第32話 1月29日 1ヶ月と数日遅れの誕生日会

1月29日

 

 何もかもが初めてで、この気持ちをどう伝えたらいいのか分からない。うまく伝えれるのか分からない。 

 それでもこの気持ちを伝えたい。

 好きだから。 


「そろそろ来ますかね」

「5回目。川崎が私にそれを聞いてきたの。今ので5回目。数分おきに聞いてるわよ」

「すみません」

「少し落ち着きなさい」


 月城先輩は俺に深呼吸をするように促した。

 思いっきり息を吐いて、目一杯吸い込んだ。

 

「私が保証してあげる。絶対に大丈夫」

「それは心強いですね」

「川崎はただ自分の気持ちをまっすぐ澪先輩に伝えればいいのよ。その気持ちは澪先輩にかならず届くから」


 背中をポンと叩いて勇気を注入してくれた月城先輩。

 さすがは龍一先輩の許嫁だ。 

 月城先輩の言葉は俺の中の不安を吹き飛ばしてくれた。


「澪、店の前に着いたみたいよ。中に入ってって送るけどいい?」

「はい。大丈夫です」


 俺は真っ直ぐ月森さんの目を見て頷いた。

 月森さんもまた、俺の目を真っ直ぐに見つめ返し優しく微笑むと、スマホを操作し白星さんにメッセージを送った。

 数秒もしないうちに白星さんはお店の中に入ってきた。

 今、お店の中にいるのは俺と店主の月森さんと月城先輩だけだった。

 今日は無理を言ってお店は定休日にしてもらっていた。


「みんな集まってどうした・・・・・・」

「誕生日おめでとうございます!」


 俺はそう言って白星さんに向けてクラッカーを鳴らした。

 続いて2人も「おめでとう。2回目だけど」「おめでとうございます。2回目ですけど」とクラッカーを鳴らした。


「え、え、どういうこと!?」


 当然の反応。

 白星さんは驚いた表情で俺たちのことを見ていた。

 

「とりあえず説明求む、なんだけど!?」

「それは川崎君がしてくれるって」


 まぁ、そうだよな。

 この会を開きたいといったのは俺だ。

 2人はそれに協力してくれているだけ。 

 俺の口から説明するのが筋ってもんだよな。


「正彦君? 説明してくれるよね?」

「しないわけにはいきませんよね。実はですね。今日は白星さんの誕生日会です」

「え? ちょっと待って、私の誕生日って先月だよ?」

「知ってますよ。だから、1ヶ月と数十日遅れの誕生日会ってことになりますね」


 ニコッと白星さんに笑顔を向けた。


「……」

「白星さん?」

「正彦君~!」


 白星さんはその亜栗色の瞳に涙を浮かべながら俺に向かって走ってきて、がばっと抱き着いていた。


「し、白星さん!?」

「誕生日を祝ってくれるなんて嬉しすぎるんだけど!」

「1ヶ月遅れですけどね」

「それでもいいよ! 祝ってくれるなんて思ってなかったんだから!」


 俺のことを見上げた白星さんは嬉しそうに笑っていた。

 泣き笑い。

 可愛すぎかよ!

 

「ねぇ! いつからこの計画を考えてくれてたの!?」

「そ、それは……」

「てか、私の誕生部覚えててくれてたんだね!」

 

 白星さんの勢いに圧倒されてしまう。

 2人に助けを求めると苦笑いを浮かべて助け舟を出してくれた。


「澪、少し落ち着きなさい。川崎君が困ってるわよ」

「無理無理! 嬉しすぎて落ち着いてなんていられない!」

「澪先輩。喜ぶのはまだ早いですよ。今日はとっておきのサプライズが川崎からあるみたいなので」

「え~!!!!!!!!!!」


 白星さんの歓喜の声がお店の中に響き渡った。


「美弥妃ちゃん。それ言ってよかったの?」

「いいんですよ。これで川崎は逃げられなくなったんですから」


 月城先輩は小悪魔な笑みを浮かべて俺のことを見た。

 あの人何言ってんだよ!?

 どうやら月城先輩が出したのは助け舟ではなく、後戻りのできない一方通行しかできない舟だったようだ。



☆☆☆

 

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