第24話 最終日を前に~連合軍~
シールヤでの戦闘は、二日目の夜を迎えていた。
両軍は当然夜襲を警戒しつつも、休息に入っている。
連合軍の指揮官達はシェラビー・カルーグの本陣前で、焼き肉と薄い酒を飲み交わしながら明日に向けての作戦を練っていた。
「南側は問題は出ておりません……。じわじわとは押せていますし、時間の問題であると考えています」
と語るのはフェザート・クリュゲールである。
「仮にメラザがサラーヴィー・フォートラントに討ち取られたとしても、そこから崩れるということはありません」
「だ、大臣……、縁起でもないことを言わないでくださいよ」
自分が負けると言われたメラザが、恨めしそうな顔をフェザートに向ける。
「北側ももう少しのところまで行けた。ソセロンの騎兵団は半分近くまで減ったのではないかと思う」
レファールが回答するより先に、ジュストが答えた。
「中央は崩れはしないが、有利にもっていくのは難しいかもしれんな。リムアーノは本当にしぶといやつだ」
フィンブリアが忌々しそうに言い、ラドリエルが無言で頷いている。
シェラビーは報告を受けて、満足げに頷いている。
「今のところ、いい方向に進んでいるが油断は禁物だ。明日も気を引き締めてかかってもらいたい」
「そうですね」
レファールが後を継ぐ。
「こちらがうまく行っているということは、相手にとってはうまく行っていないということです。向こうもフェルディスやシェローナの勇将が集まっている軍ですから、このまま終わるということはないでしょう。明日以降、何かしらの変化をつけてくるかもしれません」
レファールの言葉に一同が頷いた。
「変化というと」
と、レファールの言葉を受け、別のところから声が上がった。
「明日は、私の部隊がもう少し前に出たいと思う」
クンファ・コルネートであった。唐突なクンファの発言に一同の視線が集中する。
「明日も戦線が激しくなってくると、乱れが生じることがあるだろうと思う。今日は迂闊にも気づかなかったために、シェラビー・カルーグ枢機卿に動いてもらうことになったが、明日は私の部隊がフォローしたい」
「陛下……」
「いかがであろうか?」
クンファがシェラビーに問いただす。
「もちろん、反対する理由はありません。陛下が南側をカバーしていただけるのであれば、私は北側をフォローするつもりでおりましょう」
「そうですね。本日の北側も、もう一押しがあれば崩壊させることができたと思います」
レファールが今日の戦線の様子を振り返りながら話す。昼間の戦いでルヴィナの部隊は北側にいなすような形で動いていた。北に動くということは、すなわち、南側のペルシュワカやバラーフと距離が開くということである。今日はマフディルとスメドアの二人が、向かい合っていたが、仮にここにシェラビーの部隊が加われば、崩壊を来すはずである。
(そうなれば、敵本陣も一気に狙える)
と思ったところで、レファールは敵本陣に思いを馳せた。
(マハティーラ・ファールフはどうしようもない奴ではあるが、本陣にはブローブ・リザーニもいるという話だ。明日はさすがに動いてくるかもしれない)
敵の本陣にも二万近い兵がいる。それらが全く戦闘に参加しないまま終わるということはさすがにないであろう。
(北に来るか、南に来るかは分からないが、とはいえ、こちらもクンファ陛下とシェラビー様が前に出てくるわけだし、決定的に数で劣る展開はないだろう)
考え出すと不安の種は尽きない。
しかし、視界の先にはしっかりと道が開けていた。
大体の方針が固まり、新しい議題は出なくなる。
その間、一同は自然と食事に集中することになる。自分も食事に集中しようと思ったところ、近くにいるフェザートとムーノの会話が聞こえてきた。
「海軍大臣殿、陛下がきちんと判断できますかな?」
「……それは大丈夫であろう。陛下も子供ではない。臨機応変や突然の判断は難しいと思うが、戦線のフォローなら大丈夫であろう」
クンファのことを話題にしているようだ。辺りを見ると、そのクンファはいない。休憩しているのか、あるいは戻ったのであろうか。
「大体、心配するほど貴殿はしっかりやっていたのか? どう思う? レファール? スメドア殿」
「えっ、何で私に聞くんですか?」
いきなり話を振られて、レファールは戸惑うし、スメドアは「何で自分が巻き込まれるんだ」という顔をしている。
「サンウマでの戦いの折は、陸軍大臣の相手側にいただろう? 敵から見て、コルネー軍はどうだった?」
「は、はぁ……」
これは非常に回答しづらい。
本音を言えば、「あまり大したことはなかったように思います」であるが、さすがにムーノ本人を前にそんな失礼なことを言うわけにはいかないだろう。スメドアも同じで「おまえが答えろよ」と促すように顎を何度も動かしている。
(いや、まさかこんな大切な時に喧嘩になりかねないことは言えないだろ)
と迷っていると、フェザートが助け船を出してくれた。
「それと比較して、現在のクンファ陛下はどう思う? 陸軍大臣ムーノより劣ると言えるだろうか?」
「あ、いや、そういうことはないと思います」
これは答えやすい質問であった。
どちらも互角という回答ならば、どちらも怒ることはない。年上のムーノからしてみれば多少の不満はあるかもしれないが、国王クンファと並べられて「自分が上だ」という文句を言うことはできない。
「そうだろう? おまえだって最低限のことはできていたのだ。陛下もそこは問題ないはずだ」
少し酔いが回っているのか、いつもは格上風を聞かせることがないフェザートがムーノに対して上から語っている。ただ、ムーノもそれを受け入れているようで特に反論はしない。
「エルシスだってついている。陛下は確かに多少気弱なところはあるが、アダワル王のように無謀なわけではない。きちんとやってくれるさ」
「そうですね。確かに……」
ムーノも納得し、「では、前祝いと行きますか」と酒に手を伸ばそうとした。
「調子に乗るな! まだ早いわ!」
フェザートがムーノの頭を小突いた。
周りから笑い声があがり、ムーノも頭を押さえながら笑っている。
(いい雰囲気だ。これなら、きっと……)
相手も何かしらやってくるだろう。しかし、最終的には乗り越えられるはず。
一つになった空気を感じながら、レファールは自信が湧いてくるのを感じていた。
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