【9】破滅の刻・その1
最早、ザマーサレル王国は風前の灯火であった。
おそらく、いや、確実に後世にて「稀代の暗君」と名を連ねることになるだろう現国王は、頭を抱えてつぶやく。
「どうしてこうなった……?」と。
切欠は王子の婚約破棄であった。
男爵令嬢に懸想した不肖の息子が、本来の婚約者であるアーリアル公爵令嬢と婚約破棄を行った。
なんでも、本人の言い分としては「身分を盾に男爵令嬢に嫌がらせを行った」らしい。
証拠はなかったけど。
しかし、可愛い息子がそう言うのだ。きっと、向こうに非があるのだろう。いや、ある。
そう思って、承諾。公爵家は猛抗議してきたけど、そこは権力で黙らせた。
その後、今度は「今の平民の神子を追放しよう! あんな平民よりも、自分の婚約者の方が神子に相応しい」とか言い出した。
それには流石にストップをかけた。
だって、神子だよ? この国が攻められないようにするための防波堤だよ?
それを追放したらかなりヤバいじゃん。
まず、この国は最近、いろんな国の怒りを買ってる。バーゲンセールかってくらい買ってる。
特に十数年前に滅ぼした帝国とか、亜人の国々とかいろいろ。
他の国とも軋轢が生まれているし「そこはちょっと待とうよ」と最初は説得した。
だが、この国の聖天教の枢機卿数名が「男爵令嬢の素質は現在の神子以上!」とか言ってきたので「それならまぁ、大丈夫か……」と考え直した。
結果、騙された。
「この馬鹿息子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」
声帯が切れんばかりのシャウトが王宮に木霊する。
事実はまったく違っていた。
男爵令嬢に神子の力などなかった。一ミリもなかった。
全ては名声を欲しがった男爵令嬢と、教皇を陥れ、次期教皇の座に就こうとする枢機卿連中の嘘だった。
気づいた時には時既に遅し。神子は追放。教皇出奔。教会はツートップ不在でガタガタになった。
そして、あっちこっちのダンジョンは活発化。さらにが魔王軍が攻めてきた。
「やべぇ! 超ヤベェ!」
急いで王都の防衛を固めようと、王国の貴族に命じて騎士団を収集。
民はいくら犠牲になってもいい。王家さえ守れれば、それでいい!
ちなみに枢機卿たちはいち早く逃げ出した。が、途中で魔物の氾濫に会い、全滅したらしい。
ざまぁ。
だが、それでは不十分なので冒険者ギルドに「魔王討伐」の依頼を出した。
最近有名になってきた「邪竜殺しのアレックス」を始めとする冒険者たちを勇者として任命し、国力を回復するまでの防波堤にする。あわよくば魔王も倒せたらそれでよい。
ちなみに、アレックスと対面し「なんか、昔勇者に滅ぼさせた国の王子に似てるな~」と思いつつも、彼に魔王の中でも最も力を持つ“漆黒の魔王”の討伐を依頼。
他の自称勇者にも同じように魔王討伐に向かわせた。
当然、それ相応の特権も与えた。
ダメ押しに異世界からも勇者を召喚し、国家の防衛に充てる。
所詮は異世界人。いくらでも変わりはいる。
こうして、軍事力を回復できたと思った矢先……
反乱が起きました☆
「なんでじゃああああああああ!?」
「ち、父上~どうしましょ~!?」
「『どうしましょう!?』じゃあるかぁぁぁぁぁ‼ 本当にどうすんじゃああああああ‼」
声帯どころか脳の血管がキレそうになる国王の叫びが王国中に響いた。
しかし、そんな叫びは各地で起こる革命軍の雄叫びに容易くかき消された。
「国王を倒せ‼」
「王子と婚約者の暴虐を許すな‼」
「異世界人や勇者たちの蛮行を黙認する王家に鉄槌を‼」
そんな言葉があっちこっちから、飛び交うのが今のザマーサレル王国だった。
国王の打った手は全て、裏目に出た。
まず、民を見捨て、騎士団を徴兵させ、王都の護りを固めるといった案。
これがいけなかった。
騎士団を呼び寄せる間、各地で初代神子を名乗る存在が、なんの力もない平民たちに力を与え始めたのだ。
本来なら異世界勇者にしか与えられない筈の【チート能力】
それに目覚めた民は自力で困難に立ち向かい、見事、危機を脱した。自力で。
さらに一部の騎士団――国を守るよりも民を守ることを優先した騎士たちにも同じ力に目覚めた者が多数現れた。
そんな彼らが王都に来てくれれば守りは鉄壁となるだろう。
そう思ったが、彼らは――
「王都への帰還ですね? 分かりました、とりあえず魔獣を殲滅したら行きます」
「分かりました。魔王を倒し次第、すぐに戻ります」
「古の邪神を討伐した後に帰ります」
「世界中の有機生命体を滅ぼそうとする古代兵器を破壊したらすぐに」
……等など、とんちめいた返答をして、まったく帰還しなかった。
まぁ、世界規模にヤバそうなことが片付いたので怒るに怒れなかったけど。
それで「めでたし、めでたし」ならどんなに良かっただろうか?
しかし、ここで更なる危機が訪れる。
勇者アレックスの叛乱である。
実はアレックスは過去に、勇者を使って滅ぼした帝国の王族の生き残りだったのだ。当然、王国に恨みを持っている。
さらに、彼の傍らには“聖女”としての力に目覚めたアーリアル家の元公爵令嬢の姿があった。
聞くところによれば、彼女は聖女に選ばれたものの、嫉妬に狂った男爵令嬢により刺客を送られ、危うく殺されかけたらしい。
それにより、公爵家の怒りは遂に爆発。
あっという間に人心を掌握し、革命軍を立ち上げてしまった。
それどころか、外交官としての辣腕を振るい周辺国家は元より、王国の滅ぼした国々の残党、果ては敵対しているはずの“漆黒の魔王”とまで同盟を結んでしまったのだ。
さらに王国は別な問題にも悩まされていた。
実は件の男爵令嬢の実家は、裏で異大陸との貿易を独占していたのだ。
だが、そのほとんどが、表に出せない非合法なものだった。
奴隷に麻薬、外来種の魔物。それらは王国に害を与え始めたのだ。
病気をもった奴隷により、疫病が蔓延。
麻薬は社交界にも蔓延り国力を落とし、外来種により、あちこちで被害が巻き起こった。
そして、トドメの勇者や異世界人たちの暴走。
勇者と言っても、アレックスのような高潔なものだけではなかった。
元より冒険者はあらくれ者にならず者が大部分。
召喚勇者も十代の未熟な若者たちが多かった。
そんな連中を甘やかし、優遇すれば、図に乗るのは明らかで結果、治安は乱れた。
窃盗・略奪・強姦・殺戮……
おおよそ、ドン引きの事態をあちらこちらで引き起こし始めた。
これにより、火に油は注がれ、革命の灯は一気に燃え上がった。
この様な事態が重なり、ザマーサレル王国はその歴史に幕を下ろそうとしていたのであった。
「おのれぇぇぇぇぇ‼ 革命軍めぇぇぇぇぇ‼」
「元を正せば貴様の所為じゃろうがああああ‼」
このやり取りももう、数十回目である。
溺愛してきた王子も、男爵令嬢を娶ってからは、浪費を重ね、遂には麻薬に手を出したところを見てしまってから、単なる悩みの種に変わってしまった。
自分の非も認めず、革命軍に憎しみを募らせる。それだけの不良債権に成り下がった。
「くそっ! このままでは終われん! 儂はこの大陸を統一した偉大なる王として歴史に名を遺すんじゃ!」
野心に燃える国王。そんな彼の元に更なる凶報が。
「申し訳ありません‼ 国王陛下‼ 反乱軍が王都まで来ました‼」
「」
……最早、言葉もなかった。
「いくぞ! みんな! 俺たちの手で大陸の自由を取り戻すんだ‼」
「全ては新たな時代を切り開くため‼ 我らに続け‼」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼」」」」」
王都目掛けて進撃する革命軍。
彼らを先導するのは『邪竜殺しの勇者』アレックス・グランアステリア。
そして、『漆黒の魔王』ホワイト・ディアボロス。
二人の将に率いられ、数多くの戦士たちが続く。
みんな、所属も種族も出身もバラバラだ。
魔族もいれば、エルフ族・ドワーフ族もいる。
冒険者もいれば、民間からの義勇兵、王国を見限った兵士や騎士もいる。
この国で生まれ育った者もいれば、他国の王家からの命令を受け、支援兵として参戦した者もいる。
新天地で一旗揚げようとするものや、安住の地を求めて大陸から移住してきた者もいる。
だが、彼らの心は一つだった。
「王国討つべし‼」
最早、ザマーサレルはこの大陸に住む者にとって倒すべき敵でしかなかった。
「じょ、門を閉めろぉぉぉぉぉ‼」
「奴らを王都に入れるなぁぁぁぁぁ‼」
王国の兵たちは革命軍を王都に入れさせまいと必死の抵抗をする。
しかし、悲しいかな。
王国軍に残っているのは、勝ち馬に乗り損ねた者や、むしろ王国が腐っていた方がうまい汁を啜れると思っていたゴロツキや悪徳貴族の関係者。
そして、勇者を自称する無法者と、今まで温室で育てられた異世界人だけだった。
当然、士気も地力も違い過ぎる上に、彼らには初代神子からの加護があった。
「アレックス殿! ここは我々が切り開く‼ 行くぞ! 町超! 村超‼」
「「応ッ‼」」
矢や銃弾、魔術の雨を掻い潜り、門の前に躍り出たのは三人の超越せし長、市超・町超・村超であった。
「いくぞ! 秘術“血意気(ちいき)活性喝‼”」
「「ぬおおおおおおおおおおおお‼」」
市超は二人の肩を掴むと、溢れんばかりの己のエナジーを注ぎ込む。
地元愛を注ぎ込まれ、二人の長の奥義が炸裂する!
「喰らえ! 奥義“魔血王虎姿(まちおこし)”!」
「ぎゃあああああああああああああああああ‼」
町超が拳を地面に叩き込んだ瞬間、大地は膨れ上がり、爆発!
数多の岩石が流星群のように降り注ぎ、結果、門は破壊された。
「お、おのれ! 化け物め‼」
「ここは通さないぞ‼」
王国側の兵士たちが、肉の壁となり立ちふさがるも――
「今度はオラの番だ! 必殺“武羅殴誇死(むらおこし)”‼」
村超の放った凄まじい闘気が神輿やご当地グルメ、ゆるキャラ・萌えキャラを模した姿と化し、凄まじい旋風と共に兵士たちを吹き飛ばした‼
「「「「「ぎゃあああああああああああああああああ‼」」」」」
三人の長のオーバーキルとしか言えない猛攻に、城門は容易く突破される。
「へっ、流石村超だぜ‼」
「みなさん、ここは私たちに任せて、王宮へ‼」
「俺たちの力を味わわせてやるぜ‼」
「ここは僕たちの戦場だよ‼」
「僕の計算通りですね……!」
「おめぇら……頼んだぞ‼」
村の者たちに後を任せ、三人の長の率いる部隊は王宮へと向かった。
「くそぉ……‼ 飛竜部隊‼ 空から攻撃しろ‼」
「隊長! そんなことしたら、民に被害が……‼」
「構わん! 奴らを野放しにする方が問題だ‼」
城門が破られた報せを受けた、この国の将軍は、飛竜部隊を出撃させる。
彼らに上空から爆撃をさせることで、革命軍を壊滅させようとする作戦だ。
民間にも被害が出るが、王からの命令のため、逆らうことは出来ない。
「飛竜部隊出撃‼」
号令と共に大空へと飛翔する飛竜騎士。
彼らは火薬の詰まった樽を投下させようとしたその時だった。
カッキーン‼
「へぁ?」
奇妙な音がしたと思ったその瞬間、投下したばかりの樽は地面に落ちる前に爆発。
他の樽も同様に、空中にて爆破される。
「いったいなにが……?」
その原因を目撃するよりも早く、今度はこちらに向かって小さなボールが飛んできた。
「トルネード・ジャイロ‼」
飛んできたボールは高速で回転し、そのまま巨大な竜巻となって飛竜部隊を吞み込んでいく。
「う、うわぁぁぁぁぁ!?」
「に、逃げるんだぁぁぁぁぁ!?」
彼らが最後に目撃したのは、はるか遠くからこちらに向かって剛速球を投げる中年男性と、巨大なバットを構えた魔族の将軍らしい人影であった。
「飛竜部隊、殲滅完了!」
「これで空中からの脅威はなくなった!」
「ありがとう! 暗黒大将軍! そして、おっさん‼」
「流石は我が国きってのメジャーリーガーですね。では、我々も行くとしましょう‼」
『応ッ‼』
王国より離れた丘に集まっていたのは、革命軍の伏兵であった。
みんな、魔王を倒した勇者パーティーや有名な冒険者で構成させられた屈強な兵士である。
「俺のパン、とくと味わわせてやるぜ‼」
「さてと、今日はどんな花を咲かせましょうか?」
「僕の秘蔵の文房具の見せ所ですね」
「あれ? 駄菓子屋は?」
「野暮用があると言って一足先に王都に潜入していますよ?」
「みんな、俺のパンツどこいった?」
「「「「知らない」」」」
「ゆっくん!」
「武闘家、お前の兄弟子ってもしかして……」
「あぁ、あいつだ。久しぶりだな」
「どうでもいいから、貴方も服を着てください」
「ウホ‼」
「ピギィ‼」
「要件を聞こう」
「ゴー太郎、スタンバイOKです!」
『よし! アムゥロ行きます‼』
『ラキ・マヤト、出る‼』
『……俺はまた、なんてものを造ってしまったんだ!』
「やれやれ、ヘアースタイルがイマイチ決まらんのぉ」
「お、王妃様!? なぜ、ここに!?」
「武者修行をしていたらスカウトされまして」
「マジか、あの国終わったな……」
「俺、この戦いが終わったら、嫁探しに行くんだ……」
「現実逃避をするなよ、お前の嫁は村のオババだろ?」
「まったくだ」
「あらぁ、あの子、結構カワイイじゃないのぉ~。好みのタイプだわぁ~」
「ピーガガ。戦闘モード起動」
「パンダ!」
「いいのですか、王子? 貴方は自らの手で国を滅ぼすのですよ?」
『構わん……どうせ、この国はもう終わりだ。それに、奴らが王位にのさばっていたら、いつまでもエドワードを呼び戻せないだろう?』
「「「「「うん!」」」」」
『いい返事だなー』
様々な冒険者たちが自分たちの出番を待っていると、連絡役のおばちゃんの耳が異変を察知した。
おばちゃんの耳はありとあらゆる噂話を聞き逃さないのだ!
「ちょっとみんな! 大変よ‼」
おばちゃんが喋り始めた瞬間、全員が戦闘態勢に入る。
「どうやら、異世界の勇者が現れたって噂よ‼」
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