縞もそれを見て、臨戦体制に入る。
「ワッシュの言う通りだな。・・・カーナ、ひとまずお前が眠ってる間は任せておいてくれ。また目覚めた時に会おう。」
それを聞き安堵したのか、カーナは意識を失いその場に倒れこみそうになる。
倒れる瞬間、手を地面についた。
カーナの足に力が入る。
そして、足に魔力が宿った。
一瞬、カーナが顔を上げる。
歯は鋭利になり、眼は野生の獣のようにギラギラしていた。
髪が、ほんの少し伸びたようにも見える。
「出てきたな―――」
ワッシュがそう呟くと同時に、カーナが消えた・・・というより、縞とレセウラの間をかなりの速さで駆け抜けていった。
「!?」
「はや・・・」
縞が追いかけようと走り出そうとした時には、既にカーナは50m先におり―――
カーナの前には既にワッシュが立ちはだかっていた。
「―――!!」
カーナが足を止める。
「確かに強いな・・・」
ワッシュはカーナを見ながら言う。
「しかし、私には勝てない。・・・どうあがいても、だ。」
カーナがワッシュを凝視する。
「いくつかお前に質問したいことがある。お前の名は?ここから脱出してどこへ行こうとしている?」
カーナの後ろには既に縞達が追い付いていた。
カーナを操る何かが口が開いた。
「・・・俺の邪魔をするんじゃねぇよ・・・」
そう呟いたと思いきや、ワッシュへ向かって行った。
カーナの両手に強い魔力が宿る。
縞が瞬間的に理解する。
(こいつ、接近戦型だ!しかもかなり強い・・・!)
ワッシュの喉元めがけて、カーナの右腕が伸びる。
そして、気付くとワッシュはカーナの背後に居た。
カーナの足に、杭が刺さっていた。
「っ!?」
突如、カーナは地面へ激突する。
「ぐがっ・・・」
(何だ!?いきなり身体が・・・)
「残念だがもう動くことは出来ない。自分で杭を抜くことも不可能だ。
私の第四の杭は刺さった対象を地に縛り付ける。」
カーナはもがき、起き上がろうとするが動けない。
(まるで地面に引っ張られ続けているような・・・
なんなんだこいつの杭は・・・っ!)
縞が追い付き、後からタノスとレセウラも来る。
「助かったよワッシュ、こんなに速いとは思わなくてな・・・」
「構わん、私がやればいいだけだ。
・・・さて、もう一度質問しようか。お前は・・・何者だ?」
「・・・なんでお前らに答えなきゃならねぇ!
どうせ何を知ろうと"こいつ"ごと俺を殺す気だろうが・・・ッ!」
「・・・」
「次こそは抜け出してやる・・・」
そう言うと、カーナの中に居た何かは、眼を閉じた。
ほどなくして、カーナは寝息を立て始めた。
「情報は聞けず仕舞いだったな・・・」
「ああ・・・でも中に引っ込んでくれたみたいだな。」
「だが、警戒は続けよう。いつ出て来るかわかったものじゃない。」
「そうだな。ひとまずカーナが起きるまでここで野営して監視体制取るしかねぇな・・・」
起きたカーナに何があったかを説明し、再び出発する。
カーナの不安そうな表情が少し和らいだ気もするが、根底の不安は取り除かれていない。
異世界を4つ程移動する間、カーナが眠りに二度ついたが、中に居る何かは出て来ることはなかった。
「何故出てこなかったんでしょうか・・・」
「ワッシュの強さに圧倒されて・・・ってワケではないよなぁ。」
レセウラと縞が理由を考えている。
「・・・待っているんじゃないか。」
タノスが口を開く。
「待ってる?」
「逃げるための機会が来るのを、だ。」
「・・・そんな機会、訪れない事を祈るぜ。」
縞がため息をつく。
そして、カーナが4度目の眠りにつく街で、異変は起きた。
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[グレム王国]
国民の大半はカーナを忌み嫌い、憎む者も居る。
カーナが国を出たことにより後継ぎとなる子息は全て居なくなった。
衛兵の一人がカーナを殺そうとしたが、国王はそれをなんとか止める。
その時についた腕の傷を隠すため、国王は腕輪を外さない。
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