【8】魔王軍の侵略・その5
「う、討ち入りだぁぁぁぁぁ‼」
「出会え、出会ええええええ‼」
突如、魔王の部屋から出現した騎士団たちにより、魔王城は混乱の渦に叩き落された。
対する騎士団は、雑魚に構わず、ひたすらに玉座を目指す。
そして、数々の障害を跳ね除け、騎士団は魔王の下へと辿り着いた。
「魔王、覚悟ぉぉぉぉぉぉ‼」
「げぇ! もう来た‼」
そこには、ようやく心の平静を取り戻した魔王と幹部の姿が。
騎士団は作戦通り、魔王・デスキラーの相手を団長に任せ、彼の戦いの邪魔にならないように、各自幹部と戦い始める。
「行けぇ! 団長‼」
「俺たちのことは気にしないで、魔王を倒してください‼」
「お前たちッ……‼ 分かった‼ 行くぞ! 魔王、覚悟‼」
団員の覚悟を受け取り、団長はデスキラーに斬りかかる。しかし……
「ふ、ふん‼ 甘いわっ‼」
「!?」
団長の剣は弾かれてしまった。
「うわぁ!?」
「団長!」
「くっくっくっ……馬鹿め、この【闇の衣】は勇者の聖剣でしか貫くことはできんのだ」
「残念だったな」と小ばかにするように笑うデスキラー。
ちなみに斬りかかられた際、あまりの気迫にチビりかけたのは秘密である。
ともかく、どれだけ力を得ようと【闇の衣】がある限り、自身が負けることはない。
そう高を括ったデスキラーは、己の剣を抜き、団長と斬り合いを始めた。
「所詮、貴様らは単なる人間……“勇者”や“聖女”と言った規格外の存在にはなり得ないのだ!」
「たしかに、そうかもな……ッ!」
先ほどまで散々、規格外一般人に驚愕していたことを棚に上げ、魔剣を振り回し、団長をなぶるデスキラー。
一合・二合と打ち合い、その結果、団長の剣は折れてしまった。
しかし、団長はそれでも、闘志を失わなかった。
「だが、大切なものを護りたいと願う気持ちは一緒だ!」
ありふれた言葉かもしれない。力のないものの負け惜しみかもしれない。
しかし、そう言う言葉だからこそ、するりと出てきた。
自分たちの勝利を信じて待っている、城塞都市の住人達。
自分を信じて、ついてきてくれた団員達。
彼らのためにも、恥ずかしい戦いなどできない。
今、この場に勇者はいない。
そして、自分も勇者ではない。
それでも、一人の人間として戦う。
その覚悟がトリガーとなった。
「!? な、なにぃ!!」
「こ、この光は‼」
突如、団長の周囲に光が集ったかと思うと、そこには無数の剣が宙に浮いていた。
「な!? これは、我が家に代々伝わる家宝の剣“ホーリーブレイド”!?」
その中に一本を見かけ、驚愕する団長。
なぜならこの剣は、王子の十三の誕生日に「お、その剣いいな。私が使ってやろう」と無理矢理、徴収されたものだったからだ。
いや、それだけではない。
「この鋼の剣は私が、入団したばかりのころに買ったもの……壊れた筈なのに……」
民を魔物から庇って折れた筈の剣が新品同様の状態で戻ってきた。
他の剣も見覚えがある。
騎士学校に入学した時に、祖父からもらった鉄の剣。
入学する前に振り回していた練習用の剣。
修学旅行で買った木刀。
初等部学校の頃、友人と振り回していた、リコーダー・定規・帰宅途中に拾った棒……
どれも、自分が大切にしていた想い出の品だ。
「いや、おかしいの混ざってない?」
デスキラーがツッコミをいれるが、今はどうでもいい。
なぜなら、この一本一本には勇者が使う聖剣と同じ、聖なる力が詰まっているからだ。
「これなら……勝てるッ‼ 【闇の衣】を貫くことができる‼」
「ウソだろ、オイ‼」
前半ともかく、後半は小学生の悪ノリみたいな装備だぞ!?
そんなもので貫かれる【闇の衣】の身になってほしい。
しかし、団長はそんな事情など知ったことはないと、聖剣(一部は違うけど雰囲気を察してください)を手に取り、再度、魔王に立ち向かった。
「いくぞ、魔王‼ 今度こそ、勝つ‼」
「くそぉぉぉぉぉ‼ そんなもので負けたら、末代までの恥だ! お前たち! この者を殺せ‼」
「しまった、団長‼」
もう恥も外聞も関係なく、部下を呼び寄せるデスキラー。
騎士たちが足止めをするも、時既に遅し。
十数人の魔族が団長に飛び掛かった。だが……
「なんの‼ 破ぁ‼」
『ぐああああああああああ!?』
団長に襲い掛かろうとした魔族は、全員、触れることすら叶わず、地面に倒れ伏した。
「な、なにが起こった!?」
「か、身体が、重い……!?」
「押しつぶされそうだ……‼」
「ぐえええええええ‼」
突然の出来事におののくデスキラー。
部下たちはつぶれたカエルのような悲鳴を上げて、起き上がることすらできなくなっている。
「ま、まさか、これは【重力操作の魔術】なのか!?」
この男、まさか魔導剣士、それも高レベルの魔術が使えるのかと、デスキラーは青ざめる。
しかし、団長は首を振ると、この力の正体を口にした。
「これは、私の――騎士団長に課された重圧だ‼」
そう。これは騎士団長の責任の重さが具現化したものだった。
騎士団長と聞こえはいいが、実際は中間管理職。
上には振り回され、下からは突き上げられる、苦労の絶えない役職なのだ。
その重圧を初代神子の力で操作できるようになったのだ。
「くっ! なんて責任の重さなんだ!」
「俺みたいな新米じゃ、意識を保つので精いっぱいだ……‼」
「いや、どういうことなの!?」
「重圧って操れるもんなの!?」と混乱するデスキラー。
そのツッコミの隙を突き、団長は猛攻を仕掛けてきた。
「喰らえ! 音の聖剣“リコーダー”‼」
「ぐぼぉ!?」
音速で放たれた縦笛の突きをもろに喰らい、吹き飛ばされるデスキラー。
しかし、これで終わりではない‼
「まだまだ行くぞ! 測量聖剣“定規”‼」
「ぐべす!?」
「雨の聖剣“アンブレラ”‼」
「傘だろうが! がぺっ‼」
「騎士道の聖剣! “ソコラヘンノボウ”‼」
「だから、そこら辺の棒だろうがばばばばばばば!?」
ツッコミが追いつかないまま、切り刻まれるデスキラー。
さらに、周囲もまた、決着がついたようだ。
騎士団員たちの決死の戦いで幹部たちは、一人、また一人と倒されていく。
「喰らえ‼」「トドメだ‼」「王手飛車取り‼」
「「「ぎゃああああああああああああああ‼」」」
そして、遂に【闇の衣】も消滅した。
「さぁ! お前の負けだ! 降参しろ‼ デスキラー‼」
「く、くそぉ……人間如きに……‼」
リコーダーを突きつけられ、最早、絶体絶命の窮地に立たされるデスキラー。
最早、魔王としての威厳はゼロである。
「このまま負けを認めて、軍を撤退させろ! 王国に手を出すな!」
「こ……小癪なぁぁぁぁぁ‼」
勝ちを確信した団長に対し、デスキラーは激昂。
残った魔力を振り絞り、天井を破壊すると、飛び出した。
「に、逃げる気か‼」
「逃げる!? 違うな‼」
瓦礫の雨をなんとかしのぐ団長と団員達を尻目に、デスキラーは十分距離を確保すると、空中から魔術による攻撃を放ってきた。
「最初からこうするべきだった! 脆弱な人間は魔術なしでは空を飛べん! ここからなら一方的に嬲り殺しにできる‼」
【闇の衣】があれば防御面も完璧だったが、もう遅い。
だが、それでも魔術による防御は並の魔術師では突破できない。
その上、相手は騎士団。まず、魔術は使えないだろう。
「まぁ、念には念を入れて……さっさと始末するか‼ 喰らえ【黒の流星】‼」
デスキラーの右手から、無数の黒き光弾が、騎士団目掛けて放たれる。
騎士団の方は防ぐ手段がなく、このままでは全滅は免れない。
そう思った矢先、一つの黒い影が立ちふさがり――
「!? な、なんだとぉぉぉぉぉ‼」
凄まじい剣技で【黒の流星】をすべて、剣で叩き落した。
「な、貴様は……‼」
突如現れた、黒い影。その正体は騎士団長もよく知っている者であった。
「ヒヒン」
――彼の愛馬だった。
「ウソやろ?」
自慢の魔術を人間どころか馬に防がれ唖然とするデスキラー。
って言うか、どうやって剣を持ってるの?
「お前、なぜここに!?」
「ヒヒン‼(訳:水臭いぜ旦那! 俺っちを置いてくなんて、今まで一緒に戦ってきた仲だっていうのに!)」
驚く騎士団長に、粋な態度で応える愛馬。
彼もまた、初代神子により戦う力を与えられたのだ。
その心意気を感じ取り、騎士団長は再度立ち上がる。
「ふっ、お前が来てくれれば、百人力だ……‼」
「ヒヒン(訳:ブチかましてやりましょうぜ‼)」
そう言って、団長は剣の中から一際大きく、豪勢な剣を手に取り、馬と並び立つ。
そして愛馬もまた、二足歩行のまま剣を構え、構える。
共に苦楽を乗り越えた愛馬にとって、主の剣技を習得することなど造作もないのだ。
「お、おのれぇぇぇぇぇぇぇぇ‼ 馬如きにぃぃぃぃぃぃ‼」
最早、なりふり構わずデスキラーは【嘆きの太陽】を放とうとする。その瞬間――
「なっ!?」
背後から、何者かの不意打ちを受けた。
振り返るもそこには誰もいる筈がない。
一体、どこから? 誰が!?
その隙を見逃さず、騎士団長と愛馬は必殺の一撃を放つ‼
「喰らえ‼ 聖剣“
「し、しまったぁぁぁぁぁぁ!?」
聖剣から放たれた極光の斬撃をモロに喰らい、真っ二つにされたデスキラー。
そのまま、彼の骸は地面に落ち、血染めの花を咲かせた。
「やった……‼ 勝ったぞぉぉぉぉぉぉ‼」
最後の一撃を決め、騎士団は歓声を上げる。
「俺たち、勝ったんだぁぁぁぁぁ‼」
「魔王を倒したぞぉぉぉぉぉ‼」
「やった……やったぁぁぁぁぁぁ‼」
勝利の雄叫びを上げる騎士団。
作戦を終え、団長は一息吐くと、四足歩行に戻った愛馬を優しくなでた。
そして、デスキラーが浮いていた場所――それよりも遥か遠くを見つめる。
「あの時、本当に魔王を討ったのは……」
自分よりも早く、魔王に攻撃を仕掛けた者の正体に想いを馳せる。
しかし、今は考えてもしょうがないと思ったのか、思考を振り払い、仲間たちと勝利を喜ぶのだった。
「まったく、今はあんな雑魚でも魔王を名乗れるんだな。世も末だ」
不満そうな表情を浮かべ、デスキラーを討った存在はため息を吐いた。
一見するとエルフ族の少年にしか見えない彼はしかし、見るものが見れば分かるだろう。その“異常”とも言える魔力の多さに。
「しかし、“
切欠は初代神子だろうが、その力の余波で目覚めた今の時代の人間に、少年エルフは興味を抱き、笑みを浮かべる。
「とは言え、連中が暴れるには邪魔者が多すぎるな……」
先ほど仕留めるのに手を貸した
人間の国も同じだ。初代神子の魂を目覚めさせるほどのバカが上に立ち、自分から危機的状況に陥っている。
「まぁ、いいさ。しばらくは昔のよしみで手を貸してやる」
そう言って少年エルフは、指を鳴らす。瞬間、空間に波紋が浮かぶ。
空間転移の魔術である。
「とりあえず、
今の時代なら、きっと面白い奴と会えそうだ。
まだ見ぬ存在との出会いに胸を躍らせながら、エルフの少年はその場を後にした。
数日後、王国と魔王軍の漁夫の利を狙っていたハイエルフの王国は、謎の大火災・大洪水・大震災により、国土の三割を失うと言う、壊滅的な被害を受けることになる。
同じ頃、ハイエルフの間でこんな噂が流れるようになった。
「追放したはずの初代賢者が帰って来た」と。
さらに、その半年後。
ザマーサレル王国は滅亡した。
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