第4話 即位式①
11月10日、レファールはコレアルへと戻ってきた。
港は通常よりも人が多い。ひょっとしたら、物見遊山でコルネーまで来ている人がいるのだろうかと辺りを見渡した時、レファールは見知った顔を見て驚いた。
「ビーリッツ殿」
声をかけると、ラドリエル・ビーリッツとそばにいるアムグンがほぼ同じタイミングで振り返り、レファールの顔を見て驚く。
「意外ですね。ホスフェから参加する人がいるなんて」
共和国のホスフェと王国のコルネーとでは政体の相違もあり仲が悪いという認識であった。フェザートですら、「ホスフェは来ないだろう」と言っていただけに驚きではある。
「私達フグィは非主流派ですし、私は以前選挙で負けた更に非主流派ですから」
ラドリエルが笑って答える。
「なるほど。敵の敵は味方的な考え方だというわけですか」
「そういうわけでもないですね。父の教えですが、仲が良かろうとも悪かろうとも付き合いだけは絶やすなというのがありましてね。仮に最悪の事態になったとしても、結局最後はどこかで話し合わなければならない以上、最初からなるべく話し合いができるカードは持っておけという考えです」
「ほう……」
「ホスフェは、それぞれの者に価値があるという考えですから、こういった王国より多角的なことができるものだと考えています」
ラドリエルが「どうだ」と言わんばかりの顔をした。その是非は分からないが、それだけの自負をもっているということは間違いないのであろう。常に帰属を警戒されている立場のレファールにしてみると、その自信は眩しく見えた。
「もしご希望ならフェザート大臣とのセッティングはしますが」
レファールが勧めると、ラドリエルは興味を向けてくる。
「そうですね。まだ5日ありますし、できればそうした時間を設けていただければ。あ、もし、レファール殿の時間があれば一緒に食事でもどうでしょうか?」
「食事ですか……」
自分の予定については全く考えていなかった。ネイド・サーディヤが一足先に来ているはずであるから、久しぶりにその意見でも聞こうと漠然と考えていたのであるが。
(中々ない機会だし、こちらを優先するのもありかもしれんな)
そう考え、レファールはラドリエルとアムグンを自分の知っているレストランへと案内するのであった。
コレアルの港近くでは、コレアル港に上がった魚を豪快に炒めるような料理屋が多くある。レファールはそうした店の中でも、比較的店が広いところを案内した。
「凝った料理も多いのですが、貴族でもない私にはこうした料理の方が合いますね」
と勧めるレファールに対して、ラドリエルとアムグンも「なるほど」というような顔で食べている。感動したような様子はないが、顔を見る限り不満もないように見えた。
食事中の話については、政治に関するようなものはない。ホスフェの食事や当たり障りのない会話がほとんどである。
そうした会話が三十分ほど続いているうちに。
「おや、レファールではないか……?」
「うん? あ、これは……」
まずい奴に出くわした。レファールはネイド・サーディヤの長身を見て思わずそう思った。
「何だ、コレアルに来ていたのなら訪ねてくれれば良かったのに」
と言うネイドの後ろには、恐らく付き添いの部下であろう、ナイヴァルの神官服を着た男が六人付き従っている。その全員と面識がない。
「いや、偶々港についた直後に彼らと会いましてね。あ、ラドリエル殿、紹介いたします。彼がネイド・サーディヤ枢機卿です」
「おお! 総主教の御父君であられますか! 私はフグィの漁業ギルドの副長を務めているラドリエル・ビーリッツと申します」
ラドリエルが挨拶をすると、ネイドも「おお」と声をあげた。
「リヒラテラの戦いの折には、我が軍と共同していただいたということでありがとうございました」
そうお礼をするネイドに、レファールは気味の悪さを感じる。
(リヒラテラに出かけていたのはレビェーデやサラーヴィーにスメドアとシェラビー様の系列ばかりだ。ネイド枢機卿にとってはライバルの盟友という感じなのに、それでもナイヴァル代表として礼を言うところはさすがだな)
「とんでもございません。あの戦いでは我々ホスフェが見苦しいところを見せてしまいまして、いずれ正式に謝罪をしなければいけないと思っているところです」
「レファール」
ネイドが声をかけてきた。
「少しだけ彼をお借りしてもよろしいかな?」
「あ、もちろんです」
「ラドリエル殿、よろしければ私の席でお話しいただけないだろうか?」
そう言って、ラドリエルを自分の席へと連れていった。
残されたレファールはアムグンと目を合わせて、肩をすくめる。
「ナイヴァルも内部では色々あるわけで、こういうことにもなる」
「分かっております」
「……確か、貴殿は占い師だと聞いていたが」
レファールの問いかけにアムグンが頷いた。
「ホスフェやらラドリエル殿のことも占ったりするのかな?」
「……」
重々しい沈黙。どうやら、実践してみたが芳しい結果ではなかったらしいことが窺える。
「いや、無理に答えてもらわなくても構わない」
「レファール殿……」
「何かな?」
「占いで出す結果というのは、一面的なものでしかありません」
「と、言われると?」
「私は以前、レビェーデにも話したことがありますが、自分は43歳で死ぬという結果を見ました」
「ああ、それは聞いたことがある」
その直前にプロクブルでの戦いがあり、そこで行方不明になり、気づけばホスフェの沖合にいたという。
(理解しづらいことではあるが……)
「私は今も生きていますから、その観点で言うならば私の占いは外れたことになります」
「ただ、プロクブルからホスフェ沿岸に移動したというのは常人ではできないし、何らかの意味で死んだとも言えるのでは?」
「そうなのです。ただ、具体的に何が起きたのかは、私にもまだ説明できない部分があるわけですが。とにかく、以前は全てのことが分かるつもりでいましたが、結局真実というものは一つではありません。占いが正しく捉えたとしても、その中の一部分しか分からないわけで、その分かった部分ですら占い師の解釈や能力によって変わってくるということがあります」
「なるほどね」
「そのうえで、ホスフェの今後を見た場合ですが、二人の人物が大きく浮かびました。一人は長身でやたらと大きな帽子をかぶる精悍な人物」
「……おそらくシェラビー様だろうな」
「もう一人は、美しい金色の長髪に、緑色の目をした感情の薄い女ですね」
「……そちらは分からないな」
容姿の特徴で言うと、メリスフェールが近いと思ったが、彼女がホスフェの未来に関わることというのはあるのだろうか?
「まあ、そういうことが分かったとしても、我々が何かを変えるということもありませんし、途中経過がどうなるかも分かりませんしね」
「確かに……」
今の話を聞いてもどうしようもない。
いや、仮により詳しい結果を知ったとしても、それで自分が変わるとも思えなかった。
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