搗きたておモチ、チョーキングクライシスッ!!
加賀山かがり
モチチョーキングクライシス
「ソイヤッ!! ソイヤサッ!!」
「ハッ!! ハッ!!」
ペッタンペッタン、ペッタンコ。
新年の良くある光景。
臼と杵で、合いの手を入れつつモチを
「ソイヤッ!! ソイヤサッ!! ア、ソレッ!!」
「ホッ!! ハッ!! ヨッ!!」
リズムよく、景気よく、音とモチが跳ねる!!
「ヘイ!! お待ちっ!!」
そして、ほっかほかの搗きたてモチが出来上がる。
もっちりほかほかでもち米の甘い匂いが香る極上のおモチ。
「ふぉふぉふぉ、やっぱり新年はこれじゃなっ!!」
出来たてのモチに特製きな粉を振ったきな粉モチを、じっさまが大口を開けてかぶりつくっ!!
「んっ……!! んんんんんっ!? ――――ッ!?!?!?!?」
一瞬だった。
口に入れたその瞬間に、にゅるりんっとモチが喉の奥まで流れ込んでしまった。
じっさまはそんなつもりはなかったのだ。そんなつもりはなかったけれど、年齢を重ねて弱った咬合力と咀嚼力では流動的な動きをするモチを口の中でコントロール出来なかった!!
加齢!!
そう、加齢による肉体の衰えがモチを食べる人を死に至らしめることになる!!
「おっ!! おいっ!! じいさん大丈夫か!?」
「お、ぉぉぉぉ……!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
じっさまはパニックに陥っていた。
突然喉が塞がれる感覚と、口の中のモチをどうすればいいのか分からない虚無感。その二つが、じっさまの心を塗りつぶして、ただ喉元を掻くくらいのことしか出来なくさせてしまう!!
「ハッー、ハッハッハッハッハ!!!!」
その時、高らかなる笑い声が響いた!!
誰にでも分かる、誰にでも聞こえる、誰にでも驚かれる、高笑い。
それは強烈で、人々の心に強く焼き付く笑い声だった。
「あっ!! アレは……!!」
「なっ、なんだ!? オマエアイツが何者か知っているのか?!」
モチを
「お前……、むしろこの業界にいるのになんで知らねーんだよ……?」
「いやー、ニュースとか全然見ねーもんでよぉ」
モチ
「まあ知らねーなら教えてやるよ!! あの人は、いやあのお方は……!! 人がモチをのどに詰まらせたときにどこからともなくやってくる、モチ詰まりの救世主……!! 人呼んで――!!」
「人呼んで、モチインヘイター、ガッペイ!!」
高笑いをしていた男が、杵を握っている方のモチつき人の言葉を勝手に引き継いで宣言する!!
「モチインヘイター、ガッペイ!?」
ぴょーんと彼は飛び降りて、モチをのどに詰まらせたじっさまの前へと腕を組んだままの状態でむんづと立つ。
「――――!!」
モチをのどに詰まらせているじっさまは何も言わずにただ涙目でモチインヘイターを見ることしか出来なかった。
しゅばっ!! とモチインヘイターを名乗る真っ赤なタイツに真っ赤なマスクの男が両手を広げた。
するとその手にはいつの間にやらハンディ掃除機が握られているではないか!!
その早業にじっさまの目が皿になった。
そして有無を言わさぬ早業は続く!!
ガッ!! と顔を近づけて、ガッ!! と顎を掴むと、ガッ!! と開かせて、ハンディ掃除機の先端をじっさまの喉の奥へと叩きこむ!!
「――――っ!!!?」
苦しみもがくじっさまは皿になった眼を白黒させる。
自分が今何をされているのか全く理解が追い付かないのだ!!
ブゥーン!!
ハンディ掃除機のスイッチが入れられ無情な吸引音が響き渡る!!
ゴッ!! ゴゴゴゴゴッ!!
バフゥッ!!
ハンディ掃除機がじっさまの喉の奥に詰まっていたモチを吸引して取り出した!!
「ほ、ほげぇ……、し、死ぬかと思ったわい……」
モチインヘイターの握るハンディ掃除機の先端に吸引されたモチが張り付いている!!
彼がそのままハンディ掃除機を高らかに掲げるとどろーっとじっさまの唾液が垂れた!!
モチインヘイターはちょっとだけ眉をひそめて、腰に付けた小さなビニール袋に吸引したモチをそっと入れ、近くのごみ箱へと放り投げる!!
「アデウス!!」
そして、高らかに声を上げて、軽く手を振って、どこかへと去って行った。
ありがとうっ、モチインヘイター!!
頑張れっ、モチインヘイター!!
モチに殺される人を助けるのだ!!
「ハーッァ、ハッハッハッハッハッハッハ!!!!」
モチは世界中で流行の兆しを見せている!!
来年には世界に広まったモチが、グローバルに人々の喉を詰まらせるだろう!!
負けるなっ、モチインヘイター!!
戦えっ、モチインヘイター!!
モチをのどに詰まらせている人を助けて人々が幸福にモチを食べられる世界が出来るその時まで、戦い続けろモチインヘイター!!
完!!
搗きたておモチ、チョーキングクライシスッ!! 加賀山かがり @kagayamakagari
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます