第8話 コルネーへの誘い②
バシアンでフェルディス潜入について話し合うと、レファールはすぐにコルネーに向かった。
仲間を募るというわけではない。ミーシャに対する挨拶と、今後しばらく不在になる旨の連絡である。
王宮の客間に案内され、待つこと数分でミーシャが現れた。総主教時代にはユマド神を象った帽子をかぶっていたが、今はそうしたものはない。ただ、ヒラヒラするドレスなどは性に合わないのだろう、軍服を着ていた。
「ご婚姻、おめでとうございます」
「どうも……。まさか貴方より先に結婚することになるとは思わなかったわ。その後はどうなの?」
ミーシャの問いかけに、レファールは苦笑する。
「探す時間がありませんので。それはさておき、今回はご報告に参りました。しばらくナイヴァルを不在にいたしますので何かしら連絡などがありましたら、今、お預かりするか、セウレラの爺さんに伝えていただければと」
「忙しいのねぇ。今度はどこに行くわけ?」
「はい。フェルディスに」
「フェルディス? 何をしに行くわけ?」
けげんな顔のミーシャに、レビェーデとサラーヴィーと共に向かう旨を伝える。
「……おはよう」
と、そこにクンファが入ってきた。レファールは一旦話を中断し、「おはようございます」と挨拶して、どうしたものかと二人を見る。
「あ、私に構わず続けてくれ」
クンファが鷹揚に答える。余裕ある態度というよりは、単に眠たいだけのようである。微かに酒の臭いも漂っていた。
レファールは全て説明し終えて、ミーシャの反応を見た。呆れたように座り直している。
「血の報復ってわけね。まあ、レビェーデとサラーヴィーに恩を売っておきたいという理由は分かるけれども……」
「それにディンギア北部へのフェルディスへの影響力も削いでおきたいということもある」
「まあ、あたしがどうこう言う話じゃないわね。陛下は……、うん?」
クンファを見るミーシャの視線が険しくなる。彼は、両手を握りしめてブルブルと震えていた。
「素晴らしい!」
「……はっ?」
「友情、戦闘、復讐! 何と心が躍る話なんだ!」
「あの、陛下……?」
恐る恐る尋ねるミーシャに、クンファはすっかり酔いが醒めたのか、あるいは更に酔っぱらってしまったのか分からない様子ですっくと立ちあがり、高らかに叫ぶ。
「私もついて行こう!」
一瞬の沈黙。
次いで、二人が揃って「ダメです!」と叫ぶ。
「陛下、ワー・シプラスの戦いで前王のアダワルがどうなったのかお忘れですか?」
レファールは呆れたように問いかける。もっとも、彼の頭の中を占めていたのは「コルネー王に万一のことがあったらどうしよう」という怖れではなく、「こいつがアダワル同様に足を引っ張るのではないか」という怖れであるが。
「むっ……。ただ、このような話に絡めないのはコルネーとして勿体ない」
「何が勿体ないんですか? 寝言は寝てから言ってください」
ミーシャが容赦ない言葉を浴びせるが、ここではクンファはへこたれない。
「いや、ナイヴァル、シェローナに恩を売るチャンスではないか? 私が行くことが無理だとしても、誰か派遣する必要はあると感じる」
「……陛下、彼らに匹敵する面々というのがどれだけいると思っているのですか?」
「あいつがいただろう? この前、サラーヴィーと一戦交えていた男が。レファール、メラザを連れていくがいい」
「いいんですか?」
確かに、あの男なら。サラーヴィーとの模擬戦のことを思い出し、レファールも納得はする。とはいえ、戦力を貸してくれることを期待していなかったので本当にいいのかという思いもある。
「遊びに行くわけではないので、万一のこともありうるかもしれないわけですが」
「分かっている」
「……し、承知いたしました。フェザート大臣に確認して、問題ないなら連れていきます」
レファールはそう答えると、抜け出すように外へと出た。
出る間際、クンファが「私の指示に、どうしてフェザートの了解が必要なのだ」と愚痴をこぼしたが、すぐに「何を考えているんですか!?」というミーシャの怒号にかき消された。
レファールは海軍大臣の事務所に足を運んだところ、入口の警備役だろうか、当のメラザが立っていた。
「これはレファールさん、久しぶりです。何かありましたか?」
「いや、ちょっと、変なことになってきたので……。大臣はいるか?」
「おりますよ。案内します」
メラザの案内を受けて、フェザートの部屋に入った。挨拶もそこそこに国王とのやりとりを説明する。
フェザートは「参ったな」という顔をし、しばらく視線を宙に泳がせた。
「……まあ、フォクゼーレが今すぐに動くということはないか。陛下が直々に言ったのであれば仕方がない」
「おお!? 畏まりました! すぐに向かいます!」
メラザは飛び上がらんばかりに喜ぶ。レファールは内心、「大丈夫かな」と思ったが、個人としては自分以上であることも理解している。受け入れる以外の選択肢はなかった。
「ああ、そういえばもう一つあった」
フェザートが何か思い出したかのような声をあげる。
「お前達がこの前連れてきたフィエス・グライセフトだが」
「あ、いや、あいつは……」
連れて行っても役に立ちそうにない。足を引っ張るだけの存在になりそうである。
そう考えたのがフェザートにも伝わったのであろう。苦笑いを浮かべて「そうじゃない」と手を横に振る。
「おまえからの報告を受けて、コレアルの海軍で登録することにした。今のところ真面目に軍船を操る練習をしているということだ」
「へえ」
頼りにならないし、あまり根性がある人間という風にも見えなかったので意外である。
「今後どうなるか分からないが、モノになるようならば使ってみようとは思う」
「そうですか。私というより、サラーヴィーの勧めた奴なので、何かしら働いてくれるといいのですが」
レファールとしては、それ以上言いようがない。個人的には微妙という思いもあるが、好意的なフェザートを前に不安を言う訳にもいかず、ただ黙って聞いているだけであった。
翌日、レファールはメラザとともにコレアルを出発し、シェローナを目指す。
順調に行っていれば、レビェーデとサラーヴィーはホスフェで生き残りの面々を探し、連れてくるはずである。彼らと共にカナージュで悪徳商人を探すことになる。
目指すは、フェルディス帝国の帝都、カナージュである。
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