第12話 後日談①
バシアンでは、ネイド・サーディヤの葬儀が17日に開催され、問題なく終わった。
コルネー王クンファは突然のネイドの死に驚愕したものの、ミーシャから「養女縁組自体は死の寸前に成立したので大丈夫だ」と手続の書類を見せられ、安心して何も言わなくなった。
18日、まだ落ち着かない状況のところでレファールの一報が入る。
「レファールが殺人事件を起こして、村で尋問を受けている? どいつもこいつも、色々なことやりすぎなんじゃないの?」
最初に聞いた時にはそう毒づいたが、話を聞いているうちに「ああ」と頷いてくる。
(そうか。ニーゴイの口封じをしたのね……。考えてみれば、あいつの話だけ聞いて真否をはっきり確認せずに追い出したのは軽率だったか)
納得したので、バシアンで続きをするので連れてくるように指示を出し、シェラビーを呼び出した。
「レファールは数日のうちにバシアンに来るのだけれど、何故か殺人事件の嫌疑をかけられているみたいなのよ。さすがにそのままだといきなり枢機卿指名とはいかないので、無罪を確定させてからになるわね」
「……分かりました。事件で思い出しましたが、私の妻のヨハンナも近年、様々な男と付き合っているという話があります。この度、離婚を決断いたしましたので承認をいただきたく」
別の相手と付き合っているのはお互い様ではないのか、という思いもあるが、反対しても何のプラスにもならない。この件ではシェラビーの方がダメージを受けるわけであるから、むしろ認めた方が得とはいえる。
(問題は、それで多少ダメージを受けても気にしないくらいにシェラビーが強くなってしまったということよね……)
「そのような事実があるのなら、仕方ないわよね。後日正式に手続してください」
「ありがとうございます」
レファールは20日にバシアンに入った。嫌疑がかけられてはいるが、別に行動に制限を受けているわけではない。馬までもらっている。
入ったその足で、まず大聖堂へと向かい、ミーシャと面会する。
「セウレラ・カムナノッシ元大司教を連れてまいりました」
「ご苦労様。連れてくるまでに色々なことがあったけれど」
「私もそう伺っております」
「……で、今年中になるか来年になるかは分からないけど、枢機卿に指名することにしたから」
「えっ?」
全く予想していなかった言葉に目を丸くする。
「枢機卿が6人いないといけない、ということはないけれど、一人欠けた以上は新しく任命するのが無難だからね。シェラビーも貴方を推していたし、私にとっても他に適当な候補もいないしね。それとも、誰かしら候補者がいる?」
「この爺さんとかどうでしょう? 元大司教ですし、能力の裏付けもありそうです」
「おい。勝手なことを言うではない。私は高齢でそんな体力はない」
セウレラがとんでもないとばかりに手を振った。
「いや、ディンギアからフェルディス、イルーゼンまで行ってここまで戻ってきたじゃないか。大丈夫。爺さんは元気だし、おそらく私より長生きするさ」
「何を言うか。一体何歳まで生かすつもりなんだ?」
しばらく言い合いをしていると、痺れを切らしたのかミーシャが咳払いをした。
「セウレラのお爺さんは、元大司教ではあるけれど、さすがに10年も離れていたとなると任命しづらいわね」
「それ見たことか」
「威張ることじゃないだろ」
「あと、セウレラのお爺さんには相談役になってもらいたいんだけど」
ミーシャの言葉に、セウレラがギョッとなる。
「い、いや、私はディンギアに……」
「高齢で枢機卿をやる体力がないと言っていたわよね? たまに会議に出るだけの枢機卿になる体力もないのに、ディンギアに戻る体力はあるとでもいうの?」
「むむっ……」
「良かったなぁ、爺さん。総主教の相談役なんて名誉なことじゃないか」
レファールは笑いをこらえながら、肩を叩いた。
続いて、話題はニーゴイの件に移る。
「さすがに殺人罪の嫌疑がかかったままで枢機卿にするのもどうかと思うしね。どういう経緯だったの?」
「どういう経緯も何も、あの男があらぬことをペラペラ話したのでは、誰のためにもなりません。未然に防止するしかないと思った次第です」
「分かったわ。ちなみに、その話を聞いて何を思ったの?」
「何も思っていませんよ。あの男の言うことは参考以上のものにはならないですし、バシアンにもいなかった私には何も言うことはありません」
「……もちろんそれでいいのだけど、その場合、どうやって殺人を正当化するの?」
ミーシャの問いかけに、セウレラが首を傾げながら答える。
「確かにネイド枢機卿の件で、というわけにはいかないでしょうが、処女権を行使させようとしていたやら権限乱用があったということでいいのではないですか?」
「その話を出した場合、メリスフェールの立場がねぇ」
「むむっ、そうでしたな」
ネイドの側近が処女権などで権限乱用をしていたということで始末した。となると、その処女権は誰に対して行使されようとしていたのかという話になる。状況からメリスフェールが疑われるのが自然で、あらぬ疑いを招くことになる。
「殺人と発表して、ニーゴイを犯人に仕立て上げればよかったんだけれどね。今更それもできないし。正直、枢機卿の件がなければ、あたしの一存とかそういうのでも全然かまわないのだけれど」
「いや、別に殺人の嫌疑をかけられたままで枢機卿は別の方ということでも構わないのですが」
「貴方も往生際が悪いわねぇ。その件は諦めなさい」
「……はい」
「何かない?」
ミーシャがセウレラの方を向いた。
「時間がかかってもいいということであれば……」
「それは構わないわよ。今日明日ですることじゃないし」
「それなら、ネイド枢機卿が病死して、レファールに取り入ろうとした。その際に処女権の乱用などをもちかけたので怒って処刑したということにしてしまえばいいのでは? そうすれば、以前被害を受けた者が名乗り出るかもしれませんし、他の枢機卿に対する牽制にもなります」
「なるほど。他の連中がやってない保証もないからね。そうするか」
二人が話をしている間、レファールは無言であった。むしろ、殺人の疑いで枢機卿選任を延期してくれないか。そう未練がましく考えていた。
大聖堂にセウレラを置いて出ると、今度はシェラビーの滞在している屋敷へと向かった。
「お久しぶりでございます」
と挨拶をするレファールにシェラビーがニヤッと笑う。
「そのような堅苦しい挨拶は抜きにしようではないか。今後は同格の立場なのだからな、セグメント枢機卿」
レファールは「うっ!」とうめき声をあげて、「まだ決まっていませんので」と回答する。冷や汗が背中を伝わるのを感じた。
「ま、それは冗談だが、お前をセルキーセ村から引っ張ってきて三年か。もちろん期待はしていたが、予想を上回る出世ぶりだ。たいしたものだと感心している」
「ありがとうございます。全てシェラビー様の引き立てのおかげです」
「いやいや、私が引き立てたのは単なる契機。全てはおまえの力によるものだ。今後もますます頑張ってほしい」
「はい。頑張ります」
何をどう頑張ればいいのかも分からないが、問われるままに答えが口をついた。
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