第6話 シェローナの日々①

 翌日以降、レファールはラドリエルとフェザートの面会の機会をとりもったり、ネイドの要請を受けてコルネーの要人を集めたパーティーを主催したりして数日間を過ごす。


 それが終わると、南にあるウニレイバへと向かった。ここにフェザートがサンウマ・トリフタの期間中製造していた新たなるコルネー艦隊がある。


「機動性能を確認したいし、一度シェローナまで派遣してみよう」


 というフェザートの鶴の一声で、ウニレイバから艦船の一つを借りることに成功した。更にラドリエルから「ホスフェ沿岸で何かがあった場合には」と紹介状も貰うことができた。


 それを受けて、ウニレイバから東へと向かう。沿岸は東から西へと潮が流れているが、ウニレイバから更に南の沖合へと行くと、西から東へと潮が流れていて心地よい追い風を受けて進んでいく。


「予定では十八日でシェローナに着くと思います」


 乗船しているスーク号の船長ランカム・アディクトからの説明を受けながら、船の進路を見る。沖合を進んでいるため大陸は全く見えない。


「アクルクア大陸が見えるなんていうことはあるのか?」


「片道一か月かかるようなところですよ。ウニレイバからちょっと南に行ったくらいで見えるはずがありませんよ」


 とんでもないとばかりに手を振られる。


「そうすると、今回はずっと海ばかりを見ることになるのか」


 これまで沿岸航行の船にしか乗ったことがないので目新しいが、毎日同じような光景ばかりを見ていると飽きそうでもあった。


「そうですね。できることはというと、カードゲームか釣りくらいですね」


「釣りか……。イダリスに付き合ったことはあるが、自分でもやってみるかな」


 関心はないが、何もないよりはいいか。レファールは道具を借りて船の最後尾へと向かった。


 釣りやカードゲームなどをして過ごすこと十八日。


 レファールの視界に再び大地が見えてきた。


「おお、予定通りなのかな?」


 時間の経過と大地が見えてきたのは一致しているが、見えている大地が目指す場所なのかはレファールには分からない。


「夜間の航路などを見ていると問題ないはずです。湾は見えますか」


「ああ、見えている」


「あの中に入っていくとシェローナへと続いています」


「へえ……」


 船は正確に湾の中へと入っていく。程なく、右側に広い敷地が見えてきた。一部の街の他、半島の方に広く建設中の土地が広がっている。


「あれがシェローナか……」


「そうですね。湾の中の非常にいい港に建設されています」


「何でディンギアの面々は南に来なかったんだろうな?」


「恐らくですが、木材や石がなく、ここに街を作るだけの権力をもつ部族がいなかったのでしょう」


「なるほど……」


 確かに陸地は草原が延々と広がっていて木は全くといっていいほど見えない。


「川などがあるとしても、先立つものがないと街を作ることは難しいということか」


「恐らくはそういうことなのでしょうね」


 船は着々と陸地に近づいていく。港に入ったところで近くにいた者から「どこの船だ?」と声をかけられた。


「コルネーからの船だ! レビェーデ・ジェーナスか、サラーヴィー・フォートラントはいないか!? レファール・セグメントが来たと伝えてくれ!」


 レファールが叫ぶと、相手は何人かで相談をして「そこで待っていろ!」と叫んで中心部へと向かう。


「……あの高台にある小さな城みたいなものが中心、ということですかね?」


 ランカムが指さした先には確かに質素な城のようなものが見える。


「ふうむ。理想的な環境にはあるけれども、完成するまでには時間がかかりそうだ。おっと」


 その城から出てきた人物には見覚えがあった。馬で近づいてきて、「おっ」と声をあげる。


「これはレファール殿、一別以来ですな」


 ディオワール・フェルケンであった。その顔を見て、レファールはここの責任者が本来は彼の連れていた端正な少年王子であったことを思い出す。


「これはディオワール殿。殿下はお元気ですか?」


「殿下はお帰りになられました」


 寄港を認めて、船に近づきながらディオワールが言う。


「左様でございましたか」


 船から降り、ディオワールの案内を受けてシェローナの城へと向かった。


「まだまだ建設途上でありまして」


「そうですね。しかし、最終的にはかなりの街になりそうです」


「そうであればよいのですが」


「ところで、レビェーデかサラーヴィーはおりますか?」


「二人は練兵中ですな」


「練兵中……?」


「はい。北の部族を一つ吸収したので、そこの若い者を集めて部隊としています。現状、ここには私の旗下の兵士と、レビェーデの隊がおるだけですので。夕方以降には戻ってくるでしょう」


「では、その時まで待つとしましょう」


 レファールはそう答えて、ランカムにはコルネーに帰還するように頼む。


「人探しもあるのでどの程度時間がかかるか分からない。その間ずっとシェローナにいてもらうのは申し訳がないし、帰りはシェローナの船を借りることにするよ」


「分かりました」



 その夕方、レファールはディオワールと共に城の食堂で夕食を共にすることになった。城は質素であるが、運ばれてくる料理は海鮮を中心に非常に美味しそうなものが運ばれてくるし、ワインは彼らがアクルクアから持ってきたもので非常に美味であった。


 ディオワールが持ち出す話題については、ミベルサの各国についての情報であった。


「街が完成した後、できれば船を沿岸の国には派遣したいからな」


「そうですね。この港の立地はかなり良いのではないかと思います」


 そのついでにコルネーで新国王が即位したことも説明し、もし、必要であれば挨拶をとりもってもいいことを説明した。


「即位式は終わってしまいましたが、交渉をするのはいつでも構わないと思いますし」


「そうですな。ただ、自前の船団もまだ不十分ですので、しばらく後にはなりそうです」


「ああ、なるほど……」


 先程の港の風景を思い出す。漁師の船はかなりの数があったが、国の正式な船団となるようなものはまだ少ない。


「ところで先程、応接間にありました肖像画ですが……」


 先程、案内されている最中にチラッと見た、恐らく彼らの主なのであろう男女の肖像画について触れることにした。紫の髪に紺の瞳をもつ長髪の男に、赤茶色と紺色の瞳の女性のものであった。かなり丹念に描かれていたこともあり、実物に相当似せて描かれたものであろうと推測が立つ。


「ああ、あれが本国の国王陛下と王妃様です」


「……大変失礼ながら、殿下のご両親ですよね?」


 国王はまあまあの容姿であったが、王妃はあまり印象のいい見た目ではなかった。この親から、あの美少年が生まれたというのはちょっと違和感がある。


「もちろんでございます。おそらくは母親似なのでありましょう」


「……えっ?」


「ああ、まあ、この絵だと信じがたいのかもしれませんが、これは病気によるものでありましてお若い時はとてもお美しい方でしたので」


「そうだったのですか。申し訳ありません。失礼なことを聞いてしまいました」


「とんでもありません。そもそも、アクルクアで王妃様の容姿を言うものはありませぬ。何せ王妃様の最大の長所は、病気になる前からここなのでございますからな」


 ディオワールは自分のこめかみのあたりに指をあて、得意げに笑った。



航路はこんな感じです

https://kakuyomu.jp/users/kawanohate/news/16816927862491746397

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