親友のために
@a_ke
0章 杭は抜かれた
第1話 逃亡の末に
枯れた木々が連なる荒野で、一人の男が歩いていた。
油断していると倒れてしまいそうな程に追い詰められながら、その顔は前を向いていた。
肩よりも長い、薄い色の金髪が風にあてられ揺らぐ。
今の寒さに丁度合うような、しかし古びた薄クリーム色のコートが風から身を守る。
残虐の限りを尽くしてきた彼の心は、親友との出会いによって大きく変わった。
(この前・・・大きな山と湖を遠くから眺めた。
美しい景色だった・・・
きっと今までの私なら美しい、などと言う感情は持たなかっただろう。)
(ああ・・・セロット、お前にもあの美しい景色を見せてやれないのが残念でならない。
今・・・そう強く思う。)
(セロットは一年程で復活すると言っていた。
そして、その間私はセロットの心臓を守り続けなければならない。)
懐に、微弱ながら動く心臓の入った袋がある。
(だが・・・それと同時に、私もクリエイターを倒せる程の力を取り戻さなければならない。)
男は模索していた。
(きっと、私の力が戻るには何百年・・・何千年もかかる。
それをなんとか縮める方法が必要だ。
方法を探さなければならない・・・)
『ワッシュのしたい事は、何?』
セロットの言葉を思い出す。
(私は・・・クリエイターを倒し、セロットと共に世界を旅して回りたい。
全てを、終わらせたい。)
(六道賢者は・・・彼らはきっと私を許さないだろう。今も追手が私を探しているはず。
クリエイターを倒すという目的の前に立ちふさがるのなら戦うしかない。
・・・だが、そうでなければ彼らと戦う意味は無くなった。
不思議なものだ・・・彼らに対する憎しみはどこへ行ったのだろうか?
クリエイターに対してもそうだ・・・憎しみじゃない、『やらなければならない』・・・そう強く感じている。)
「世界のどこかに、あるはずだ。
時間を止める術、遅らせる術・・・あるいはそんな場所が。」
――――――――――――
親友のために
Episode Wash
――――――――――――
異世界を転々とするも、手掛かりは見つからない。
どこを目指すのかもわからないような足取り。
そんな中だった。
「そこのアンタ!」
空から声が聞こえた。
声のする方向を見ると、3人の男が居た。
崖の上に居る3人のうち1人が最初に飛び降り、ワッシュの前に着地する。
そして残りの2人も地上に降り、ワッシュの元へ近づいてきた。
「・・・私に何か用か」
「ああ!」
話しかけてきたのはワッシュより少し背の低く、布を額に巻き黒髪を上へ立たせた男。
黒く、動きやすい装束で腰に短剣か何かを入れているような入れ物をつけている。
口調から陽気さが伝わってくる彼が先頭に居た。
その後ろに、金髪を後ろに流しゴーグルをかけた男。
少しこちらを警戒している。
肩程まである髪、前髪は目にかかるような暗い雰囲気の男。
首元まで隠れる黒い服の彼もまた、明らかに警戒するように睨んでいた。
そしてワッシュもまた、警戒するような目で3人を見やる。
「あー、まぁそりゃ警戒もするよな。えーっと・・・」
一息置いて、再び喋り出す。
「とりあえず先に自己紹介させてくれ!
俺の名は縞藤二しま とうじ。ある依頼を受けてて、そのために仲間を探しててな。
アンタ、少し前に賊の一団をすごい速さで壊滅させてただろ?アレを見て『この強さなら・・・』って思ったんだ。」
縞は気軽な雰囲気でペラペラと喋る。
(・・・この前私に対して盗みを働こうとした人間達か。)
「この強さなら・・・?」
「ああ。今俺たちが受けてる依頼が何かと危険なもんで強い奴が仲間に欲しいんだ!」
「・・・」
「もちろんタダでなんて言わない。
俺はよ、引き入れる仲間の依頼を後にこなすって条件で戦力になるやつを集めてるんだ。
もし引き受けてくれるってんなら、アンタの望みも叶えるぜ。」
得意げに、縞はワッシュへ言った。
「私の望み・・・か・・・」
(他の人間との行動・・・あまりしたくはないが・・・
時間が無いのも事実。しかし・・・)
「縞、と言ったか。」
「おう。」
「私はな・・・時間を操れる能力者、もしくは時間を操れる場所を探している。
具体的には・・・1秒で1年の時が過ぎるような、そんな力だ。
それを探せるのなら、引き受けてもいいだろう。」
後ろの二人が訝しげな顔をした。
「時間・・・かぁ。」
一方、縞はほんの数秒考えこむような仕草をした。
そして―――
「・・・わかった。
なら交渉成立だな!」
(・・・!?)
「お前・・・本当にそれを見つけられると思っているのか?
あいにくだが私には時間が無い。何年何十年と待ってはいられん。」
「あーそこは大丈夫だ。」
「俺はもう、"ソレ"の場所を知ってるからな。」
「!」
ワッシュは目を見開く。
「とはいっても、ある程度の方向がわかるぐらいだから手探りしながらだけどな!」
「・・・」
目を細めたワッシュは、目の前の男を値踏みするように見る。
(この人間がどこまで信用に足るかわからん・・・が
もしかすると近しい物はつかめるかも知れん。)
「わかった・・・ついていこう。」
「!!よっしゃ!よろしくな!
えーっと、アンタの名前聞いてなかったけど・・・」
「ワッシュだ。」
「おお!よろしくなワッシュ!
因みにこっちの金髪がレセウラ、こっちの地味なのがタノスだ!」
「よろしくな。」
レセウラと呼ばれた男が気さくに挨拶をする。
「・・・。」
暗い雰囲気を帯びたタノスは何も言わない。
「あー・・・悪いな、こいつはいつもこんな感じなんだ。」
「・・・いちいち馴れ合う必要はない。」
「そういうこと言うな~って!!」
縞が困ったようにタノスに注意する。
「さーてと、ワッシュが居てくれれば多分突破できる・・・
この四人でいこう。」
急に出来た仲間と共に、ワッシュは"依頼者"の元へ向かった。
「・・・縞。」
「ん?なんだ?」
「私を引き入れたのはいいが・・・お前、私の素性を聞かずに何故引き入れた?」
「あー確かにな。」
軽い返事だった。
「なんだろな。俺昔からわかるんだ。
アンタ多分良い人だよ。根拠とか確証とか無いけど!」
その理由に眉をひそめるワッシュ。
「・・・少し慎重さが足りないんじゃあないか?」
「そう言われると返す言葉もねぇなぁ~。」
(不思議なものだ。
私も・・・こいつは悪い人間ではなさそうな、気がする。)
「でも何かそう言われると気になるな。何で時を加速させたいんだ?」
ワッシュは話すか迷っていた。
だが・・・
「・・・私は今、友人を連れている。」
「友人?え、どこに・・・」
「心臓だけになってしまった友人が、あと1年程で復活する。」
「し、心臓!?」
驚ろく縞とレセウラ。
「封印とかその類か・・・?凄い術を持ってるんだな、お前・・・」
「いや・・・私ではない。心臓の主が使った魔法だ。
だが、復活する前に私は失われた力の多くを取り戻さなければならない。
そのためには1、10年程じゃ足りない。もっと多くの時間が必要だ。・・・時間を経過させなければならない。
私の友・・・セロットが復活する前に、力を取り戻す。私の使徒としての力を。」
タノスの表情が変わった事には、誰も気づかなかった。
「・・・お前たちの望みは叶え終わったのか?」
ワッシュが縞の後ろに居る二人に訊いた。
「あー、俺はもう済んでるんだ。この一件を終わらせたら離脱しようと思ってな。」
レセウラがそう答えた。
「タノスはまだなんだよな。だからワッシュはタノスの望み叶えてから―――」
「いや。"もう叶ってる"。」
タノスが口を開いた。
「え?」
縞が驚いたような表情でタノスを見る。
「え、だってお前・・・まだ友人見つかってないんじゃないか?
何年も前に会ったっきりの友人が異世界のどこかに居るって・・・」
「ああ。そうだ・・・」
「その友人というのが、セロットだ。」
「セロットって・・・」
「あ!」
縞がワッシュの方を見た。
ワッシュも、少し驚いたような表情だった。
「お前・・・セロットを探していたのか。」
「・・・何故セロットが心臓だけになって、そして何故セロットの心臓をお前が持ち歩いているのか。
聞きたい事が山ほどある。」
「・・・」
「だが、俺はお前が悪い奴だとは思わない。
お前は、セロットを友人だと言った。」
ワッシュは怪訝な顔をした。
「あいつの友人、それだけで信用には足りる。」
移動していた足を止め、タノスがワッシュに向かって言う。
「だから、話してくれ。
・・・セロットに何があった?」
真剣な物言いからは気迫さえ感じられる。
縞とレセウラも少し冷や汗を流した。
「・・・私がこれを話すということは、下手をすると私自身の身やセロットを危険に晒すことになる。
お前達が他へ黙っていてくれれば、話せる。」
「・・・敵に追われているのか?」
「ああ。
相手は・・・六道賢者だ。」
三人の顔が一瞬強張った。
無論、三人はその名を知っている。
敵に回したら無事では済まない巨大組織だ。
「それでもいいなら・・・話す。」
「話してくれ。」
タノスが言った。
「他に言わなきゃいいんだろ。確かにそりゃ大ごとだけど・・・」
レセウラが元のテンションで言った。
「俺も構わないぜ。どのみち力を借りたいわけだし、お前のことを知れたらここからの旅も楽そうだ!」
(・・・)
ワッシュはため息をつき、ひと呼吸置き、話し始めた。
「さて・・・何から話そうか。」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
(セヌサハの言った通り、蠅が向かってきたようだ。)
木製のドアを勢いよく開けた、目の前に立っている男にワッシュは声をかける。
「やぁ、ついに来たか。・・・私がワッシュだ。探し人は合ってるか?」
「今すぐアイツを止めろ。」
「まぁまぁそう焦るな・・・いいよ、と言いたいところだが
・・・もう完成してしまったんだ、止められるものではないさ。
それより自分の身の心配をしたらどうだ?燕罪くん?」
ワッシュが邪悪な笑みを浮かべる。
燕罪えんざいと呼ばれた男は、怒りの形相でワッシュを睨みつけていた。
もう数十億、数兆・・・一体いつ私は生み出されたのだろう?
気付けば世界を転々と歩き、私は人間を自由に支配し操り・・・
気に入らない者は殺して回った。
何億、何十億と殺してきただろうか。・・・それ以上かも知れない。
ある時、『用済み』とされてクリエイターに殺されかけ・・・眠りから目覚めた。
私にあったのはクリエイターへの強烈な憎悪だった。
数十年前、私を・・・私達を作り出した神、クリエイターを倒すために私含め3人の使徒が集まった。
クリエイター・・・この世の全てを創造した者だ。
だがあんなバカげた存在を守る人間共が居る事を知り、そいつらを先に駆逐しようとした。
私は杭を操る能力で数万、数十万もの人間を操り人質に取りながら『燕罪』という人間と戦った。
そいつに勝ったのは良かったが・・・そのあとが問題だった。
(覆せん!!私の杭がどうあがいても通用しない・・・
剣王の弟子と天照の弟子・・・っ!!!)
(化物かこいつらはっ!!!)
極めて危険な能力を持った人間が居たものだ。私は戦いに負けた・・・奴ら全員に杭を刺したのに、負けた。
そしてその後、クリエイターによって殺された。
私は一つだけ保険をかけていた。
己の分身となる、魂を分けた杭を5つに分解して既にあちこちの異世界へ放っていた。
十数年後、暗示をかけておいた人間の働きもあり分解された5つの杭は集まり、私は復活した。
そして復活した時最も近くに居た人間の魂を半分奪い去り、その場から必死に逃げた。
・・・あの時の人間共、六道賢者の仲間がそこに居たからだ。
私はただ恐ろしかった。次は無かった・・・
だが逃亡の旅を続ける最中、私より半分程の背しかない帽子を被った人間に出会った。
人間と言っても、顔は燃える炎のようなシルエットでギザギザの歯が見えた。
その人間は自らを『セロット』と名乗った。
「僕は大魔法使いさ!なんでもできちゃうんだよ!」
それがそいつの口癖だった。
セロットはしつこく私を助けたい、力になりたいと言ってきた。
追手の一人ならすぐに殺しておきたい、そのぐらいにしか思っていなかった。
そう思っていたが・・・
セロットは私の発する魔力の波長を完全に変化させられる魔法があると言った。
そしてそれを試させ・・・
魔力の波長が変わった私は、六道賢者の追跡から逃れることに成功した。
『ワッシュ、君は今逃げ続けてるけど・・・
何か、目的はあるの?』
『ああ・・・
力を少しずつ取り戻し、クリエイターを殺す。
そのために邪魔な者達も消す。』
『そっか。じゃあさ―――』
『クリエイターってのを殺せたら、そのあとどうしたい?』
『どうしたいか?それは・・・』
それは?
『他に、したい事は無いの?
せっかく僕ら生きてるんだよ。
生きてるなら、何でも出来るよ!』
したい・・・事?
『人間達を支配し・・・』
支配?支配して・・・どうする?何になる?
私のしたい事とは・・・なんだ?
『悩んでるみたいだね。』
『やはり、心が読めるんじゃないか?お前は。』
『いやいや。そう顔に書いてあるよ!あ、そういう例えね!ほんとに書いてあるわけじゃないよ!』
『・・・』
『まぁでも、すぐ見つけるのも難しいよね!これから、見つければいいんじゃないかな?』
『これから・・・』
『僕は自由に生きてる。
ワッシュも、自由に生きていいんだからさ!』
自由に・・・
そうか・・・私は生きている・・・
私の・・・したい事・・・
気付けば、囚われ未来を奪われた人間を救いながら旅をするようになった。
旅の道中に誰かを助けるセロットの真似事かも知れなかったが、それは私の本心になった。
クリエイターは身勝手に私を創り、身勝手に私を殺した。・・・二度も、だ。
なんらかの実験材料にされていたり、奴隷として捕らえられていたり・・・
そんな人間達が、自分の姿と重なったのかもしれない。
しかし、その行動はやはりあの『人間達』に感づかれることになる。
追い付かれそうになった瞬間セロットは、自分の心臓をえぐりだし私に渡し・・・
裂いた空間に私だけを放り込んだ。
「君だけ先に逃げるんだ。追手は僕がなんとかする。
復活するのは大体一年後ぐらいだ。僕の命、預けるよ。ワッシュ―――」
もう、私にとってセロットはただの人間ではなくなっていた。
親友セロットが復活するまで一年・・・
そしてクリエイターを倒すために力を取り戻さなければいけない。
やるべき事が、ハッキリと見えた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「・・・これが私の、全てだ。
お前は私の事を信用する、と言ったが・・・言った通り、私はお前達から見れば虐殺の数々を繰り返した人外の化物だ。」
三人は、黙っていた。
しかし、タノスが最初に口を開いた。
「それでも俺はお前を信用する。
セロットが・・・俺の友人がお前を助けた。それだけでいい。
・・・今は違うんだろ、昔とは。」
「・・・」
縞が口を開く。
「タノスにしちゃすげぇ信用だな。まぁ、俺もこれを聞いたからと言ってワッシュから逃げるわけでもないし別れるわけでもない。
誰にも事情はあるだろ、神の使徒でもな。」
「まぁあの巨大組織が敵に回るってのは流石にびっくりしたけどな・・・
六道賢者って言えば、世界防衛機関って呼ばれてる組織の最高戦力の通称だろ?
人間の味方で、あちこちの異世界で起こる戦争や凶悪事件を対処してる。知らない奴あんまり居ないだろ。
そんな奴に・・・ワッシュ、もし見つかったらどうすんだ?」
「・・・」
(奴らは私を許さないだろう・・・だが・・・)
「全力で抵抗する。私は願いを叶えなければならない。」
「・・・おう!んじゃ、旅は継続ってことでよろしくな!」
縞が気さくに言った。
(ここまでの話を聞いておきながら随分と気楽なものだ・・・
だが私は目的を果たせればそれでいい・・・)
ワッシュの心は静かだった。
いつの間にか、縞達への警戒心も溶けていたような感覚だった。
「さて・・・ここから4つ先に離れた異世界に依頼主が居る。
その間の3つが厄介でな。お互いの身を守りながら進んでいく形になる。」
縞がワッシュへ説明をする。
「相手が誰であろうと問題はない・・・すぐ行くぞ。」
「おう。じゃ・・・いくぞ。」
縞が空間をこじあけ、4人がその奥へ入って行った。
空には暗雲が立ち込める、森や高い岩山が乱立する自然の多い世界だった。
「止まらず走るぞ!」
縞が言いながら先頭を駆ける。
移動して数分も経たないうちに、周囲の森から異形の動物達が次々に出現した。
ワッシュは魔力を使おうとするが―――
「まて!このぐらいなら俺らがやる!」
そう縞が言うと、縞の横に居るレセウラが頷いた。
レセウラの手には気付くと武器が5,6本出現しており、それらを縞へ手渡した。
縞は受け取った武器を宙へ放り投げる。
放り投げた武器から黒い煙のようなものが放出、それは黒ずくめの人の形になった。
レセウラが次々に武器を量産し、縞が受け取り、人形を作る。
人形は襲い掛かってくる魔物と相対し、縞達の進行をサポートする。
「レセウラはあらゆる武器を魔力から生産できる。
んで、俺は武器の性質から特有の分身・・・"黒子"ってのが作れるってワケだ。」
そう話していると、横から巨大な翼をもった魔物が飛行してくる。
後ろに居たタノスが銃を取り出し、魔物へ撃つ。
銃は小さく、威力も期待できない程だったが・・・
撃った瞬間、タノスが片手で指を鳴らした。
同時に、魔物の胸部分に巨大な衝撃波が生じ、魔物を吹き飛ばした。
「・・・衝撃を増やしているのか。」
ワッシュの発言に驚きながらも、嬉しそうに言う縞。
「お!わかるのか!?
その通りだぜ、タノスは自分の知っている場所で起きた衝撃を何倍にも倍増出来る。
指鳴らさないと発動できないのが面倒だけどな~。」
タノスが舌打ちをする。
「・・・俺の能力に文句をつけるな。」
「おおう、悪かったって!
俺だって武器無きゃなんも出来ないしお互い様ってことでよ!な!」
それ以上タノスは返事をせず、黙って走っていた。
(全員際立って特別な能力ではない。
どこにでもあるようなものだ。)
(・・・が、魔力の質自体は並以上の物があるな。)
三人のおかげで難なく二つの異世界を越えた。
そして、三つ目の異世界に入り込む。
「さーて・・・ここなんだよな、問題は。」
縞が息を整え、歩き出す。
見渡す限り、山や自然。先ほどと大して変わらない景色。
違うところと言えば、殺気や生気が一切感じられないということ。
「・・・ここに何があるというんだ?」
「ここはな、魔物とかそういうのは一切居ない。
代わりに、”一人”だけ面倒なのがいる。
そいつを刺激しないよう、ここを通りぬけられたらラッキーだが・・・見つかったら即戦闘だろうな。」
縞がめんどくさそうに言う。
他の二人も警戒を強めた。
「・・・数年前から、この世界に住み着いた奴が一人居てな。
そいつが、この世界を訪れる者達に戦いを仕掛けるんだが・・・これが洒落にならない程強いらしい。
そのほとんどが撤退して、先には進めない。」
「・・・?依頼者というのはお前にどうやってコンタクトを取った?」
「依頼者は問題なくここを通りぬけられたらしい。理由も定かじゃない、わからないことが多いんだよなここに居る奴に関しては。」
「なるほどな・・・ところで、その例の人物だが・・・」
「ん?」
ワッシュは遠くを見据えながら言った。
「確かに居る。・・・そして、私達を見ている。」
「!」
三人がピタリと止まる。
縞の顔に冷や汗が流れる。
「・・・行くぞ。奴は止まって私達を待っているようだ。」
ワッシュは歩を進めた。
縞達も、それに続く。
ワッシュ達四人がたどり着いた先に、彼は居た。
鋭利な歯、紫と黒が混じったような皮膚、後頭部からは髪の毛のように触手が生えている。
黒い長マントを纏った彼が口を開いた。
「・・・久々に強いのが来たな。」
縞、レセウラ、タノスは目の前の者が強い事を肌で感じ取る。
「だが・・・お前は奇妙だ。そこの長髪の・・・」
ワッシュはそれに言葉を返さず、相手に問う。
「私達はここへ戦いに来たわけじゃない。この先の国へ行きたいのだが。
通してくれないだろうか。」
「俺はある人物を探していてな。ここで陣取りここの危険性を広めれば、俺の探している人物は来る。
・・・だがお前達の中にもいない。」
相手が構える。
「だから・・・戦ってもらおう。ここは通さん。そして俺の存在を広めろ。」
「・・・誰を探している?」
「言えない。だからこそこういう手段を取っている。」
ワッシュはため息をつき、後ろを向いた。
「・・・ここは私がやる。すまないが、心臓をお前に預けていいか、タノス。」
「! ・・・俺に預けていいのか。」
「私もお前を信用しよう。」
「・・・セロットを頼む。」
その時、目の前に立ちはだかる者の表情が変わった。
「セロット・・・?」
ワッシュは再び彼を見やる。
彼は震える指で、ワッシュの取り出した心臓を指した。
「そ・・・それが・・・セロットなのか・・・?」
「そうか・・・お前が探していたのはセロットか。」
縞が「こっちもセロットなのかよ?」と小さく呟く。
彼から、増幅した魔力がにじみ出す。
「何故セロットが・・・そんな姿になっている!!」
今にも弾けそうな魔力をこらえる彼に、ワッシュは言った。
「こいつは私を救ってくれた。
今、セロットは眠っている。起きるまで私が護ると誓った。・・・それだけのことだ。」
彼は戸惑いと怒りが混濁するような表情で、言葉を失う。
ひと時の間を置いて、口を開いた。
「・・・セロットの心臓を俺に寄越せ。
出来ない・・・等と言うなら、力ずくで奪う。」
ワッシュは目の前の男から目をそらさず言った。
「縞。」
「お、おう」
「先に行って待っていてくれ。道は切り開く。」
「・・・わかった!」
縞、レセウラ、タノスが空へ跳んだ。
タノスの額には冷や汗。
直後、"彼"の魔力が更に増幅する。
「逃がさん・・・」
「キューブ。」
彼がそう言った瞬間、空へ跳んだ三人の目の前にいくつもの小さな立方体が出現した。
そしてその一片が、次々に開こうとする。
「うげっ・・・!」
構える縞。
だが、中から何かが飛び出す前に、全ての箱に杭が打たれた。
「!!」
杭の打たれた箱は全てが動きを止める。
「早く行け。」
ワッシュの言葉と共に、縞は小さく頷き、三人は世界の奥へと駆けて行った。
「これがお前の能力か・・・」
彼は、箱を封じられた後、空へ跳ぼうとした。
しかし足が地面を離れず、転びそうになる。
すぐにもう片方の足を地面に着き、体勢を整える。
ワッシュの足元には杭が刺さっていた。
「私は普段"4種類の杭"を使う。第三の杭は・・・刺さった地面を対象に、触れている物がその地面を離れることが出来なくなる。」
「・・・どうやら俺は舐められているらしいな。」
「いいや・・・説明をしてもしなくても、お前と私では天地の差だ。」
そういうと、ワッシュの足元にあった杭が地面から飛び出して宙に浮き、消える。
「やってみなければわからん・・・!!」
彼は、手に筒のようなものを取りだす。
筒の両端から紫に光る刃が伸び、怪しくゆらめく。
ワッシュが魔力を捻りだす。
彼はその瞬間、血相を変える。
「私の名はワッシュ。・・・お前の名を聞いておこうか。」
「・・・ユーラ・テヌム。」
ユーラはもう、気付いていた。
目の前にいる底なしの化物に、自分が勝てない事を。
時間にして10分程だろうか。
あたりはワッシュが呼び寄せた小さな隕石で埋め尽くされ、ユーラは右足に杭を打たれ地面に突っ伏していた。
「・・・この星の近くに石が大量に浮かんでいた。
第一の杭は操作が可能だ。・・・落とした隕石は全て第一の杭が入り込んでいる。」
余裕のまま喋るワッシュ。
「そして私の第四の杭は刺した対象を地へ落とす。戦う相手だろうと、なんだろうと・・・」
「ぐっ・・・クソ・・・」
「悪いが、セロットの心臓はやれん。
だが・・・セロットが復活した時は、お前の事を伝えよう。
・・・そして再びお前に会いに行こう。」
ワッシュの声はとても落ち着いており、どこか優しさを感じさせる。
「私がセロットを守る限り、セロットは死なん。必ず復活させる。
・・・お前もそれを望んでいるんだろう。」
「・・・」
ユーラに拒否や抵抗の意思は無かった。
「・・・俺はある国の軍に捕らえられ、実験体として扱われていた。
そこを全てぶっ壊して解放してくれたのがセロットだ・・・」
少しずつ、語りだす。
「あいつと旅をしていた途中、理由をつけて俺の元を離れて行った。
力をつけて会いに行こうとして、やっとの思いで見つけた時心臓だけになっていた。」
ユーラの中で、様々な感情が渦巻いていた。
セロットが心臓だけにならざるを得なかったことへの怒り・・・悲しみ・・・
自分の知らぬ内に事が大きくひっくり返っていたことへの憤り・・・
「ユーラ。色々思うところはあるだろうが・・・私は行く。」
ワッシュはユーラに刺さった杭を抜き、背を向け歩き出した。
「"また"会おう。」
そしてワッシュは姿を消した。
ユーラは、その場に突っ伏し動かずにいた。
「大丈夫かなワッシュ・・・」
縞が心配になりそう呟いてすぐだった。
背後の空間がゆがみ、ワッシュが現れた。
「待たせてすまなかったな。」
「おお!無事だったか・・・感謝するぜホント!お前が居なかったらここまで来れなかったよ!」
嬉しそうに笑う縞。
「構わない・・・それより、ここに依頼主が居るのか?」
ワッシュは目の前の景色を見やった。
自分たちのいる大きな崖から、少し遠くに城や建物が立ち並ぶ大きな街が見える。
ところどころに森が点在するが、一番大きな城を拠点に街が作られているようだった。
「ああ。この国でいーっちばんでかい城?に居る!」
「てか、国王な・・・。」
後ろからレセウラが補足した。
「そういうことだ!さぁ行くぜ!」
縞が先頭を歩き、ワッシュ達もそれに続いた。
門番の入国審査もすんなり通り、案内人に連れられ一行は城の中の広間へ到着した。
広間には、豪華な装束で身を纏った男が2人、その付き人とおぼしき男が4人、そして少年が一人居た。
「ようこそいらっしゃいました・・・よくたどり着けたものです。」
「ああ。依頼者のグレム国王で間違いない?」
縞がそう呼んだ、大きな王冠を被った男が答える。
「ええ。私がグレムです。
しかし・・・この世界の手前の世界に居た化物は・・・」
「それなら私が倒した。」
ワッシュが静かに言った。
「なんと・・・」
「そう!今回強い仲間がいてくれたおかげで突破出来たから、依頼もご安心下さいってな!
・・・と言っても、護衛としか聞いてないんだけど・・・どんな依頼内容なんだ?」
「はい。彼・・・カーナ・ウルミロスの護衛をお願いしたい。
行先は異世界の先にあるゴルメロと言う国です。」
そう言い、国王は少年の方を見やった。
毛量の多い銀髪のくせ毛、綺麗な顔立ちに小顔、瞳は水色。
小柄で大人しそうな雰囲気だった。
「よ、よろしくお願いします。」
少年は不安げな様子で挨拶をした。
「なるほど・・・途中危険な世界を通ったりしなきゃいけない感じか?」
「いいえ。特にこれと言って危険な道は無いはずです。」
「・・・?でも、依頼してきた際に言っていた戦力、というのは・・・」
「カーナが逃げぬよう、カーナが周りを傷つけぬよう・・・そのための護衛、という意味です。」
「ゴルメロでなければ、カーナの処刑が出来ません。
そのため・・・処刑場までの護衛をお願いしたい。」
「・・・え?処刑?」
驚く縞、レセウラ。タノスも同じだった。
「・・・」
だが、ワッシュは小さく震える少年の目を見ていた。
||||||||||||||||||||||
[異世界]
異なる空間に存在する世界。
"異世界"同士は基本的に宇宙で繋がっている。
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