第13話 集結

 同じ頃、ナイヴァルを盟主とする連合軍も着々と集結していた。


 5月末にはフォクゼーレからジュスト・ヴァンランが、ほぼ同じくしてイルーゼンからフレリン・レクロールが。


 6月頭、クンファ・コルネートとフェザート・クリュゲール、ムーノ・アークらが率いるコルネー軍もサンウマへと到着した。


 同じ頃、既にオトゥケンイェルには執政官ナスホルン・ガイツを指揮官とするホスフェ軍2万5千も集結しているという情報が届く。


「ほー、これは凄いですねぇ」


 中立の立場として参戦するノルンも軍勢の数を見て感嘆の声をあげる。


「いや~、これだけの数を集めるというのは凄いものです」


「それでも勝てると保証されたわけではないけれど、な」


 レファールの言葉に、ノルンも頷いた。


「確かに、こちらの陣容はバランスには取れていますが、ルヴィナ・ヴィルシュハーゼにレビェーデ・ジェーナス、サラーヴィー・フォートラントのような存在はいないようですね。あの三人は油断していると一発で打ち崩してくるでしょう」


「そうだな。特にヴィルシュハーゼ隊は部隊のみで言うならミベルサ最強といっていい」


「何か方法はありますか?」


「ないわけではない。ただ、実際の布陣なども見てみないと何とも言えない」


「逆に作戦指揮官は有利じゃないですか? あの三人はあらかじめ立てられた作戦の中で輝くタイプです。自分達がデザインして戦うということは不得手ではないでしょうか。おそらくフェルディス側の立案は私も知っている大将軍のブローブ・リザーニがやるのでしょうけれど、あの人は堅実ですけれど、パッとしない感じはあります」


「そうだといいのだけれどね」


「……さて、これ以上話すと不公平になるかもしれませんので、ここから先は口を閉じることとしましょう」


 ノルンはそういうと、既に用意したらしい馬車を持ち出してきた。


「ひとまず、先にホスフェ中部付近に移動していますよ。決戦場はそのあたりになるのでしょうから」


「ああ、まず間違いなく、ね」


「それでは、ごきげんよう」


 ノルンは上機嫌な様子で馬車に乗り込み、そのまま出発していった。中に女がいるのかも、と思ったものの、レファールはそれ以上のことは気にしないことにした。



 カルーグ邸に戻ると、クンファとフェザートの姿があった。


「おお、レファール」


「海軍大臣、どうかしましたか?」


「ああ、戦場の確認をと思って、ね」


「それはちょうど良かった。私もその点を確認しておこうと思っておりました」


 フェザートは戦闘力はともかくとして、その判断力や知恵は信用できる。彼も承認のうえで決めたとなれば、他の誰も文句は言わないだろう。レファールは二人とともにシェラビーの部屋を訪れた。


「枢機卿猊下、戦場を決めていただきたく参りました」


 フェザートはすぐに切り出した。その話ぶりを見て、以前、ヨン・パオでビルライフ相手に想定外の話を連発して冷や冷やしたことを思い出す。


(ビルライフと違って、人格に問題があるわけではないから、立腹しかねないことは言わないと思うが……)


 そう言い聞かせるものの、どこか不安である。


「戦場か。確か、以前はシールヤ平原のどこかだろうという話だったが……」


「ただ、その時と比較するとホスフェの状況が決定的に変わっています」


 シールヤ平原が候補地に挙がっていた頃、オトゥケンイェルはフェルディスにつくと思われていた。しかし、今、ホスフェは全土をあげてナイヴァルについている。


「オトゥケンイェルの者としては、できれば東側で戦ってほしいというのはあるでしょう」


「ただ、オトゥケンイェル東部では以前の戦いでヴィルシュハーゼが大活躍したと聞いている」


「そこなんですよね」


 レファールもそれは気になっていた。


 フィンブリア・ラングロークをして「やられた側のミスもさることながら、やった側が凄すぎる」と言わしめた動き。


 それは部隊の練度もさることながら、オトゥケンイェル東部の地形を覚えこんでいなければ不可能なものと思えた。


(複雑な地形の場所で戦う場合、ホスフェの連中よりも、地形をうまく利用する可能性が高い)


 となると、機動力の差があるとしても、ただっ広いシールヤ平原の方が賢いようにも思えた。


(幸い兵力では勝っている。幾つかの部隊をあてて、ルヴィナとレビェーデ、サラーヴィーを塞ぐことができれば)


 そうした公算が成り立つ。


「私としては、オトゥケンイェルを一時的に占領されることがあったとしても、シールヤ平原の方がいいのではないかと思います」


「クリュゲール卿はどうでしょう?」


 シェラビーはレファールの意見を確認して頷き、すぐにフェザートに尋ねた。


(お、おぉ……クンファ王、完全無視……)


 もちろん、クンファの意見は参考程度にしかならないが、さすがにこれは国王の立つ瀬がないのではないか。


 レファールはそう思って、クンファを見たが、どうにもそうしたプライドというものはないようで、完全にフェザートに任せきっているような様子である。


(うーん、総主教が見たら、激怒するだろうなぁ)


 そう思いつつ、考えているフェザートに視線を移した。


「私もシールヤ平原の方が良いのではないか思います。レファールのような戦術的な部分については知識が万全ではないので分かりませんが、戦略という観点から行きますと、少しでも西側にした方がフェルディス軍の補給線が伸びることになります。さりとて、オトゥケンイェルは今や敵地、もし入ったりすると反発的な動きがあり、フェルディス軍の空気が悪くなることでしょう。戦場において、部隊の空気や雰囲気というものも大切になってきます」


「なるほど……。クンファ陛下はどうだろう?」


「フェザートの意見と同じだ。特に追加することはない」


「それでは、全員の意見が一致ということで、フォクゼーレのヴァンラン将軍、イルーゼンのレクロール将軍にも伝えていただくということにしましょう」


「承知しました」


 ジュストとフレリンとの連絡役はレファールの役目である。頷いて、すぐに報告する準備を整える。


 不意に震えが来た。


(いよいよ、決戦か……)


 場所も決まり、相手の様子も見えてきた。幾つもの案や相手の動きが頭の中に浮かんでくる。


 考えていると報告を作る手が止まってしまいそうになる。ボーザを呼んで、二人への報告を任せることにした。

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