第30話 救援へ
ジュスト・ヴァンランは近くにいるフレリン隊と連携し、北へと向かっていた。
既にサラーヴィーとレビェーデが接近してきているという情報を得ている。レファールが一つを止め、ジュストがもう一隊、フレリンがガーシニー隊を殲滅させた後、もう一隊に攻撃し、摺りつぶしていくという方針の下に進めていた。
程なくして、サラーヴィー隊が北側に現れた。
「目の前にいるのは、サンウマ・トリフタで我々をコテンパンにした将軍だ。奴にフォクゼーレ軍が戦えるのだということを奴らに見せつけるぞ!」
ジュストはそう鼓舞して、サラーヴィー隊へと向かっていった。
その外側ではフレリンとガーシニーの部隊も衝突した。さすがにソセロンから派遣されてきただけのことはありガーシニーも寡兵で善戦している。しかし、兵士数はフレリンが倍近く多い。時間の経過とともに有利になってくるはずであった。
ボーザ・インデグレスがやってきたのは、戦闘開始から30分ほど経過してからのことであった。前線では敵将のサラーヴィー・フォートラントが暴れまわっている。彼を遠巻きにしつつ、周辺ではジュスト隊がサラーヴィー隊の兵士に優勢に戦っているところであった。
「ジュスト様、いますか!?」
ボーザの来訪を聞き、ジュストは露骨に不愉快そうな表情を浮かべる。
「レファールの奴、俺に好きなようにさせていたら不安だと思っているのか?」
サンウマ・トリフタやワー・シプラスでフォクゼーレ兵を散々に打ち倒していることもあり、レファールはフォクゼーレを舐めているところがあると薄々感じていた。そうした優越意識ゆえにどうでもいいことでも指示を下しに来たのではないか。一瞬、そう思ったのである。
とはいえ、ボーザはレファールの副将であるから、あまり邪険にも出来ない。追い返して自分が小物のように扱われるのも心外であった。
「……仕方ない。連れてきてくれ」
ジュストは命令を出す。すぐにボーザが現れた。
「一体、どうしたのだ? こちらも慌ただしいし、あまり細々と指示を受けているわけにはいかないのだが」
億劫そうに応対するジュストに対して、ボーザは「すみませんね」と前置きしつつも。
「コルネー王に危機が迫るかもしれないので、早めにガーシニー隊を潰してもらい、中央の救援に向かってもらいたいということです」
「コルネー王に……? 南側が危ないのか?」
ジュストは不思議そうに首を傾げた。
「いいえ、中央が危険なようです」
「中央が?」
「ルヴィナ・ヴィルシュハーゼが中央のラドリエル隊に突入したようでして」
「ラドリエル……?」
ジュストは更に困惑した。
「彼はホスフェで一番優秀な人物と聞いているが」
「一番優秀だからって、常に勝つわけではないわけでして」
「ふむ……まあ、リムアーノに加えてヴィルシュハーゼまでやってくると大変だろうし、な」
「レファールの大将が言うには、仮に大過なければ自分が間違っていただけでそれは謝罪すれば済む。ただし」
「不安が的中した場合は取り返しがつかないことになる、ということだな」
クンファ隊が壊滅ということになれば、コルネー軍が総崩れの恐れがあり、そこから一気に南側が壊滅する恐れがある。
「……分かった。レファールの指示に従うことにしよう」
ジュストも戦況図を描けない男ではない。意図を理解した以上、引き受けざるを得なかった。
「とはいえ、どうしたらいいものか」
引き受けはしたものの、昨日と異なり、サラーヴィー隊とガーシニー隊の二部隊が相手である。ガーシニー隊の数は確かに少ない。しかし、勇猛果敢に戦う彼らを同じ条件で蹴散らすのは簡単なことではない。
「仕方ない。多少のリスクは踏み込まざるを得んか。下がるぞ。フレリン・レクロールにも伝えてくれ」
ジュストの指示でフォクゼーレ隊が後方に二百メートルほど下がった。
必然、相手側から「敵が下がったぞ、押せ!」という声が巻き起こる。
ジュストとフレリンの部隊が下がる分、サラーヴィーとガーシニーの部隊が進んでくる。
「こ、これは一体何の意味が?」
要請した流れで待機しているボーザが慌てたように尋ねる。
「下がればその分、相手を壊滅させた後の距離が短くなるだろう」
「ああ、なるほど」
「ただ、これだけでは足りないな……。何か相手を突き動かす一手が欲しい」
「そんなものがありますか?」
尋ねるボーザを、ジュストはジッと見つめる。
「おまえ、相手の前に出て行ってこう叫んでくれ。『この異端の者共め、地獄に落ちろ』と」
「……は?」
「そうすれば、相手はおまえを血祭りにあげるべく、全速前進してくるだろう」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
ボーザが途端に半泣きになる。
「私はあいつらに一度捕まったことがありますが、本当にヤバい連中なんですよ! そんなことを叫んだら、本当に八つ裂きにされてしまいます!」
すがりつくボーザに、ジュストは呆れたような溜息をついた。
「レファールの副将にしては随分と情けないことを言うものだな……。仕方ない。ここで他の者も叫ばせるから、おまえも叫べ」
半ば強制するように、他の者にも叫ばせる。
「ソセロンの異端者め、地獄に落ちろ!」
声が響くや否や、「お前達こそ地獄に落としてやる」という怒声が響き、ソセロンの陣形が横長になった。制止も聞かずに突っ込んでくる者がバラバラと見えてくる。
「意外と簡単に引っかかるものだな」
「本当ですね」
フレリンの部隊も下がっているので、ガーシニー隊の前にはジュスト側への空間も僅かに開いている。そこに勇猛な、というより無謀な面々が無理に入ろうとして、サラーヴィー軍の進路を塞ぐ形となる。
敵の部隊同士が進路を奪い合う構図になると、当然無駄な空間が生まれる。それを無視するフレリン・レクロールではない。たちまち部隊を反転させてサラーヴィー隊の前に入り込んだ無謀な者達を打ち倒していく。
「我々も反転だ!」
ジュストも反転し、再度サラーヴィー隊と衝突する。その間にいたガーシニー隊の者達は当然潰されることとなった。
これで数を減らしたガーシニー隊はさすがに維持が辛くなったようだ。程なく、転進して下がっていった。
「よし、ボーザ。フレリンにサラーヴィー隊を頼むよう伝えてきてくれ。我々は再度転進してコルネー王の保護に向かう」
「下がったと思えば、前に進んで、また下がるというのも大変ですね」
「その通りだ。数年前のフォクゼーレ軍にはこんな難しいことはとてもできないことだっただろう。お前達に何度も負けたおかげでできるようになった」
「……嫌らしい言い方ですねぇ」
ボーザは勘弁してくださいよと苦笑する。
ジュストは会心の笑みで応じて、部隊の転進を急がせた。
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