【2】燃える村・その2


「ほわったぁ‼」

「ギャイン!?」


 村長改め、村超の鉄拳が唸り、黒い狼のような魔物・ブラックウルフがまた一体、宙を舞った。


「身体が軽いッ‼」

「ギャウン‼」


 背後から襲いかかる個体も、蹴り飛ばし、数体まとめてKOする。

 かつて、村超は冒険者を目指していた。しかし、剣の才能がないことと、先代が盗賊と相打ちになり亡くなったことで、その夢を断念せざる負えなくなった。

 それでも、もしもの時に備えて通信空手を習っていて良かった。

 剣の才は無くても拳の才は多少なりとも持っていたようだ。

 先ほどから夥しい数の魔物に襲われているが、なんとか捌けている。


「なにより今は神子様の与えてくださった力がある! これならばもう、恐れることはない‼」


 みんなが逃げ切れるまでの時間も稼げるだろう。

 そう思った瞬間、僅かな隙が生まれてしまった。


「ガルルルルルッ‼」

「しまった!?」


 その隙を突いた一体のブラックウルフが、村超の脇腹に噛みついた。

「ぐぁっ……‼」と低いうめき声が漏れる。

 さらに、それを皮切りに複数のブラックウルフが村超に襲い掛かる。


「ぬあぁぁぁぁぁ‼」


 脇腹に噛みついた一頭を無理やり引きはがし、そいつを振り回し、群れを薙ぎ払う。

 しかし、傷は思ったよりも深いようだ。

 たまらず膝を着いた村超。すると、さらに追い打ちをかけるように、新たなる魔物の群れが姿を現した。


「クリムゾンベア……ッ‼」


 名の通り紅蓮の毛皮を持つ巨大な熊の魔物が集団で、こちらに近づいてくる。

 ブラックウルフなど足元にも及ばない、凶悪な魔物を前に村超は、死を覚悟しながらも構えを取るのだった。


「おい……村超大丈夫かな?」

「いや、そうはいっても、俺たちじゃどうにもならないぞ……」


 人間離れした戦いぶりに唖然とし、これなら自分たちは逃げられるだろうと思っていた村人たちも、次々と沸いて出る魔物たちに、次第に押され始めた村超を見て、不安にかられる。

 このままでは不味いのではないのか?

 そう思った矢先、一人の少年が教会から飛び出そうとしていた。


「待て! 坊主! どこに行くんだ‼」

「外は危ないんだぞ‼」

「離してよ! 村超を助けなきゃ‼」


 村の男に取り押さえられる少年。どうやら、無謀にも村超を助けに行く気らしい。


「お前みたいな子供に、なにが出来る!?」

「ガキは大人しくしてろ‼ 迷惑をかけるな‼」


 大人たちは少年を怒鳴りつける。

 他の村人たちも「この非常事態になにを言っているんだ」「これだから子供は……」と叱りつける。

 しかし、それでも少年は怯まず、言い返した。


「でも! 村超は村の為に戦っているんだよ‼ 僕たちを助けるために戦ってるんだよ‼」

「-―ッ‼」


 今にも泣きだしそうな顔で、しかし、恐怖を堪え、必死に訴える少年に大人たちは黙りこくる。


 分かっているのだ。

 少年が一番正しいと言うことを。

 しかし、戦おうにも、自分たちには村超のような勇気はない。

 故に、邪魔にならぬように逃げるしかないのだ。

 そう、自身に言い聞かせる大人たち。


「おい、坊主! そいつらの言う通りだ‼ ガキは大人しくしてろ!」


 すると、一人の青年が村人をかき分け、少年に話しかけてきた。

 村一番のお調子者・ライアンである。


「お前みたいなガキが行っても、魔物に食われるのがオチだ。それが嫌なら大人しくしてるんだ」

「で、でも……村超が……」


 ライアンに諭され、自分の無力さを噛みしめる少年。

 だが、ライアンはそんな少年の頭をポンと叩き……


「――そう言うことは大人の仕事だ‼」


 ニヒルに笑い、棍棒を握りしめた。


「まさかライアン! お前、村超を助けに行く気か!?」

「無理だ! 自殺しに行くようなもんだぞ‼」


 慌てて村人たちが止めに入るも、ライアンはへらへら笑いながら「大丈夫!」とサムズアップ。


「あの村超があそこまで戦えてるんだぜ? 魔物なんてチョロいって! それによ、なんだかんだ言って、村超にはガキの頃から、散々世話になってたからな、見捨てたらかわいそうだろ?」

「ら、ライアン……‼」

「だから、そんな顔すんなって。大丈夫! ホントにヤバくなったら、村超連れて逃げてくるからよ!」


 そう言うライアンだが、その膝は笑っていた。

 ライアンも怖いのだ。だが、恐怖に耐え、戦おうとしているのだ。

 そんな彼の姿に感化されるように、村の若者たち数名が武器を持って前に出た。


「お、俺も行くよ‼ ここは俺たちの村だよ‼」

「ジョ、ジョン‼」


 震えながらも鍬を携え、前に出たのは村の好青年・ジョンであった。

 さらに、椅子を持ち上げたおさげの少女・斧を担いだ大柄な青年・魔導書を手にした眼鏡の青年も前に出た。


「あたしも行くわ! アンタたち二人じゃ頼りないしね‼」

「村一番のお転婆娘、リタ‼」

「俺も行こう……こう言う時こそ、俺の力の見せ所だ‼」

「村の力自慢、ゴンザレス‼」

「ふん……勝算はあるんでしょうね?」

「村一番の秀才、キール‼」


 恐怖を堪え、それでも村を守ろうと戦おうと立ち上がった若者たち。

 そんな彼らの勇気に応えるように初代神子は奇跡を起こす。


『ならば、力を授けましょう』


 瞬間、五人の身体が輝きだした。

 ライアンは皆を代表して「ありがとうよ、こいつがあれば百人力だぜ……」と礼を言う。


「よっしゃ! みんな! 村超を助けるぞ‼」

『応ッ!』

『破ァッ‼』


 そして、五人は高く跳躍すると、屋根を突き破り村超の下へと向かった。


「だから、屋根壊すなッ‼」


 ……背後で神父さんが泣いてるが、緊急事態だ。

 仕方ない。

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