【10】破滅の刻・その2
『勇者召喚』
かつて、この大陸が初代魔王に支配されていた暗黒の時代に、恐怖に晒される人間を哀れに思った神々が初代聖女へ啓示を与え、編み出したと言われる奇跡の魔法である。
この魔法により召喚された初代勇者によって、初代魔王は討伐されたとされる。
その後、この魔法を元にした魔術が生み出され、世界各国に分配。
再び、世界に危機が迫った時の対抗手段とされた。
――だが、それも過去の話。
現在では神々の想いと勇者たちの戦いを踏みにじるかのような、酷い使われ方をされている。
「異世界勇者」と呼ばれる人間は、世界を越えた際の影響により、肉体の強化と様々なスキルに目覚める。
それ故に貴族や王族の中には異世界勇者を「簡単に手に入る兵隊」としてしか認識しないものがおり、専らを兵力として扱うのが大半だった。
当然、この国はそんな「大半」に分類される。
「勇者様! 悪しき魔王の軍勢を打倒してください‼」
「分かりました! みんな! 俺たちで世界を救うぞ‼」
「応ッ‼」
そう言って、将軍に率いられ、白銀の鎧に身を包んだ美少年たちは、意気揚々と出陣した。
一方、彼らから離れた城門付近では……
「オラッ! 異世界人ども! 魔族や反逆者どもを皆殺しにしろ‼」
「はい……」
乱暴な兵士たちに、奴隷のように粗末な服装に身を包んだ少年少女たちが、絶望にくれながら、捨て駒にされようとしていた。
召喚された勇者は二種類に分けられた。
前者のように能力に優れていたり、従順な態度をとる者と、後者のように反抗的なものや弱い者である。
彼らは元々、同じ学校のクラスメイトだった。
しかし、召喚され「魔族と戦って欲しい」と懇願された際、将軍と共に行進している美少年が勝手に承諾。彼に従い、魔族と戦う羽目になった。
その後、スキルを確認する際に、まず、戦闘の役に立たなそうな者たちが、姿を消した。
次に、訓練についていけなくなった者、最後に王国のやり方に不信感を持った者が徐々に姿を消していった。
そして、おかしいと思った時には、彼らは奴隷に落とされていた。
“隷属の首輪”と言うアイテムを無理やりつけられ、戦闘奴隷として捨て駒にされたのだ。
中には逃げ出す者もいたが、そのほとんどは、失敗し命を落とした。
一方で、最初から王国に友好的な連中や、好戦的な者はみな、相応の待遇で迎えられ、国の英雄として、称えられている。
中には犯罪に手を染めている輩もいるが、王国には逆らわないので、半ば野放し状態になっていた。
「くそ……あいつらだけ、あんな安全地帯で戦いやがって……」
「やだ……私たち、死ぬんだ……」
彼らは貴族の護衛として、中心部の警護をしている。捨て駒にされるにしても、最後だろう。
自分たちは、最前線で時間稼ぎをさせられるのだ。
その絶望感に、耐えきれず、涙を流す生徒もいた。
「みんな! 希望を捨てないで! なんとか生き延びましょう!」
唯一、リーダー格らしい少女が励ますも、焼け石に水にしかならない。
彼女は元々、勝ち組だったが、リーダー格の少年のあまりにも人心を無視した態度や、傲慢な言動に反発した結果、ここに落とされた。
以来、彼らを励ましながらなんとかやってこられたが……
(もう、みんな限界……このままじゃ全滅しちゃう……)
こんなことになるなら、先に脱走したみんなと一緒についていけば良かった。
後悔しながらも、少女は覚悟を決めた。
(せめて多く、みんなが生き残れるように、私が頑張らないと……‼)
彼女のスキルは【剣聖】
戦闘では巧みな剣さばきを繰り出すことができる。
少女が悲壮な覚悟を決めたその時、魔族の軍勢――すでに事実を知っている彼女からしたら「革命軍」たちがこちらに突進してきた。
「みんな! 戦闘準備を急いで‼」
剣を構え、先頭に立つ少女。
他の生徒たちも兵隊たちに槍を突きつけられ、無理やり押し出された。
その時、一陣の風が通り過ぎた。
「え?」
思わず、呆気に取られる中、カシャンと何かが外れ、地面に落ちる。
それが隷属の首輪と気づいた時、背後では兵隊たちの叫び声が聞こえた。
「ぎゃあああああああああ!?」
「うわあああああああああ!?」
「な、なんだこいつ……!? ぎゃああああああ‼」
「な、なにが起こってるの……?」
見ればみんな、同じように突如、首輪が外れ戸惑っていた。
そして、凄まじい勢いで移動する“なにか”により、吹き飛ばされていく兵士たち。
兵士が全滅した頃、“それ”は立ち止まり、正体を現した。
「ゆっくん‼」
「いや、本当になんなの!?」
現れたのは牛だかロバだか分からない、緑色の着ぐるみを着た不審人物であった。
どうやら、彼が隷属の首輪を外してくれたらしい。
「説明しよう!」
「今度は誰!?」
ようやく事態を呑み込めたのに、さらに場を混乱させるかの如く、今度はライオンの着ぐるみが姿を現した。
「彼の名はゆっくん‼ 勇者ランド改めゆっくんランドのマスコットキャラクターだ‼ そして、私は彼の宿命のライバル・『獅子騎士』れおんはるとだ‼」
「いや、余計に意味が分かんないんだけど!?」
しかし、ツッコむ剣聖少女を意に介さず、れおんはるとはゆっくんと協力しながら、王国軍と戦い始める。
「あー……そりゃ混乱するわね、普通は」
「あ、あなたは!?」
さらにひょっこり現れた魔術師らしき女性に剣を向ける少女。
対して彼女は戦う気はないと、両手を上げる。
「私たちは革命軍の協力者よ。あなたたちのことは、黒木って奴から聞かされてるわ。できれば助けてほしいって」
「黒木くんから!?」
なんのスキルも授からなかったことから、王国から追放されたクラスメイトの名前を出され、驚く少女たち。
さらに話を聞くと、革命軍は自分たちを保護してくれるようだ。
「今まで大変だったわね。でも、もう大丈夫よ。私が安全なところまで案内するわ」
「ほ、本当ですか!?」
「やった! 俺たち、自由になれるんだ‼」
今までの不遇な扱いから解放されると聞いて喜ぶ一同。
中には安堵のあまり、涙を流す者もいた。
「ま、待て! 異世界人ども‼」
「おい! 異世界人どもが逃げようとしているぞ‼」
しかし、王国軍が黙って見過ごすはずもなく、逃亡を阻止しようと、剣を片手に群がってきた。
「くっ! 戦うしか……」
「安心しなさい。私たちの仲間は他にもいるんだから」
剣を構える少女を引き留め、魔術師は不敵に笑う。
そして、その言葉通り、二つの影が彼女たちの前に現れ、王国兵をなぎ倒した。
勇者と武闘家である。
「うわああああああ!?」
「この程度か! 王国軍‼」
「お前らのような外道を見ると、血が煮えたぎるぞ‼」
「遅いぞ、お前たち‼」
「すまん姫騎士! 仮眠を取ったら寝坊した!」
「姫騎士じゃない! 獅子騎士・れおんはるとだ! 中に人など入ってない‼」
「まったくだ。勇者よ、そこは触れないのがマナーなんだぞ」
「ほらほら、アンタたち、口を動かす前に手を動かしなさい。私はこの子たちを安全なところまで避難させるから」
軽口を叩きながら、兵士たちをなぎ倒す一党。
一人一人の実力が高く、とてもじゃないが、異世界人たちを捕えるなど、不可能に近かった。
特にゆるキャラ二人が反則的だ。
高価な魔法の剣で斬りつければ……
「死ねぇ!」
(ポキッ!)
「うそぉーん‼」
着ぐるみにあるまじき強度で、逆に圧し折れてしまった。
さらに、ゆっくんは空手・キックボクシング・ムエタイ・カポエラ・マーシャルアーツなど、盗賊人生で鍛えられた身のこなしと、数多のイベントで培われた様々な武術で、王国兵たちを圧倒する。
「さすがゆっくん! 私のライバルだ!」
そんなゆっくんの隣で、活躍を応援するれおんはると。
「いや、お前もなんかしろよ!」
「姫騎士……じゃなくて、れおんはるとは基本、ゆっくんのアクションを隣でうんうん頷きながら、眺める係だから」
所謂、某緑と赤のコンビの関係である。
「くそ! このままでは……こうなったらやむを得ない! 魔術師部隊! 異世界人ごと奴らを焼き払え‼」
「は、はい‼」
奴隷を逃がすくらいなら、いっそのこと殺してやろうと兵士長が魔術師部隊に指示を出す。
彼らは王国のエリート部隊だ。魔術の腕に関しては右に出るものはいない。
全員がそれぞれ、得意な魔術の詠唱を行い、合図とともに掃射する。
「討てぇぇぇぇぇ‼」
巨大な炎の塊、絶対零度の猛吹雪、竜巻、岩石流が放たれた。
しかし、魔術や勇者たちは微動だにしなかった。
「武闘家、頼んだわよ」
「応!」
一斉に放たれた魔術の前に立ちふさがる武闘家。
彼は「こぉぉぉぉぉ……」と息吹を吐くと、己の中の氣を静かに練りあげる。
そして――
「いくぞ! 聖なるバリア! 大・胸・筋ッ‼」
練り上げた氣を一気に放出!
大胸筋を始めとした、己の筋肉すべてに氣を漲らせ、数々の魔術を真っ向から受け止める。
「うおおおおおおおおおおお‼」
凄まじいほどの闘気の奔流と筋肉により、せき止められる魔術。
それだけに留まらず、武闘家はトドメとばかりに、ポージング。
「破ぁッ‼」
同時にすべての衣服がはじけ飛んだ。当然、パンツも破れ散った。
「きゃあああああ! なにやってんですか! あの人‼」
「ここが戦場じゃなかったら捕まってたわね」
※戦場でも捕まります。
全裸になり、包み隠さずさらけ出す武闘家。
同時に、全ての魔術は跳ね返され、逆に王国軍を蹂躙しはじめる。
「うわあああああ! 俺の魔術がぁぁぁぁぁ‼」
「た、助けてくれぇぇぇぇぇ!」
「ぐああああああ! 熱いいいいいい‼」
まさに地獄絵図。二つの意味で地獄絵図。
生まれたままの姿になった武闘家は、股間の【アレ】をプラプラさせながら、不敵に笑うのであった。
「これが、筋肉の……そして絆の力だ」
「パンツ履けよ」
一方、救出された隷属組の異世界人とは異なり、従属を選んだ異世界人はと言えば……
「うわぁぁぁぁぁ!」
「ば、化け物だぁぁぁぁぁ‼」
……こっちはこっちで大変な目に合っていた。
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