第6話 レファールとジュスト③
翌日の朝、レファールはジュストと再度顔を会わせる。
「今日、話をするのだろうが、その間に様子を見てきてくれるか? できれば何人くらいいるのか知りたい」
「君はどうするんだ?」
「店などを回って馬車を作るか用意する。確認したうえで今晩、救出に入る」
「了解した」
レファールは作戦に承諾をして、早速首長の建物へと向かった。見張りもさすがに顔を覚えている。
すぐに中へと通された。
「おっと……」
建物の中に入ると、すぐに広間へとつながっていた。その隅の方に数人の子供達が怯えたような視線を向けている。
(ご丁寧に広間にいるとは、な。私が何人か買っていくと思っているわけか。人数は六、七人。ちょっと多いな)
建物を見渡すと、兵士と思しき人間は見張りを入れて十人くらいであった。
(この連中なら一度に勝負しない限りは三、四人くらいなら何とかなるだろう。ジュストと護衛も同じくらいなら何とかなるか。セウレラの爺さんと学生二人は救出役だな)
作戦のめどをつけて、奥へと案内された。
「おまえがフォクゼーレから来たという使者か」
ヒパンコ族の首長はスドシーと名乗った。50前後の恰幅のいい男である。
「はい。ナイヴァルの枢機卿のレファール・セグメントと申します」
挨拶をしながら、レファールは「こいつなら相手として楽な相手だろう」と値踏みをする。
「ナイヴァルの枢機卿というのはどういう役職なのだ? フォクゼーレからは天上人なるものがよく来るが」
(天上人?)
「天上人というのは、フォクゼーレの王宮に出入りできる視覚を言うものであり、その数はフォクゼーレの帝都ヨン・パオに数千人はおりますが、枢機卿はナイヴァル全土に僅か6人でございます」
セウレラが代わりに説明をした。スドシーは「ほお」と頷く。
「で、今回、その六人しかいない枢機卿の一人が来たということはどういうことであろうか?」
「はい。貴殿らはアレウト族との間に遺恨を抱えていると聞きます。今回、ナイヴァルが資金面で援助しますので、是非アレウト族と戦端を開いていただきたく」
「資金援助か。具体的にはどのくらいになるのだ?」
値踏みするような顔をした。レファールは無言のまま、持ってきた宝石を二個取り出す。
「これで金貨10000枚くらいになると思います」
効果はてきめんのようで、スドシーの視線が宝石に注がれる。
「これは中々見事なものだな。条件としては悪くなさそうだ。ただ」
スドシーが重々しく右手を前に出す。何かを制するような動きである。
「現在、フォクゼーレもここに来ているようで、な。わしも部族を代表するものである以上、一人の意思で決めてしまうことはできないのだ。申し訳ないが、一日二日ほど返事を待ってもらえないだろうか?」
これからナイヴァルとフォクゼーレを天秤にかける。そう重々しく主張している顔を見たレファールは下を向いた。
(知っているよ)
思わず失笑が漏れて、相手にバレかねないからだ。
「……やむをえませんな。良いご返答を期待しております」
思惑を隠しつつ返事をするのも苦労をする。
「うむ。我々はフォクゼーレの都合で働かされてきた歴史をもつゆえ、できることならナイヴァルと協力したいと思っている。だが、先程も言ったが、部族の総意で決められるものであるゆえ」
「承知いたしました」
レファールは頭を下げたまま答える。そのまま笑いそうになるのをこらえているから、どうしても下を向きがちになる。
「ところで、アヒンジ枢機卿は元気か?」
「アヒンジ殿? もちろん元気ですよ」
話題が突然変わった。レファールは首を傾げながらも頷いた。
「そうか。先ほど広間でも見たと思うが、今回も元気な連中を連れてきた。もしよければそちらの方も買っていかれるがよい」
「……左様ですな。次回、お話をする際までに考えておきましょう」
「もちろん、気に入ったのがいれば、お前達が買っていっても構わんぞ」
「そうですね。それも含めて……」
レファールは明確な返事をすることなく、挨拶をすると部屋を出た。
屋敷を出ると、大きく距離をとり、建物が見えなくなるあたりでセウレラの方へ振り返る。
「……アヒンジ枢機卿のことは知っていたか?」
セウレラは左右に二回首を振った。
「初めて聞いた」
「……私も初耳だが、まあ、ありえることではあるのだろう」
比較的先進的とも思えたネイド・サーディヤが処女権などを行使していたのである。より保守的と言われている面々が奴隷を購入していたとしても不思議はないだろう。
「……この件は、この件でそのうち手を打つとして、まずはジュストとの作戦だ。夜でも見張り二人は起きているだろう。こいつらを無言で制圧できれば、寝ている連中もいるだろうから、救出はそれほど難しくなさそうだ」
「分かった。私は向こうの若者達と逃げる準備をしておこう」
「よろしく頼む」
セウレラに方針を伝えると、宿へと戻り、ジュストが戻ってくるのを待った。
昼の間、ジュストは姿を現さない。
何をしているのかと思ったら、学生二人が戻ってきて宿と別の建物の間に来るようにと言ってきた。
「さすがにこの建物で馬車を作っていれば怪しいと思われるでしょうから」
二人の学生チリッロとジウェイシーの要請に、レファールは「なるほど」と宿を出て向かっていった。
(大丈夫だとは思うが……)
ナイヴァルの人間が一人で、フォクゼーレの人間が多数いる状況である。襲撃も想定して逃げ出す方向なども考えながら、指定された場所へと向かった。
「ほう、中々立派な馬車ではないか」
馬が四頭に、大きな荷台のついた馬車であった。乗り合い馬車というよりは、荷物を大量に運べるような造りになっている。
「子供が何人いるか分からないのでな。馬車内は揺れるかもしれないが、多くの人数を運べるように作っておいた」
「壊れたりしないだろうな?」
「疑うなら、ナイヴァル側で荷台を用意して貰っても構わないぞ」
「冗談だよ。七か八人だ。この荷台なら何とかなるだろう」
「そうか」
「侵入と脱出についても粗方考えておいた。先ほど屋敷の中で警護している連中とも顔合わせしたが、正直苦戦しそうな奴はいない」
ジュストは「ほお」と驚いた。
「見ただけで分かるのか?」
「相手の力量が完全に分かるような達人ではないが、体の動かし方やちょっとした動作から多少のことは分かるだろう? 苦戦するような相手はいない」
「分かった。それなら、夜まで待とう。馬車が逃げられるとまずいので、交代で夕食をとって、夕食後に戻りこむことにしよう」
「承知した。では、我々が先に夕食をとってから戻ることにする」
レファールとセウレラは先に宿に戻り、夕食を終えると馬車のところまで戻る。
一時間ほど待機していると、食事を終えたジュスト達が戻ってきた。
「さて、行きますか」
六人は馬車を伴って首長の建物への道を進んで行った。
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