【5】魔王軍の侵略・その2
都市中に轟音が鳴り響く。
四天王・オーガキングと魚屋・マサの戦いは苛烈さを増していた。
「ぬうううううん‼」
「はぁぁぁぁぁぁ‼」
オーガキングの魔剣とマサのカツオが打ち合う。
数多の戦場で生き血を吸ってきた魔剣と、今日出荷されたばかりのカツオ。
通常ならば、カツオごとマサも捌かれてもおかしくないのだが、マサは今も尚健在だった。
「くぅ……ッ‼ 流石は天然もの‼ 生きが良いッ‼」
「当たり前だ! こいつは俺だけじゃねぇ! こいつを釣り上げた漁師の想いも背負ってんだ‼」
魔剣と鍔迫り合いが出来るカツオの強度の秘密。
それは、釣り上げた漁師の想いも込められていたからであった。
脂だけではない。このカツオには漁師の魂ものっているのだ‼
「だが、所詮は魚! 刃物に敵う理屈はない‼ でやあああああ‼」
「魚ッ!?」
魔剣から放たれた斬撃が、遂にカツオを真っ二つにする。
何度も刃を交えたことで鮮度が下がり、さらに、捌き方のコツを見出したのだ。
注:このカツオは後でおいしくいただきました。
獲物を失い、一転して窮地に立たされるマサ。
しかし、彼は不敵に笑うとオーガキングの懐に飛び込み、掌底を叩き込む。
そして――ッ‼
「マグロ‼」
「なにッ!? ぐおおおおおおおおおお!?」
手の平から魔法陣が展開されたと同時に、召喚されたのは、これまた生きのいいマグロであった。
一流の魚屋は常に、新鮮な魚を用意してできるように創意工夫を凝らしている。
この召喚術もその一環なのだ。
「ぬぅぅぅぅぅん‼」
マグロの最大泳動速度時速90km。魚の中でも最高速度である。
たまらず、住宅の壁に叩きつけられるオーガキング。
その隙を見逃さず、マサはさらに攻撃を放つ。
「サンマ‼」
「クッ‼」
まるでマシンガンのように放たれるそれは、サンマ。
トビウオの如く飛んでくるそれは、刺されば致命傷は免れない。
さらに‼
「フグッ‼」
周囲に無数のフグを召喚。フグたちはマサの号令の下、体を膨らませると、体内の猛毒を一斉掃射する。
「舐めるなぁ‼」
オーガキングは魔剣を高速で振り回す。
それにより生まれた風圧でサンマは全て、はじき返され、フグ毒も霧散する。
注:サンマとフグは後で美味しくいただきました。
「やるなっ‼」
「貴様もな‼ フンッ‼」
「おっと、そうはいかねぇ! エラ〇呼吸! 三ノ型! 昇“鮭”拳ッ‼」
跳躍し、一瞬にして間合いを詰めるオーガキングに対し、マサは遡上する鮭を思わせる対空技で迎撃する。
一流の魚屋たるもの、あらゆる魚の特性を理解し、その動きをものとしているのだ。
「ぬるいッ‼ 破ぁ‼」
「くっ! アワビ‼ ホタテ‼ サザエ‼」
しかし、それを読んでいたオーガキングは空中で体をひねり躱し、逆にマサを魔剣の腹の部分で殴り飛ばす。
マサは貝類を召喚しガードするも、衝撃を殺しきれず地面に叩きつけられてしまう。
「死ねぇ‼」
「くっ‼」
さらにオーガキングは横たわるマサをくし刺しにしようと全体重を乗せた突きを放つ。
しかし、マサは間一髪のところで躱し距離を取る。
注:貝類は後で美味しくいただきました。
「くくく……やるではないか、マサとやら。魚屋にしておくのは勿体ない」
「あんたも、悪党の手先にしておくのは勿体ないぜ……‼」
間合いを取り、隙を伺う二人の漢。
お互いに満身創痍。恐らく、次の一撃で勝負は決まるだろう。
ならば、その一撃に全力をかけるのみ。
「いくぞ」
「来な、返り討ちにしてやるぜ」
瞬間、オーガキングは全力で大地を蹴った。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」
全身全霊を込めた、渾身の斬撃。
黒鉄の砲弾と化したオーガキングの魂に応えるべく、マサも全魔力を込め、迎え撃つ。
「エラ〇呼吸! 終式‼ カジキ・零式‼」
マサの背後に荒ぶる海の中を泳ぐ、カジキマグロを模した闘気が浮かぶ。
その闘気を右手に纏わせ、マサの必殺の突きが繰り出された。
「「おおおおおおおおおおおおおおおおッ‼」」
互いの魂・誇り・信念、様々な想いが込められた渾身の一撃が交差する。
己の放てる最大の奥義の激突。
周囲を静寂が支配する中、最初に膝をついたのはマサだった。
「くっ……流石、四天王……やるじゃねぇか……」
そのまま、マサはうつぶせに倒れる。
立っているのはオーガキング。
周囲の魔族たちは、オーガキングの勝利を確信した。しかし――
「誇れ、貴様はこのオーガキングに勝った漢だ……‼」
瞬間、オーガキングは仰向けに倒れる。
その瞳からは徐々に光が失われていき、最後にはなにも映さなくなった。
胸にはマサの渾身の突きによってできた傷。
そう、勝ったのはマサだったのだ。
「最後に、よき強者と死合えるとは……我が生涯に……悔いは……ない……」
満足げに呟き、笑みを浮かべるとオーガキングはそのまま、事切れた。
漢と漢のぶつかり合いを制したのは、街を護るべく、立ち上がった
その壮絶な死闘を、水晶越しに見ていた魔王・デスキラーはポツリとつぶやいた。
「ツッコミが追いつかない」と。
――いや、本当になんなのこれ? 俺はなにを見せられているの!?
理解不能、意味不明な戦いを見せられ、混乱する魔王。
全状態異常無効のはずなのに、精神攻撃を受けている感覚に陥る。
「って言うか、なんなの、あの魚屋!? なんで魚屋が召喚術マスターしてるの!? なんでフグが口から猛毒吐けるようになってんの!? って言うかエラ〇呼吸ってなに!? 〇で隠せてると思ってんの!?」
今まで追いつかなかったツッコミを、一気に吐き出すデスキラー。
遂にはキャラ崩壊までする始末である。
「お、落ち着け! 所詮、オーガキングは四天王最弱! 成り上がりの下等種族だ! 他の連中はこのようには……」
そこでようやく、気づいてしまった。
伝令の兵士があからさまに、目を背けていることに。
魔王が見ているにも関わらず、頑なに目を合わせようとしないことに。
「……ひょっとして、他の連中も?」
「一般人相手に苦戦しているのか?」
そこまで言いかけて、止めるも、もう遅い。
伝令は気まずい表情を浮かべたまま、沈黙。
なんの返答もなく、ただただ、俯く。
魔王の予感は当たっていたのだ。
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